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第三音
第三音④
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琴音は何か乗り物に乗る気力も湧かなかったため、遊園地の中にあるフードコートの一席に座ってボーッとすることにした。席に着いてすぐに、スマートフォンでSNSをチェックしたものの、そんな時間つぶしは一瞬で終わってしまう。これから先、何時間も帰りのバスまでの時間、こうして一人でいるのかと思うと、琴音は気が滅入ってきてしまうのだった。
「ねぇねぇ、見て、あの子……」
「うわぁ~……、見事にボッチ、極めてんね~……」
「ねー……」
お昼の時間が近くなってくると、琴音の座っているフードコートの周りも生徒たちが少しずつ集まってくる。それは鈴の班も例外ではなく、お昼の混む時間を避けるために少し早くフードコートへとやって来ていた。
そこで鈴の班にいる女子の一人が、フードコート内でぽつんと座っている琴音を指さしてコソコソと他の女子へと耳打ちする。二人は琴音に哀れんだ視線を向けた。鈴もそんな二人につられてその視線の先に目をやり、自身の目を大きく見開いた。
「あれ、琴音じゃん」
「何? 知り合い? 鈴」
「うん。ウチのバンドメンバー。なんでこんなところに一人で?」
疑問に思った鈴が琴音の元へと駆けつけようとしたときだ。人が多くなってきたのを気にした琴音は今まで座っていた席を立ち、人混みの中、どこかへ行こうとする。鈴はあっ、と声を上げると、
「ごめん! 私、ここで抜けるわ!」
そう自分の班の子たちに告げると、琴音の歩いて行く方向へと駆け出した。
「琴音っ! 琴音、待って!」
フードコートから移動しようとした琴音は、耳慣れた声に呼び止められた。まさか、と思いつつ振り返った琴音の目に鈴の姿が飛び込んでくる。琴音が驚いて立っていると、鈴は人波をかき分けて琴音の元へとやって来た。
「良かった、追いついた……」
「鈴ちゃん? どうして……」
「それはこっちの台詞! 琴音、どうして一人なの? 班の子たちは?」
「えっと……」
鈴の疑問の声に琴音は言いよどんでしまう。それを見た鈴は今までの琴音のよそよそしい態度を思い出したのだった。鈴は琴音の手を取ると、
「理由、話してくれるよね?」
その鈴からの圧力に、琴音は観念するしかなかった。ぎこちなく頷いた琴音を見た鈴は、そのまま琴音の手を引いて近くのベンチへと座る。
「それで? 琴音。一体、琴音に何が起きているの?」
「それは……」
琴音は一瞬だけ迷うような素振りを見せたものの、意を決して四月から今日までの出来事を話し出した。
始めは一部の女子だけだった琴音を無視するグループは、六月までにその規模を拡大し、今ではクラス中の女子が琴音のことを無視するに至った。その中にはやはり、自分も琴音と同じように目をつけられクラスに居場所がなくなることを恐れた女子たちもいるのだった。
そんな話を聞いていた鈴の中には、ふつふつと静かな怒りが込み上げてきた。
「琴音のその状況、まさか、先生が知らないわけないよね?」
「分からない。先生に何か言われたこと、ないから……」
「はぁ? 先生もふぬけかっ!」
琴音の言葉にすずは思わず声を荒らげてしまう。見て見ぬ振りをし、我、関せずの態度を取っている琴音のクラスの男子たちにも鈴は腹が立つ。しかしそれ以上に、そんな状況のクラスを放置している琴音の、担任の先生のふがいなさに腹が立った。
「大人でしょっ? 子供が困っていたら、助けてくれるのが大人じゃないのっ?」
憤慨する鈴の様子に琴音は苦笑してしまう。
(鈴ちゃんは、やっぱり鈴ちゃんだなぁ……)
そう思った琴音はなんだか嬉しくなってしまうのだった。しかし鈴は苦笑いを浮かべる琴音へ、
「琴音もヘラヘラしないで! ここは怒っていいところだよ!」
「私の代わりに鈴ちゃんが怒ってくれているから。ありがとう、鈴ちゃん」
「お礼を言って欲しいわけじゃなーいっ!」
鈴は完全に頭に血が上ってしまった。琴音のことを無視しているクラスの女子たち全員を殴り飛ばしたい衝動に駆られる。しかしそれは根本的な解決にはならないし、何より琴音が望んでいない。そんなことは血の上った頭でも分かることだった。
(どうしたものかなぁ……)
琴音が自分と同じように、喧嘩になってでもはっきりとものが言えていれば、あるいはこんな展開は避けられたのかもしれない。しかしそれは、琴音の長所を一つ、殺してしまうことになる。
(あー……、殴りたい。私が殴って、全部解決すればいいのに……)
むー……、と押し黙ってしまった鈴に琴音は、ごめんね、と謝ってきた。驚いて顔を向けた鈴に琴音が続ける。
「こんなこと、話されても鈴ちゃんだって困っちゃうよね。本当、ごめんね」
「琴音、その考えは違うよ。間違ってる」
「え?」
いつになく真剣な鈴の声音に琴音が顔を上げる。すると声音と同じくらい真剣な鈴の視線と目が合った。鈴はそんな琴音の目から視線を外すことなく言う。
「言ったでしょ? 私は琴音の味方だって。仲間が悩んでいることに、一緒に悩んで頭をひねるのが、味方のすることだよ」
だから、謝らないで欲しいと鈴は訴える。その言葉を聞いた琴音の目が大きく見開かれた。鈴は言葉を続ける。
「ねぇねぇ、見て、あの子……」
「うわぁ~……、見事にボッチ、極めてんね~……」
「ねー……」
お昼の時間が近くなってくると、琴音の座っているフードコートの周りも生徒たちが少しずつ集まってくる。それは鈴の班も例外ではなく、お昼の混む時間を避けるために少し早くフードコートへとやって来ていた。
そこで鈴の班にいる女子の一人が、フードコート内でぽつんと座っている琴音を指さしてコソコソと他の女子へと耳打ちする。二人は琴音に哀れんだ視線を向けた。鈴もそんな二人につられてその視線の先に目をやり、自身の目を大きく見開いた。
「あれ、琴音じゃん」
「何? 知り合い? 鈴」
「うん。ウチのバンドメンバー。なんでこんなところに一人で?」
疑問に思った鈴が琴音の元へと駆けつけようとしたときだ。人が多くなってきたのを気にした琴音は今まで座っていた席を立ち、人混みの中、どこかへ行こうとする。鈴はあっ、と声を上げると、
「ごめん! 私、ここで抜けるわ!」
そう自分の班の子たちに告げると、琴音の歩いて行く方向へと駆け出した。
「琴音っ! 琴音、待って!」
フードコートから移動しようとした琴音は、耳慣れた声に呼び止められた。まさか、と思いつつ振り返った琴音の目に鈴の姿が飛び込んでくる。琴音が驚いて立っていると、鈴は人波をかき分けて琴音の元へとやって来た。
「良かった、追いついた……」
「鈴ちゃん? どうして……」
「それはこっちの台詞! 琴音、どうして一人なの? 班の子たちは?」
「えっと……」
鈴の疑問の声に琴音は言いよどんでしまう。それを見た鈴は今までの琴音のよそよそしい態度を思い出したのだった。鈴は琴音の手を取ると、
「理由、話してくれるよね?」
その鈴からの圧力に、琴音は観念するしかなかった。ぎこちなく頷いた琴音を見た鈴は、そのまま琴音の手を引いて近くのベンチへと座る。
「それで? 琴音。一体、琴音に何が起きているの?」
「それは……」
琴音は一瞬だけ迷うような素振りを見せたものの、意を決して四月から今日までの出来事を話し出した。
始めは一部の女子だけだった琴音を無視するグループは、六月までにその規模を拡大し、今ではクラス中の女子が琴音のことを無視するに至った。その中にはやはり、自分も琴音と同じように目をつけられクラスに居場所がなくなることを恐れた女子たちもいるのだった。
そんな話を聞いていた鈴の中には、ふつふつと静かな怒りが込み上げてきた。
「琴音のその状況、まさか、先生が知らないわけないよね?」
「分からない。先生に何か言われたこと、ないから……」
「はぁ? 先生もふぬけかっ!」
琴音の言葉にすずは思わず声を荒らげてしまう。見て見ぬ振りをし、我、関せずの態度を取っている琴音のクラスの男子たちにも鈴は腹が立つ。しかしそれ以上に、そんな状況のクラスを放置している琴音の、担任の先生のふがいなさに腹が立った。
「大人でしょっ? 子供が困っていたら、助けてくれるのが大人じゃないのっ?」
憤慨する鈴の様子に琴音は苦笑してしまう。
(鈴ちゃんは、やっぱり鈴ちゃんだなぁ……)
そう思った琴音はなんだか嬉しくなってしまうのだった。しかし鈴は苦笑いを浮かべる琴音へ、
「琴音もヘラヘラしないで! ここは怒っていいところだよ!」
「私の代わりに鈴ちゃんが怒ってくれているから。ありがとう、鈴ちゃん」
「お礼を言って欲しいわけじゃなーいっ!」
鈴は完全に頭に血が上ってしまった。琴音のことを無視しているクラスの女子たち全員を殴り飛ばしたい衝動に駆られる。しかしそれは根本的な解決にはならないし、何より琴音が望んでいない。そんなことは血の上った頭でも分かることだった。
(どうしたものかなぁ……)
琴音が自分と同じように、喧嘩になってでもはっきりとものが言えていれば、あるいはこんな展開は避けられたのかもしれない。しかしそれは、琴音の長所を一つ、殺してしまうことになる。
(あー……、殴りたい。私が殴って、全部解決すればいいのに……)
むー……、と押し黙ってしまった鈴に琴音は、ごめんね、と謝ってきた。驚いて顔を向けた鈴に琴音が続ける。
「こんなこと、話されても鈴ちゃんだって困っちゃうよね。本当、ごめんね」
「琴音、その考えは違うよ。間違ってる」
「え?」
いつになく真剣な鈴の声音に琴音が顔を上げる。すると声音と同じくらい真剣な鈴の視線と目が合った。鈴はそんな琴音の目から視線を外すことなく言う。
「言ったでしょ? 私は琴音の味方だって。仲間が悩んでいることに、一緒に悩んで頭をひねるのが、味方のすることだよ」
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