The Three Sounds

彩女莉瑠

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第二音

第二音①

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 初めてのライブ生配信を成功させた日の夜。
 鈴のスマートフォンが一件の通知を知らせた。自室でのんびりと過ごしていた鈴はその通知の内容を確認する。

(ダイレクトメール?)

 それは鈴が利用しているSNSの機能の一つで、個別にやり取りが出来るダイレクトメールの着信だった。差出人の名前はどこかの企業名のようだ。

(なんだ、ただの迷惑メールか)

 鈴はそう思ったのだが、何が書かれているのか中身が気になり、そのメールの中身を開いた。そこには丁寧な文章で長文がしたたまれていた。

(なになに? 代表取締役社長の『尾形健悟《おがたけんご》』……?)

 簡単な自己紹介から始まっていたその文章を読み進めていた鈴は次第にその目を見開いていく。
 この尾形という人物、都内にある芸能事務所の代表取締役社長を務めていると言うことだ。SNSのアカウント名はその芸能事務所の名前になっている。
 そんな尾形は今日、鈴たち『ルナティック・ガールズ』の生ライブを見たようで、大変感銘を受けたと書かれている。

(つきましては一度お目にかかり、お話が出来ればと思い、ご連絡、差し上げました……。って、えぇっ? 芸能事務所の偉い人から連絡が来たってことっ?)

 本文を読み終えた鈴は一瞬でパニックになる。自分たちが行った生ライブの思っても見なかった反応に、心臓がバクバクと脈打つのが分かる。

(これは、もしかして『ルナティック・ガールズ』のプロデビューの予感?)

 どんどんと加速していく妄想を止めるすべを鈴は知らない。鈴はすぐにこの尾形と言う人物に返信することにした。その内容は前向きだ。是非一度会って話が聞きたいというものである。
 鈴が返信を送った数分後に尾形からの返信が来る。そこには次の日曜日に東京から新幹線で鈴たちの地方へ向かう旨が綴られていた。それに対して鈴も二つ返事で最寄りの市内にある新幹線の駅を教えた。それに対して尾形は了承の返信を送ってくる。鈴たちの地元に来る時刻は昼過ぎ。

 最後に尾形は、まずは鈴とだけ会いたいと伝えてきた。
 鈴はそこで小さな疑問を抱いたが、これもチャンスの一つと捉え了承する。これで日曜に尾形と会うことになるのだった。



「で、会う約束しちゃったの?」
「うん」

 翌日の午前中、体育の授業でのこと。
 鈴はカノンに昨夜の出来事について話をしていた。クラスの違う二人だったが体育の授業は二クラス合同で行われるため、こうして話をすることが出来たのだ。ちなみに琴音も二人とはクラスが異なり、今は教室で授業を受けていることだろう。
 さて、鈴から話を聞いたカノンは心配そうな視線を鈴に投げた。今日の体育授業は陸上のため、自分たちが走る時以外は比較的に時間が余っていた。

「その尾形って人、本当に会社の代表取締役社長ってヤツなの?」
「それは間違いないみたい」

 一晩経ったこともあり、鈴はこの怪しげなダイレクトメールの差出人である尾形健悟とその会社について、自分のスマートフォンで検索をしていた。その結果、本当に芸能事務所が存在しており、その芸能事務所のホームページに記載されていた代表取締役社長の名前は尾形健悟になっていたのだ。

「へぇ~……。その事務所って知ってる芸能人、いた?」
「それが、全然知らない人ばっかりだった」

 鈴の言葉を聞いたカノンは、んーっと背伸びをすると、鈴の目を見てはっきりとこう言った。

「怪しいと思う」
「やっぱり怪しいかぁ……。でも会社の名前も自分の名前も出してるし、それって本当かもしれないし……」
「全部が嘘って可能性も考えられるっしょ」
「マジ? それはめっちゃ怖いんだけど」

 そこまで手の込んだ嘘をついて、自分に会うメリットは何だろうと考えてしまう鈴だったが、カノンはそんな鈴にこう言った。

「どちらにしろ、会うんなら何か対策を練ってからだね」

 それからカノンは自分が走るためにスタートラインに並んだ。鈴はそんなカノンを見つめながら、ぼんやりと先程までのカノンとの会話を反芻するのだった。

 午前中の授業が終わり昼食の時間になった。鈴は弁当を持つと隣の校舎にある音楽室へと向かった。隣の校舎は特別教室棟になっており、この時間になると人気ひとけがほとんどない。

 鈴は階段を最上階まで上ると廊下の先にある音楽室の扉を開けた。一人になりたいとき、鈴は良くここに来るのだった。カノンと琴音とは常に一緒に居るというわけではないのだ。
 鈴は音楽室の椅子を一脚、窓際へと持ってくると窓を開け、その場で膝の上に弁当を広げた。窓の向こう側はグラウンドになっており、既に昼食を終えた生徒の姿がちらほらと見られる。その声は鈴の居る音楽室までは届かない。

(対策、かぁ……)

 弁当の中身を口に運びながら鈴は午前中の体育の授業でカノンに言われた言葉を考えた。しかしこれと言って良い案は浮かんでこない。

(そもそも私一人に会いたいって言うのが、怪しんだよなぁ……)

 鈴が引っかかっているのはこの点だった。
 もういっそのこと、メンバーに頭を下げてついてきてもらおうか。
 そんなことを考えている時だった。



 ブーウ。ブーウ。



 鈴のポケットの中に入っているスマートフォンが震えた。鈴が何の気なしにブレザーのポケットからスマートフォンを取り出し、その通知内容を見る。そこに表示されていたのは会社名ではなく尾形健悟と言う個人名。ダイレクトメールの通知ではあったがどうやら尾形は個人のアカウントから鈴に連絡してきたようだ。
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