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第一音
第一音④
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そう言った経緯から鈴は大和への嫌悪感を隠そうともせずに昇降口の下駄箱前に立っていた。大和も鈴の理不尽とも思える敵意の理由を知った上で、平然とその視線を受けとめている。
「女子三人が顔出しで生配信して、何かあったら大変でしょ? だから俺が『ルナティック・ガールズ』を守る!」
「はぁ……」
やる気に満ちた声を上げる大和に鈴は嫌悪感を通り過ぎて呆れてくる。
「ごめん、鈴。どうしても付いていくって、大和のヤツ、聞かなくて……」
「だって、カノン! 現役女子高生が三人も生配信するんでしょっ? 変なエロオヤジとかに絡まれたら大変じゃん!」
「そう言う平野くんの方が、エロオヤジみたいなんだけど……」
「えぇっ? 心外! めっちゃ心外!」
鈴からの冷たい言葉に大和が抗議の声を上げる。そんな二人の様子を苦笑しながら見守っていた琴音がチラリとスマートフォンで時間を確認した。
「鈴ちゃん、鈴ちゃん! 大変! 時間!」
「ウソっ? 何時っ?」
鈴の言葉に琴音が自身のスマートフォンの画面を鈴の顔の前に突きつけた。それを見た鈴はげっ、とカエルが潰れたような声を上げる。それから大和へと向き直ると、
「いいっ? くれぐれも邪魔だけはしないで!」
そうはっきり言い、大和も、はーい、と軽い返事をする。それから四人は急いで昇降口を飛び出し駅への道のりを急いだ。
一学期の中間テストを終えたばかりのこの五月の頭は、日が落ちる時間が遅くなってきたとはいえ、夏の盛りに比べるとまだ少し日の出ている時間が短い。加えて音楽スタジオを借りて練習するには予約が必要で、安い時間帯を狙っての予約のため時間との勝負なのである。
更に毎週使っているこの音楽スタジオは市内にあり、最寄り駅まで電車と地下鉄を使わなければならない。学校からも地元からも少し遠いのである。加えて今日は、普段の制服での練習ではなく衣装に着替えなければならない。その上衣装がゴスロリ服であるためある程度のメイクも必須になってくる。三人が時間を気にするのはこう言った事情があったためだった。
電車と地下鉄を乗り継いで音楽スタジオからほど近い公園へとやって来た四人は、その公園のトイレへと向かった。
「大和、荷物見てて」
「おう!」
カノンの言葉に元気よく返答した大和の前に楽器の入ったケースやスクールバッグが三人分置かれていく。
それから三人の女子は衣装とメイク道具を抱えて、公園の女子トイレへと入っていくのだった。トイレに入った三人はそれぞれ個室に入ってまずは着替えを行っていく。
鈴の衣装はパニエの仕込まれた黒地に赤の小さな十字架がプリントされているミニスカートで、トップスは黒のビスチェ風になっている。その下に着るシャツは真っ白で手首のところがきゅっと絞られていた。そしてその先がトランペットのベルのように小さく広がっており、小さなレースがあしらわれていた。
カノンの衣装はシックな黒のワンピースドレスで、こちらはスカートの丈が足首まである。Aラインのドレスに白襟が付いており、十字架の小物を身につけたその姿は異国の修道女のようである。鈴と比べるとシンプルな衣装だが、不思議とカノンの美しさを引き立てていた。
琴音の衣装もワンピースドレスではあったが、こちらはカノンとは違い膝丈スカートとなっている。パニエで膨らませたスカート部分は鳥かごをイメージした黒のテープが施され、スカートの裾部分はチュール素材で透けている。腰はコルセットで締め付け、頭には黒のヴェールをつけていた。
三人がそれぞれの衣装に着替え終わった後、トイレの洗面所にてメイクを行っていく。ゴスロリ服を着た少女が三人並んで立っていると、それだけで存在感の圧力を感じるものだ。
少女たちは慣れた手つきで自らの顔にメイクをしていく。普段なら楽しくお喋りをしながら行うメイクも、今日ばかりは時間が気になり無駄口を叩く暇はなかった。
「げ、アイライン、ミスった……」
黙々とメイクをしていたとき、突然鈴が声を上げた。
「ちょっと鈴。突然声上げないで。マスカラが目に刺さった……」
「ごめん、カノン。大丈夫?」
「もう、二人ともおっちょこちょいなんだから……」
鈴とカノンのやり取りの中、一足先にメイクを終えた琴音が呆れたような声を上げる。琴音は鈴を見やると、
「鈴ちゃん、ちょっと見せて」
「うん」
それから綿棒を使って器用に鈴のアイライナーを直していく。
「よし! 出来た! 鈴ちゃん、可愛くなりました」
「ありがとう、琴音」
「私もメイク、完了」
三人共がメイクを完了し、誰からともなく自分たちのスマートフォンで時間を確認する。それからホッと胸をなで下ろした。どうやらスタジオでの生配信には間に合いそうだ。
「お待たせ、大和」
「おぉ~! カノン、シスターみたい! 鈴ちゃんも琴音ちゃんも、決まってるぅ~!」
「ありがとう、大和くん」
琴音が大和に礼を言っている間にも、鈴は自分のスクールバッグとギターケースを担ぐ。
「カノン、琴音、行こう!」
「うん」
「鈴ちゃん、俺はー?」
鈴は背後から聞こえる大和の声を無視してスタジオに向けて歩き始めた。後ろからは大和の、
「すがすがしいほどの鈴ちゃんからのスルー!」
そんな叫び声が響いていた。
「女子三人が顔出しで生配信して、何かあったら大変でしょ? だから俺が『ルナティック・ガールズ』を守る!」
「はぁ……」
やる気に満ちた声を上げる大和に鈴は嫌悪感を通り過ぎて呆れてくる。
「ごめん、鈴。どうしても付いていくって、大和のヤツ、聞かなくて……」
「だって、カノン! 現役女子高生が三人も生配信するんでしょっ? 変なエロオヤジとかに絡まれたら大変じゃん!」
「そう言う平野くんの方が、エロオヤジみたいなんだけど……」
「えぇっ? 心外! めっちゃ心外!」
鈴からの冷たい言葉に大和が抗議の声を上げる。そんな二人の様子を苦笑しながら見守っていた琴音がチラリとスマートフォンで時間を確認した。
「鈴ちゃん、鈴ちゃん! 大変! 時間!」
「ウソっ? 何時っ?」
鈴の言葉に琴音が自身のスマートフォンの画面を鈴の顔の前に突きつけた。それを見た鈴はげっ、とカエルが潰れたような声を上げる。それから大和へと向き直ると、
「いいっ? くれぐれも邪魔だけはしないで!」
そうはっきり言い、大和も、はーい、と軽い返事をする。それから四人は急いで昇降口を飛び出し駅への道のりを急いだ。
一学期の中間テストを終えたばかりのこの五月の頭は、日が落ちる時間が遅くなってきたとはいえ、夏の盛りに比べるとまだ少し日の出ている時間が短い。加えて音楽スタジオを借りて練習するには予約が必要で、安い時間帯を狙っての予約のため時間との勝負なのである。
更に毎週使っているこの音楽スタジオは市内にあり、最寄り駅まで電車と地下鉄を使わなければならない。学校からも地元からも少し遠いのである。加えて今日は、普段の制服での練習ではなく衣装に着替えなければならない。その上衣装がゴスロリ服であるためある程度のメイクも必須になってくる。三人が時間を気にするのはこう言った事情があったためだった。
電車と地下鉄を乗り継いで音楽スタジオからほど近い公園へとやって来た四人は、その公園のトイレへと向かった。
「大和、荷物見てて」
「おう!」
カノンの言葉に元気よく返答した大和の前に楽器の入ったケースやスクールバッグが三人分置かれていく。
それから三人の女子は衣装とメイク道具を抱えて、公園の女子トイレへと入っていくのだった。トイレに入った三人はそれぞれ個室に入ってまずは着替えを行っていく。
鈴の衣装はパニエの仕込まれた黒地に赤の小さな十字架がプリントされているミニスカートで、トップスは黒のビスチェ風になっている。その下に着るシャツは真っ白で手首のところがきゅっと絞られていた。そしてその先がトランペットのベルのように小さく広がっており、小さなレースがあしらわれていた。
カノンの衣装はシックな黒のワンピースドレスで、こちらはスカートの丈が足首まである。Aラインのドレスに白襟が付いており、十字架の小物を身につけたその姿は異国の修道女のようである。鈴と比べるとシンプルな衣装だが、不思議とカノンの美しさを引き立てていた。
琴音の衣装もワンピースドレスではあったが、こちらはカノンとは違い膝丈スカートとなっている。パニエで膨らませたスカート部分は鳥かごをイメージした黒のテープが施され、スカートの裾部分はチュール素材で透けている。腰はコルセットで締め付け、頭には黒のヴェールをつけていた。
三人がそれぞれの衣装に着替え終わった後、トイレの洗面所にてメイクを行っていく。ゴスロリ服を着た少女が三人並んで立っていると、それだけで存在感の圧力を感じるものだ。
少女たちは慣れた手つきで自らの顔にメイクをしていく。普段なら楽しくお喋りをしながら行うメイクも、今日ばかりは時間が気になり無駄口を叩く暇はなかった。
「げ、アイライン、ミスった……」
黙々とメイクをしていたとき、突然鈴が声を上げた。
「ちょっと鈴。突然声上げないで。マスカラが目に刺さった……」
「ごめん、カノン。大丈夫?」
「もう、二人ともおっちょこちょいなんだから……」
鈴とカノンのやり取りの中、一足先にメイクを終えた琴音が呆れたような声を上げる。琴音は鈴を見やると、
「鈴ちゃん、ちょっと見せて」
「うん」
それから綿棒を使って器用に鈴のアイライナーを直していく。
「よし! 出来た! 鈴ちゃん、可愛くなりました」
「ありがとう、琴音」
「私もメイク、完了」
三人共がメイクを完了し、誰からともなく自分たちのスマートフォンで時間を確認する。それからホッと胸をなで下ろした。どうやらスタジオでの生配信には間に合いそうだ。
「お待たせ、大和」
「おぉ~! カノン、シスターみたい! 鈴ちゃんも琴音ちゃんも、決まってるぅ~!」
「ありがとう、大和くん」
琴音が大和に礼を言っている間にも、鈴は自分のスクールバッグとギターケースを担ぐ。
「カノン、琴音、行こう!」
「うん」
「鈴ちゃん、俺はー?」
鈴は背後から聞こえる大和の声を無視してスタジオに向けて歩き始めた。後ろからは大和の、
「すがすがしいほどの鈴ちゃんからのスルー!」
そんな叫び声が響いていた。
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