2 / 51
第一音
第一音②
しおりを挟む
「駅まで一緒に帰ろうか」
「私、パス」
鈴の誘いを断ったのはカノンだった。鈴はカノンをじとーっと見つめると、
「さては、彼氏だな?」
「アタリ」
飄々と答えてくるカノンに、鈴はスッと冷たい視線を送る。
「相変わらず、ラブラブでありますこと! 行こう、琴音」
「待って、鈴ちゃん! カノンちゃん、また明日ね!」
「うん、また明日」
カノンは教室を出て行く二人に、ヒラヒラと手を振って見送るのだった。
「待って、鈴ちゃん!」
廊下をズカズカと歩いている鈴の背後から、琴音が小走りで近付いてくる。その声に鈴は立ち止まり振り返った。
「もー、鈴ちゃん。さっきの態度はどうかと思うなぁ~」
「何の話?」
「カノンちゃんへの態度、だよ。分かってるくせに……」
琴音は鈴に追いつくと、そのふっくらした頬をぷぅっと膨らませている。そんな琴音の言葉に鈴は俯く。どうやら心当たりはあるようだ。鈴は、だって、と暗い声を漏らす。
「だって、何?」
「だって……、羨ましいんだもん……」
鈴は元気のない声で、しかし素直に自分の本音を吐露した。そんな鈴の本音を聞いた琴音は、鈴の隣に立つとその頭をヨシヨシと撫でた。それから優しい声音でこう言った。
「鈴ちゃんは、素直だね。その素直さが、音にも表れているんだね」
「うぅ~……、琴音ぇ~……」
「よしよし。鈴ちゃん、帰ろうか」
琴音の言葉に鈴は小さく頷いた。
それから二人は一階の下駄箱へと降りていった。そこで上履きと靴を履き替えているときだった。
「あ、和真くん。今、帰り?」
「あぁ、清水か。うん、ちょっと、呼び出されて、遅くなった……」
日に焼けた色黒の肌で、背の高い男子生徒に琴音が親しげに声をかけた。見るからにスポーツ少年といった風体の彼は、細く鋭い目つきで少々威圧感がある。鈴は琴音の傍へ行くと、小声で、
「だ、誰……?」
恐る恐る尋ねた鈴に琴音は臆することなく男子生徒の紹介をしてくれる。
「この人は、小林和真くん。私とは中学が同じだったの」
「は、はじめまして……」
「うっす」
ぎこちなく挨拶をする鈴へ、和真は軽く会釈をする。そんな二人の様子に琴音はクスクスと笑っていた。
「和真くん、昔からすっごくモテるのに、全然彼女を作ろうとしないの」
「好きでもないヤツを彼女にしても、そいつに失礼だろ?」
「うん、和真くんなりの優しさなんだよね」
にこにこと和真と会話をする琴音の様子を見た鈴は、
(琴音、この人のことが好きなのかな?)
そんなことを邪推してしまう。
「じゃあ、俺、帰るから」
「うん、バイバイ」
「おう」
和真はそう言うと、さっさと昇降口を出て校門へと向かうのだった。再び二人きりになった琴音と鈴も、二人で連れ立って校門へと向かう。そうして二人は他愛ない会話をしながら、駅への道のりを歩いて行くのだった。
一人教室に残っていたカノンは窓の外に広がる運動場をぼんやりと眺めていた。乾いた運動場の砂が時折風に乗って舞う。そんな光景をボーッと眺めていると、
「わりぃ! カノン!」
「大和……」
教室の扉がガラリと開き、騒がしい声が響いた。声の主の名を平野大和と言う。彼がカノンの彼氏である。
カノンと大和は中学三年生の頃、受験対策で通っていた塾で出会った。カノンは大和のことをお調子者で騒がしいヤツと思っていたのだが、
『好きです! 付き合ってください!』
ある日突然、告白された。
『え? イヤです』
カノンの返答は即答だった。
『なんでっ!』
驚いた様子の大和にカノンは淡々と答えた。カノンに大和を好きな気持ちが全くないこと、自分が受験生で恋愛どころではないこと、そもそも大和がタイプではないこと。
『だから、ごめんなさい』
ここまで言えば、相手はショックを受けて引き下がるだろう。そう考えたカノンは甘かった。大和はショックを受けるどころか、
『長谷川さんの志望校って、どこですかっ?』
『は、い?』
『俺、長谷川さんと同じ高校に通います!』
『はぁ……』
呆れかえったカノンは思わず自分の志望校を大和に教えた。カノンと大和では学力に差があり、この差を埋めることは出来ないだろうと考えてのことだったのだが、
(まさか、本当に合格してくるなんてね……)
「カノン? どうした? ニヤニヤしちゃって」
「ん、何でもない。さ、帰ろう、大和」
いつの間にか笑っていたカノンは大和へと背を向けると、そのまま教室を出て行こうとした。カノンの傍に来ていた大和も慌ててそのカノンの背中を追う。
そうして二人は学校を後にしたのだった。
「私、パス」
鈴の誘いを断ったのはカノンだった。鈴はカノンをじとーっと見つめると、
「さては、彼氏だな?」
「アタリ」
飄々と答えてくるカノンに、鈴はスッと冷たい視線を送る。
「相変わらず、ラブラブでありますこと! 行こう、琴音」
「待って、鈴ちゃん! カノンちゃん、また明日ね!」
「うん、また明日」
カノンは教室を出て行く二人に、ヒラヒラと手を振って見送るのだった。
「待って、鈴ちゃん!」
廊下をズカズカと歩いている鈴の背後から、琴音が小走りで近付いてくる。その声に鈴は立ち止まり振り返った。
「もー、鈴ちゃん。さっきの態度はどうかと思うなぁ~」
「何の話?」
「カノンちゃんへの態度、だよ。分かってるくせに……」
琴音は鈴に追いつくと、そのふっくらした頬をぷぅっと膨らませている。そんな琴音の言葉に鈴は俯く。どうやら心当たりはあるようだ。鈴は、だって、と暗い声を漏らす。
「だって、何?」
「だって……、羨ましいんだもん……」
鈴は元気のない声で、しかし素直に自分の本音を吐露した。そんな鈴の本音を聞いた琴音は、鈴の隣に立つとその頭をヨシヨシと撫でた。それから優しい声音でこう言った。
「鈴ちゃんは、素直だね。その素直さが、音にも表れているんだね」
「うぅ~……、琴音ぇ~……」
「よしよし。鈴ちゃん、帰ろうか」
琴音の言葉に鈴は小さく頷いた。
それから二人は一階の下駄箱へと降りていった。そこで上履きと靴を履き替えているときだった。
「あ、和真くん。今、帰り?」
「あぁ、清水か。うん、ちょっと、呼び出されて、遅くなった……」
日に焼けた色黒の肌で、背の高い男子生徒に琴音が親しげに声をかけた。見るからにスポーツ少年といった風体の彼は、細く鋭い目つきで少々威圧感がある。鈴は琴音の傍へ行くと、小声で、
「だ、誰……?」
恐る恐る尋ねた鈴に琴音は臆することなく男子生徒の紹介をしてくれる。
「この人は、小林和真くん。私とは中学が同じだったの」
「は、はじめまして……」
「うっす」
ぎこちなく挨拶をする鈴へ、和真は軽く会釈をする。そんな二人の様子に琴音はクスクスと笑っていた。
「和真くん、昔からすっごくモテるのに、全然彼女を作ろうとしないの」
「好きでもないヤツを彼女にしても、そいつに失礼だろ?」
「うん、和真くんなりの優しさなんだよね」
にこにこと和真と会話をする琴音の様子を見た鈴は、
(琴音、この人のことが好きなのかな?)
そんなことを邪推してしまう。
「じゃあ、俺、帰るから」
「うん、バイバイ」
「おう」
和真はそう言うと、さっさと昇降口を出て校門へと向かうのだった。再び二人きりになった琴音と鈴も、二人で連れ立って校門へと向かう。そうして二人は他愛ない会話をしながら、駅への道のりを歩いて行くのだった。
一人教室に残っていたカノンは窓の外に広がる運動場をぼんやりと眺めていた。乾いた運動場の砂が時折風に乗って舞う。そんな光景をボーッと眺めていると、
「わりぃ! カノン!」
「大和……」
教室の扉がガラリと開き、騒がしい声が響いた。声の主の名を平野大和と言う。彼がカノンの彼氏である。
カノンと大和は中学三年生の頃、受験対策で通っていた塾で出会った。カノンは大和のことをお調子者で騒がしいヤツと思っていたのだが、
『好きです! 付き合ってください!』
ある日突然、告白された。
『え? イヤです』
カノンの返答は即答だった。
『なんでっ!』
驚いた様子の大和にカノンは淡々と答えた。カノンに大和を好きな気持ちが全くないこと、自分が受験生で恋愛どころではないこと、そもそも大和がタイプではないこと。
『だから、ごめんなさい』
ここまで言えば、相手はショックを受けて引き下がるだろう。そう考えたカノンは甘かった。大和はショックを受けるどころか、
『長谷川さんの志望校って、どこですかっ?』
『は、い?』
『俺、長谷川さんと同じ高校に通います!』
『はぁ……』
呆れかえったカノンは思わず自分の志望校を大和に教えた。カノンと大和では学力に差があり、この差を埋めることは出来ないだろうと考えてのことだったのだが、
(まさか、本当に合格してくるなんてね……)
「カノン? どうした? ニヤニヤしちゃって」
「ん、何でもない。さ、帰ろう、大和」
いつの間にか笑っていたカノンは大和へと背を向けると、そのまま教室を出て行こうとした。カノンの傍に来ていた大和も慌ててそのカノンの背中を追う。
そうして二人は学校を後にしたのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】ぽっちゃり好きの望まない青春
mazecco
青春
◆◆◆第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作◆◆◆
人ってさ、テンプレから外れた人を仕分けるのが好きだよね。
イケメンとか、金持ちとか、デブとか、なんとかかんとか。
そんなものに俺はもう振り回されたくないから、友だちなんかいらないって思ってる。
俺じゃなくて俺の顔と財布ばっかり見て喋るヤツらと話してると虚しくなってくるんだもん。
誰もほんとの俺のことなんか見てないんだから。
どうせみんな、俺がぽっちゃり好きの陰キャだって知ったら離れていくに決まってる。
そう思ってたのに……
どうしてみんな俺を放っておいてくれないんだよ!
※ラブコメ風ですがこの小説は友情物語です※

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】
猫都299
青春
沼田海里(17)は幼馴染でクラスメイトの一井柚佳に恋心を抱いていた。しかしある時、彼女は同じクラスの桜場篤の事が好きなのだと知る。桜場篤は学年一モテる文武両道で性格もいいイケメンだ。告白する予定だと言う柚佳に焦り、失言を重ねる海里。納得できないながらも彼女を応援しようと決めた。しかし自信のなさそうな柚佳に色々と間違ったアドバイスをしてしまう。己の経験のなさも棚に上げて。
「キス、練習すりゃいいだろ? 篤をイチコロにするやつ」
秘密や嘘で隠されたそれぞれの思惑。ずっと好きだった幼馴染に翻弄されながらも、その本心に近付いていく。
※現在完結しています。ほかの小説が落ち着いた時等に何か書き足す事もあるかもしれません。(2024.12.2追記)
※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。(2024.12.2追記)
※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+、Nolaノベルに投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

俺たちの共同学園生活
雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。
しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。
そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。
蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる