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序章
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これは、僕の身に降りかかった出来事の、記録である。
明治も文明開化が進み、すっかりザンギリ頭が定着してきた頃、僕は生まれた。貧乏ではなかったが、裕福と言う訳でもない僕の家柄だったが、有り難いことに、僕は大学まで卒業させて貰った。
大学在籍中に、僕は幼馴染みで親友の里見透と共に一冊の雑誌を作った。その雑誌には、僕と里見の短編小説を載せていたのだった。
そう。
僕は書き物をすることが好きだったのだ。
大学を卒業後、僕は学校で英語の講師として働きながら、細々と物書きも続けていたのだった。
そんな時だった。
僕と里見が世に出していた小説雑誌が、少しずつ注目され始めたのだ。そして、僕の小説を読んでくれた出版社の方が、少しではあったが僕に書き物の仕事を回してくれるようになった。
僕に書き物の仕事が来るようになってからしばらく後に、僕は里見と飲みに出かけた。
酒をたらふく飲んだ里見は千鳥足の中、帰りの道中で愚痴をこぼし始めた。
「いいよなぁ、お前は」
「何だよ、藪から棒に」
足を止めてしまった里見に合わせて、僕も足を止める。
「お前にあって、俺にないものって、何なのだ?」
「だから、突然何の話をしているのだ? 里見」
「小説だよ! 小説!」
声を荒げる里見を見て、僕は納得する。
同じ雑誌の中には、もちろん里見の短編小説も間違いなく入っていた。しかし、当時書き物の仕事を貰えていたのは僕だけだったのだ。里見はそこが納得いかない様子だった。
「編集の人に直接尋ねてみたら良いじゃないか」
「尋ねたさ! だが、向こうさんは何も言ってはくれないのだ!」
あー、悔しい! と、里見は地団駄を踏む。僕は困り果ててしまい、
「里見。女の嫉妬はまだ可愛げがあるが、男の嫉妬は見られたものじゃあない」
思わず微苦笑しながら口をついた僕の言葉に、里見は僕をキッと睨み付けた。
「お前のその! 人を上から見下したような態度が、俺は嫌いなのだ!」
論点がずれたこの言葉を聞いた僕は、さすがに頭に血が上っていくのが分かった。すっと目を細めて、里見の方を見やる。
「僕が、いつ、誰を見下したと言うのだい?」
「今まで、何度も! 俺の努力の上を軽々と飛び越えて、行ってしまうではないか!」
里見はそれが、悔しくて悔しくてならぬのだと言った。
僕はそんな熱くなっている里見を見ていたら、自分の熱がすっと下がるのを感じた。代わりに冷たい感情が湧き起こる。
僕は隣を走っている線路を見つめた。
「なぁ、里見よ」
「何だよ」
「僕が死ねば、君のその悔しさは消えるのかい?」
「何を言って……?」
僕は疑問符を浮かべる里見に顔を向けると、にやりと笑った。遠くから列車がこちらへ近づいてくる音がする。
「里見、じゃあな」
列車の明かりが近づき、危険を知らせる警笛が鳴る中、僕はゆっくりと線路の中へと身を投じるのだった。
明治も文明開化が進み、すっかりザンギリ頭が定着してきた頃、僕は生まれた。貧乏ではなかったが、裕福と言う訳でもない僕の家柄だったが、有り難いことに、僕は大学まで卒業させて貰った。
大学在籍中に、僕は幼馴染みで親友の里見透と共に一冊の雑誌を作った。その雑誌には、僕と里見の短編小説を載せていたのだった。
そう。
僕は書き物をすることが好きだったのだ。
大学を卒業後、僕は学校で英語の講師として働きながら、細々と物書きも続けていたのだった。
そんな時だった。
僕と里見が世に出していた小説雑誌が、少しずつ注目され始めたのだ。そして、僕の小説を読んでくれた出版社の方が、少しではあったが僕に書き物の仕事を回してくれるようになった。
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酒をたらふく飲んだ里見は千鳥足の中、帰りの道中で愚痴をこぼし始めた。
「いいよなぁ、お前は」
「何だよ、藪から棒に」
足を止めてしまった里見に合わせて、僕も足を止める。
「お前にあって、俺にないものって、何なのだ?」
「だから、突然何の話をしているのだ? 里見」
「小説だよ! 小説!」
声を荒げる里見を見て、僕は納得する。
同じ雑誌の中には、もちろん里見の短編小説も間違いなく入っていた。しかし、当時書き物の仕事を貰えていたのは僕だけだったのだ。里見はそこが納得いかない様子だった。
「編集の人に直接尋ねてみたら良いじゃないか」
「尋ねたさ! だが、向こうさんは何も言ってはくれないのだ!」
あー、悔しい! と、里見は地団駄を踏む。僕は困り果ててしまい、
「里見。女の嫉妬はまだ可愛げがあるが、男の嫉妬は見られたものじゃあない」
思わず微苦笑しながら口をついた僕の言葉に、里見は僕をキッと睨み付けた。
「お前のその! 人を上から見下したような態度が、俺は嫌いなのだ!」
論点がずれたこの言葉を聞いた僕は、さすがに頭に血が上っていくのが分かった。すっと目を細めて、里見の方を見やる。
「僕が、いつ、誰を見下したと言うのだい?」
「今まで、何度も! 俺の努力の上を軽々と飛び越えて、行ってしまうではないか!」
里見はそれが、悔しくて悔しくてならぬのだと言った。
僕はそんな熱くなっている里見を見ていたら、自分の熱がすっと下がるのを感じた。代わりに冷たい感情が湧き起こる。
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「なぁ、里見よ」
「何だよ」
「僕が死ねば、君のその悔しさは消えるのかい?」
「何を言って……?」
僕は疑問符を浮かべる里見に顔を向けると、にやりと笑った。遠くから列車がこちらへ近づいてくる音がする。
「里見、じゃあな」
列車の明かりが近づき、危険を知らせる警笛が鳴る中、僕はゆっくりと線路の中へと身を投じるのだった。
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