19 / 32
第11話 発見
第11話 発見①
しおりを挟む
家を出たばかりの天野楓は、車のキーを片手に駐車場へと降りていた。そこでふと空を見上げる。
(時間もあるし、天気もいいし、歩くか……)
そう思った楓は駐車場を出て歩いて映画館へと向かった。ゆっくり歩いていたにも関わらず、映画館には待ち合わせの時間よりも15分ほど早くに到着してしまった。
手持ち無沙汰に綾乃のことを待っていると、ふと不安に襲われる。
(沓名さん、来なかったらどうしようか……)
何度もチラチラと駐車場の出入り口に目をやってしまう。
何度目になるか分からない視線を投げた時、1人の人影かこちらに向かっているのが分かった。その人影は急いでいるようで、早歩きでこちらに向かってくる。それが沓名綾乃だと認識できた時、楓は心底ほっとした。
綾乃は普段の接客で見せるエプロン姿とは違う、女の子らしい恰好をしており、楓はそれが綾乃に良く似合っていると思った。
そんなことを考えていると、目の前に息を切らせた綾乃がやって来る。
「お待たせ、しました……」
「慌てなくても大丈夫でしたのに……」
楓は自分が勝手に早く来過ぎていて待っていたのに、綾乃を急がせてしまったことが申し訳なく感じてしまう。そんな楓の心情を知ってか知らずか、綾乃はにっこりと微笑むと、
「お待たせしても、悪いですから」
そう言う綾乃は、書店で見せる格好とは違う女の子らしさも相まっていて、楓は直視できずにいた。不自然に顔をそむけてしまう楓は場を誤魔化すように、
「まだ少し上映時間までありますが、中に入りましょうか」
その言葉を聞いた綾乃が頷くのが目の端で見えた。楓は綾乃を連れてエスカレーターで2階の映画館へと向かう。その間気の利いた会話1つもできない自分が、何だか情けなく感じてしまうのだった。
そのまま映画チケットの券売機の前に並ぶ。並んでいる間も気の利いた会話が出来ない楓は、綾乃が自分のことをつまらない男だと思っていたらどうしよう、とマイナスに思考が行ってしまう。
何か話題がないかを探っている間に自分たちの順番になってしまう。券売機に向かって観る映画を選択していると、綾乃がバッグの中から財布を取り出そうとしていた。それを見て楓は内心焦りながら、
「ここは僕に出させてください」
そう言って急いで支払いを済ませてしまう。綾乃が今どんな顔をしているのか見るのが怖かったものの、座席を決める画面になり、
「どの席が、いいですか?」
そう綾乃へと声をかける。楓の言葉を聞いた綾乃は少し恥ずかしそうにしながら、
「私、映画ってあまり観に来ないんです。なので、天野さんに任せてもいいですか?」
そう言う綾乃は本当に映画館へはあまり足を運ばない様子だった。
平日の昼間で公開からも日が経っていたこともあり、映画が良く見えそうな真ん中の席が空いているのが確認できる。楓はそこを2席隣り合わせで予約した。館内の時計を確認するとまだ上映まで時間がある。
「沓名さん、何か飲み物とか食べ物でも買いましょうか」
綾乃が小さく頷くのを確かめた楓は、売店へと移動をした。楓と同じように、上映時間までの間に買い物をしようとしている人たちの列が出来ている。
「沓名さんは、何にしますか?」
「飲み物だけにしようかなって」
綾乃に何を注文するかを聞きながら、自分も何を頼もうか考えつつ言葉をかける。
「天野さんは、良く映画を観に来られるんですか?」
その問いかけが楓には突然のことで驚いてしまう。咄嗟に、
「そうですね。実写化が決まったものは、結構観に来ています」
綾乃の顔を見ることもできずに答えてしまってから後悔する。これは会話を続けるチャンスだったのではないか。しかしもう出してしまった言葉を引っ込めることはできない。後悔と情けなさを感じていると、列が進み自分たちの購入の番になった。
綾乃が隣の別のレジへと行こうとするのを見て、楓は慌てて引き留めた。
「一緒に頼んでください、沓名さん」
綾乃は一瞬迷ったような様子を見せるが、傍に来てコーラを頼んでくれる。楓はと言うと、ポップコーンとコーラを注文した。
店員が後ろを向いて注文した商品の準備を始めると、綾乃がおどおどした様子で口を開いた。
「あの、お金を……」
その姿が至極かわいく思えた楓は、自然と笑顔になって答える。
「大丈夫ですよ。ジュース代くらい、出させてください」
そんな会話をしていると、用意できた商品を店員が差し出してきた。楓は自然とそれを持ち上げる。
売店を後にすると丁度自分たちの観る映画の入場アナウンスが響いた。楓はなるべく歩幅を綾乃に合わせるように、ゆっくりと歩きながら入場ゲートに綾乃を導いて、席へと案内していく。
席に座った楓は、普段映画を観る時には全く気にしなかったことに気付いた。
(席が、近い……)
すぐ隣に感じる綾乃の存在を、楓は意識せずにはいられなかった。
そんなことを考えているとすぐに館内が暗くなって上映が始まった。最初に始まる予告をなんとなく眺めながら、しかし意識は隣の綾乃へと向いてしまう。
横目で綾乃を見てみると、目をキラキラさせながらスクリーンに見入っている。
本編が始まっても、綾乃のその様子は変わらなかった。完全に映画の中に入り込んでいる様子の綾乃に、楓はほっこりと胸が暖かくなるのを感じていた。
(時間もあるし、天気もいいし、歩くか……)
そう思った楓は駐車場を出て歩いて映画館へと向かった。ゆっくり歩いていたにも関わらず、映画館には待ち合わせの時間よりも15分ほど早くに到着してしまった。
手持ち無沙汰に綾乃のことを待っていると、ふと不安に襲われる。
(沓名さん、来なかったらどうしようか……)
何度もチラチラと駐車場の出入り口に目をやってしまう。
何度目になるか分からない視線を投げた時、1人の人影かこちらに向かっているのが分かった。その人影は急いでいるようで、早歩きでこちらに向かってくる。それが沓名綾乃だと認識できた時、楓は心底ほっとした。
綾乃は普段の接客で見せるエプロン姿とは違う、女の子らしい恰好をしており、楓はそれが綾乃に良く似合っていると思った。
そんなことを考えていると、目の前に息を切らせた綾乃がやって来る。
「お待たせ、しました……」
「慌てなくても大丈夫でしたのに……」
楓は自分が勝手に早く来過ぎていて待っていたのに、綾乃を急がせてしまったことが申し訳なく感じてしまう。そんな楓の心情を知ってか知らずか、綾乃はにっこりと微笑むと、
「お待たせしても、悪いですから」
そう言う綾乃は、書店で見せる格好とは違う女の子らしさも相まっていて、楓は直視できずにいた。不自然に顔をそむけてしまう楓は場を誤魔化すように、
「まだ少し上映時間までありますが、中に入りましょうか」
その言葉を聞いた綾乃が頷くのが目の端で見えた。楓は綾乃を連れてエスカレーターで2階の映画館へと向かう。その間気の利いた会話1つもできない自分が、何だか情けなく感じてしまうのだった。
そのまま映画チケットの券売機の前に並ぶ。並んでいる間も気の利いた会話が出来ない楓は、綾乃が自分のことをつまらない男だと思っていたらどうしよう、とマイナスに思考が行ってしまう。
何か話題がないかを探っている間に自分たちの順番になってしまう。券売機に向かって観る映画を選択していると、綾乃がバッグの中から財布を取り出そうとしていた。それを見て楓は内心焦りながら、
「ここは僕に出させてください」
そう言って急いで支払いを済ませてしまう。綾乃が今どんな顔をしているのか見るのが怖かったものの、座席を決める画面になり、
「どの席が、いいですか?」
そう綾乃へと声をかける。楓の言葉を聞いた綾乃は少し恥ずかしそうにしながら、
「私、映画ってあまり観に来ないんです。なので、天野さんに任せてもいいですか?」
そう言う綾乃は本当に映画館へはあまり足を運ばない様子だった。
平日の昼間で公開からも日が経っていたこともあり、映画が良く見えそうな真ん中の席が空いているのが確認できる。楓はそこを2席隣り合わせで予約した。館内の時計を確認するとまだ上映まで時間がある。
「沓名さん、何か飲み物とか食べ物でも買いましょうか」
綾乃が小さく頷くのを確かめた楓は、売店へと移動をした。楓と同じように、上映時間までの間に買い物をしようとしている人たちの列が出来ている。
「沓名さんは、何にしますか?」
「飲み物だけにしようかなって」
綾乃に何を注文するかを聞きながら、自分も何を頼もうか考えつつ言葉をかける。
「天野さんは、良く映画を観に来られるんですか?」
その問いかけが楓には突然のことで驚いてしまう。咄嗟に、
「そうですね。実写化が決まったものは、結構観に来ています」
綾乃の顔を見ることもできずに答えてしまってから後悔する。これは会話を続けるチャンスだったのではないか。しかしもう出してしまった言葉を引っ込めることはできない。後悔と情けなさを感じていると、列が進み自分たちの購入の番になった。
綾乃が隣の別のレジへと行こうとするのを見て、楓は慌てて引き留めた。
「一緒に頼んでください、沓名さん」
綾乃は一瞬迷ったような様子を見せるが、傍に来てコーラを頼んでくれる。楓はと言うと、ポップコーンとコーラを注文した。
店員が後ろを向いて注文した商品の準備を始めると、綾乃がおどおどした様子で口を開いた。
「あの、お金を……」
その姿が至極かわいく思えた楓は、自然と笑顔になって答える。
「大丈夫ですよ。ジュース代くらい、出させてください」
そんな会話をしていると、用意できた商品を店員が差し出してきた。楓は自然とそれを持ち上げる。
売店を後にすると丁度自分たちの観る映画の入場アナウンスが響いた。楓はなるべく歩幅を綾乃に合わせるように、ゆっくりと歩きながら入場ゲートに綾乃を導いて、席へと案内していく。
席に座った楓は、普段映画を観る時には全く気にしなかったことに気付いた。
(席が、近い……)
すぐ隣に感じる綾乃の存在を、楓は意識せずにはいられなかった。
そんなことを考えているとすぐに館内が暗くなって上映が始まった。最初に始まる予告をなんとなく眺めながら、しかし意識は隣の綾乃へと向いてしまう。
横目で綾乃を見てみると、目をキラキラさせながらスクリーンに見入っている。
本編が始まっても、綾乃のその様子は変わらなかった。完全に映画の中に入り込んでいる様子の綾乃に、楓はほっこりと胸が暖かくなるのを感じていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
やんちゃな公爵令嬢の駆け引き~不倫現場を目撃して~
岡暁舟
恋愛
名門公爵家の出身トスカーナと婚約することになった令嬢のエリザベート・キンダリーは、ある日トスカーナの不倫現場を目撃してしまう。怒り狂ったキンダリーはトスカーナに復讐をする?
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
釣った魚にはエサをやらない。そんな婚約者はもういらない。
ねむたん
恋愛
私はずっと、チャールズとの婚約生活が順調だと思っていた。彼が私に対して優しくしてくれるたびに、「私たちは本当に幸せなんだ」と信じたかった。
最初は、些細なことだった。たとえば、私が準備した食事を彼が「ちょっと味が薄い」と言ったり、電話をかけてもすぐに切られてしまうことが続いた。それが続くうちに、なんとなく違和感を感じ始めた。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる