46 / 48
第四章
第四章の二 春の宴①
しおりを挟む
季節は進み、桜が満開の時期になった。
あずさと結人は春休みに入っている。二人とも無事に進級出来るようだ。奏は技術者として仕事を続けていた。
神々からの依頼もなく、平穏な日々が続いていたそんな春のある日。奏たちは久しぶりにツクヨミから呼び出された。ヤタガラスの導きにも慣れたもので、三人は花々が咲き誇る山道を登っていく。そして開けた場所に出た。見慣れた祠の向こうに、肩まである銀髪を春風になびかせながらツクヨミが待っていた。
「こんにちは」
にっこりと微笑むツクヨミに、三人はそれぞれ挨拶する。
「こうして集まるのは久しぶりだね」
ツクヨミの言葉にそうだね、とあずさが答える。
「今日は、依頼ではなく、招待したくて呼んだんだ」
ツクヨミはにこにこ笑って言った。
「招待、ですか?」
奏は率直な疑問を口にする。
「そう。春の宴にね、君たち三人を招待しようって話になったんだ」
「ちょっと待ってください。僕も、含まれるんですか?」
結人が口を挟む。ただの狐の自分も神々の宴に招待されるとは思っていなかったようだ。
「結人くんはもう野狐じゃないんでしょう? 気狐なら十分、出席資格があるよ。神格を得ているんだからね」
ツクヨミはにこにこ笑いながら続ける。
「もちろん、神の守護を受けているあずさや、それを手伝う奏も、出席資格があるんだ」
だから是非、とツクヨミが言う。
「何だか、楽しそう!」
話を聞いていたあずさは目を輝かせていた。
「じゃあ決まりだね」
ツクヨミは嬉しそうに微笑む。
こうして三人は神々の春の宴に参加することが決まったのだった。
そして神々の春の宴当日となった。桜の花は葉桜へと変わっていた。
あずさは薄いピンクベージュの膝丈ワンピースに紺色のトップスを合わせ、少しヒールのある白の靴を履いていた。そしてその姿で橋姫のところへと行く。
「橋姫! 私、変じゃない? 大丈夫かな?」
「大丈夫、大丈夫、可愛いですよ」
橋姫はにこにこしながらあずさに言う。普段のボーイッシュな姿も可愛らしいが、今日は神々の宴だ。多少気合いを入れたコーディネートになっているようだ。橋姫と話していると、そこへ白のパンツに白のトップスを合わせた奏がやってきた。やはり普段のジーンズ姿ではない。少なからず奏も緊張しているのだろうか。
「あら、あずさちゃん! 可愛いじゃない!」
奏はワンピース姿のあずさを見て驚いているようだった。普段とのギャップで余計に可愛らしく見えたようだ。あずさは顔を真っ赤にして俯きながら、
「あ、ありがとう……」
それだけ言うのが精一杯だった。
「奏さんは、本当に罪な方ですね」
橋姫がくすくす笑いながら声を掛ける。奏は頭に疑問符を浮かべているようだ。そんな話をしていたら結人が姿を現した。
「あれ? あずさ、どうしたの?」
結人はきょとんとあずさの姿を見た。結人は普段と余り変わらない格好だった。
「う、うるさい! 結人!」
あずさは真っ赤になりながら叫ぶ。叫ばれた結人は軽く肩をすくめたのだった。
「結人さんは、まだまだですね」
その光景を見ていた橋姫がまたくすくすと笑いながら言う。奏は何のことだかさっぱり分からない。
「さて! 揃ったし、ツクヨミのところへ行こう!」
あずさは真っ赤な顔を誤魔化すようにして言う。橋姫は楽しんでらっしゃい、と笑顔で送り出した。
三人はヤタガラスの導きで高天原へと到着していた。入り口にはツクヨミの姿がある。
「やぁ、お三方。待っていたよ」
ツクヨミは笑顔で三人を迎えた。
「会場はこっちだよ」
ツクヨミを先頭に移動すると、会場が見えてきた。そこは大きな桜の木が真ん中にある会場だった。その桜の木は今が満開でかなり見ごたえがある。
桜の木を中心に様々な神々が鎮座し、花見をしていた。しかし奏たちの姿を認めると、神々が一斉に振り返る。
「うわわっ!」
その行動にあずさが少し後ずさりをした。
「大丈夫、取って食べたりしないよ」
ツクヨミがおかしそうに笑った。
三人はそれぞれ神々に呼ばれ、隣に座ることになった。奏は酒神と呼ばれる三柱の神々の隣に、あずさはアマテラスに呼ばれたためアマテラスの隣に、そして結人は稲荷神の隣に座った。
そして人間と気狐を交えた宴が催された。
稲荷神の隣に座った結人は、神格を得ることがどういうことなのかを話を聞いていた。
「神格を得たばかりなのだな」
和服姿の稲荷神が言う。結人は正座をしたまま話を聞く。
「そう堅苦しくなるな。ほれ、飲め」
稲荷神は結人にお酌をすると、足を崩すように言う。結人はその言葉に甘え、正座を崩した。
「気狐とは、懐かしいの」
「これから、どう生活していけばいいのか、悩んでおります」
「若い! 若いな、お主!」
がはは、と豪快に笑う稲荷神。
「今のままで良い、今のままで、な。人間を補佐し、助け、そうやって神格を得ていくものだ」
「神格を得て、行き着く先はやはり神、なのですか?」
結人がここ最近悩んでいたことを口にする。
「神、とはな。人間に信仰されてこそ存在するものよ。そのような存在に君がなるのなら、それは神と言えよう」
「難しいですね……」
結人は稲荷神の言葉に眉を顰めていた。そんな結人を見つめながら、稲荷神は、して、と声を発した。結人が稲荷神を見返す。
あずさと結人は春休みに入っている。二人とも無事に進級出来るようだ。奏は技術者として仕事を続けていた。
神々からの依頼もなく、平穏な日々が続いていたそんな春のある日。奏たちは久しぶりにツクヨミから呼び出された。ヤタガラスの導きにも慣れたもので、三人は花々が咲き誇る山道を登っていく。そして開けた場所に出た。見慣れた祠の向こうに、肩まである銀髪を春風になびかせながらツクヨミが待っていた。
「こんにちは」
にっこりと微笑むツクヨミに、三人はそれぞれ挨拶する。
「こうして集まるのは久しぶりだね」
ツクヨミの言葉にそうだね、とあずさが答える。
「今日は、依頼ではなく、招待したくて呼んだんだ」
ツクヨミはにこにこ笑って言った。
「招待、ですか?」
奏は率直な疑問を口にする。
「そう。春の宴にね、君たち三人を招待しようって話になったんだ」
「ちょっと待ってください。僕も、含まれるんですか?」
結人が口を挟む。ただの狐の自分も神々の宴に招待されるとは思っていなかったようだ。
「結人くんはもう野狐じゃないんでしょう? 気狐なら十分、出席資格があるよ。神格を得ているんだからね」
ツクヨミはにこにこ笑いながら続ける。
「もちろん、神の守護を受けているあずさや、それを手伝う奏も、出席資格があるんだ」
だから是非、とツクヨミが言う。
「何だか、楽しそう!」
話を聞いていたあずさは目を輝かせていた。
「じゃあ決まりだね」
ツクヨミは嬉しそうに微笑む。
こうして三人は神々の春の宴に参加することが決まったのだった。
そして神々の春の宴当日となった。桜の花は葉桜へと変わっていた。
あずさは薄いピンクベージュの膝丈ワンピースに紺色のトップスを合わせ、少しヒールのある白の靴を履いていた。そしてその姿で橋姫のところへと行く。
「橋姫! 私、変じゃない? 大丈夫かな?」
「大丈夫、大丈夫、可愛いですよ」
橋姫はにこにこしながらあずさに言う。普段のボーイッシュな姿も可愛らしいが、今日は神々の宴だ。多少気合いを入れたコーディネートになっているようだ。橋姫と話していると、そこへ白のパンツに白のトップスを合わせた奏がやってきた。やはり普段のジーンズ姿ではない。少なからず奏も緊張しているのだろうか。
「あら、あずさちゃん! 可愛いじゃない!」
奏はワンピース姿のあずさを見て驚いているようだった。普段とのギャップで余計に可愛らしく見えたようだ。あずさは顔を真っ赤にして俯きながら、
「あ、ありがとう……」
それだけ言うのが精一杯だった。
「奏さんは、本当に罪な方ですね」
橋姫がくすくす笑いながら声を掛ける。奏は頭に疑問符を浮かべているようだ。そんな話をしていたら結人が姿を現した。
「あれ? あずさ、どうしたの?」
結人はきょとんとあずさの姿を見た。結人は普段と余り変わらない格好だった。
「う、うるさい! 結人!」
あずさは真っ赤になりながら叫ぶ。叫ばれた結人は軽く肩をすくめたのだった。
「結人さんは、まだまだですね」
その光景を見ていた橋姫がまたくすくすと笑いながら言う。奏は何のことだかさっぱり分からない。
「さて! 揃ったし、ツクヨミのところへ行こう!」
あずさは真っ赤な顔を誤魔化すようにして言う。橋姫は楽しんでらっしゃい、と笑顔で送り出した。
三人はヤタガラスの導きで高天原へと到着していた。入り口にはツクヨミの姿がある。
「やぁ、お三方。待っていたよ」
ツクヨミは笑顔で三人を迎えた。
「会場はこっちだよ」
ツクヨミを先頭に移動すると、会場が見えてきた。そこは大きな桜の木が真ん中にある会場だった。その桜の木は今が満開でかなり見ごたえがある。
桜の木を中心に様々な神々が鎮座し、花見をしていた。しかし奏たちの姿を認めると、神々が一斉に振り返る。
「うわわっ!」
その行動にあずさが少し後ずさりをした。
「大丈夫、取って食べたりしないよ」
ツクヨミがおかしそうに笑った。
三人はそれぞれ神々に呼ばれ、隣に座ることになった。奏は酒神と呼ばれる三柱の神々の隣に、あずさはアマテラスに呼ばれたためアマテラスの隣に、そして結人は稲荷神の隣に座った。
そして人間と気狐を交えた宴が催された。
稲荷神の隣に座った結人は、神格を得ることがどういうことなのかを話を聞いていた。
「神格を得たばかりなのだな」
和服姿の稲荷神が言う。結人は正座をしたまま話を聞く。
「そう堅苦しくなるな。ほれ、飲め」
稲荷神は結人にお酌をすると、足を崩すように言う。結人はその言葉に甘え、正座を崩した。
「気狐とは、懐かしいの」
「これから、どう生活していけばいいのか、悩んでおります」
「若い! 若いな、お主!」
がはは、と豪快に笑う稲荷神。
「今のままで良い、今のままで、な。人間を補佐し、助け、そうやって神格を得ていくものだ」
「神格を得て、行き着く先はやはり神、なのですか?」
結人がここ最近悩んでいたことを口にする。
「神、とはな。人間に信仰されてこそ存在するものよ。そのような存在に君がなるのなら、それは神と言えよう」
「難しいですね……」
結人は稲荷神の言葉に眉を顰めていた。そんな結人を見つめながら、稲荷神は、して、と声を発した。結人が稲荷神を見返す。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
アルカディア・クロニクル ゲーム世界にようこそ!
織部
ファンタジー
記憶を失った少年アキラ、目覚めたのはゲームの世界だった!
ナビゲーターの案内で進む彼は、意思を持ったキャラクターたちや理性を持つ魔物と対峙しながら物語を進める。
新たなキャラクターは、ガチャによって、仲間になっていく。
しかし、そのガチャは、仕組まれたものだった。
ナビゲーターの女は、誰なのか? どこに存在しているのか。
一方、妹・山吹は兄の失踪の秘密に迫る。
異世界と現実が交錯し、運命が動き出す――群像劇が今、始まる!
小説家になろう様でも連載しております
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…
雪見だいふく
ファンタジー
私は大学からの帰り道に突然意識を失ってしまったらしい。
目覚めると
「異世界に行って楽しんできて!」と言われ訳も分からないまま強制的に転生させられる。
ちょっと待って下さい。私重度の人見知りですよ?あだ名失神姫だったんですよ??そんな奴には無理です!!
しかし神様は人でなし…もう戻れないそうです…私これからどうなるんでしょう?
頑張って生きていこうと思ったのに…色んなことに巻き込まれるんですが…新手の呪いかなにかですか?
これは3歩進んで4歩下がりたい主人公が騒動に巻き込まれ、時には自ら首を突っ込んでいく3歩進んで2歩下がる物語。
♪♪
注意!最初は主人公に対して憤りを感じられるかもしれませんが、主人公がそうなってしまっている理由も、投稿で明らかになっていきますので、是非ご覧下さいませ。
♪♪
小説初投稿です。
この小説を見つけて下さり、本当にありがとうございます。
至らないところだらけですが、楽しんで頂けると嬉しいです。
完結目指して頑張って参ります
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる