45 / 48
第四章
第四章の一 変化②
しおりを挟む
以前の結人の姿は、真っ黒な黒狐だった。しかし今は毛の生え変わりの時期なのだろう、黒い毛に混じり、白い毛が生えてきている。
「冬終わり頃から、白い毛が生え始めたのだ」
結人はそう言い、自分の姿を見ている。
「どういうことなのかしら?」
奏がそう呟いた時、奏の傍らに守護霊の老婆が姿を現した。
「これは……!」
老婆も驚きを隠せない。一目結人の姿を見ると、目を丸くしながら言った。
「気狐だね」
「気狐ですって?」
老婆の言葉に驚いたのは結人ではなく奏の方だった。結人は黙ったまま二人のやり取りを見ている。
「結人くん、あなた、神格を得たのよ」
「神格?」
「神になるための資格、と言ったら良いかしら」
奏は説明した。
きっと、あずさや奏と行動を共にしていく間に、神格を得ることになったのだろう。これからどんどん毛は白くなり、黒狐から白狐へと姿を変えていくだろう。そして、今後は野狐ではなく、神格を得た狐、気狐として生きていくことになるだろう。
「俺が、気狐……?」
結人は驚いて言葉に詰まる。
「結人くんはもう、野狐ではないわ。おめでとう」
奏は笑顔で言うと、もう悪さは出来ないわね、といたずらっ子のように結人へと告げるのだった。
結人は元の人間の姿になると、
「これは、あずさに責任を取ってもらわないといけないですね」
そう言って、にやりと笑う。それを聞いた奏は微苦笑しながら、ほどほどにしてやってね、と返すのだった。
さて、帰宅したあずさにも小さな変化が起きていた。
お正月に橋姫からからかわれて以来、奏の存在が気になり始めていたのだった。奏といる時間がとても楽しい。奏と別れると、どうしても考えてしまう。
「私、どうしちゃったのかな……」
悶々とする日々の中考えないようにしていたが、これが恋と言うものなのだろうか。あずさはそんなことを考えながら、寝床に入る。
「明日、橋姫に相談しよう」
そう独りごちると、あずさは布団を目深に被って眠りにつくのだった。
翌日、あずさはまだ寒い早朝に橋のたもとへと来ていた。
「橋姫~」
あずさの呼びかけに、いつもの柳の木の下に橋姫の姿が浮かび上がる。
「おはよう、橋姫」
あずさは白い息を吐き出しながら言う。そして昨日考えていたことを橋姫に話すのだった。
「どう思う? 橋姫」
橋姫はそれを聞くとにこやかに返した。
「恋、ですね」
「やっぱり?」
薄々勘付いていた答えに、それでもあずさは驚きを隠せない。
「うわ~、なんだろう。すっごく恥ずかしいよ~……」
あずさは赤くなる自分の顔を押さえてその場にうずくまる。
「恥ずかしいことなんてないですよ、あずささん」
上から優しい声音で橋姫が声をかけてくれた。そして誰かを愛することは、とても幸せなことであると説いた。
「私はもう、恋は出来ません」
「どうして?」
あずさの疑問に、橋姫は神だからです、と答えた。
「神様って、不便なのね」
そう言うあずさに、橋姫は苦笑する。
「だから、あずささんが恥ずかしがる必要なんてないんですよ」
橋姫の言葉にあずさはそっか~、と言い寒空を見上げる。
それぞれの変化が起きた春先。
奏は守護霊の老婆と共に修行にはげみ、結人は野狐から気狐へと変化を遂げた。そしてあずさは淡い恋心を胸に、季節は急速に春へと向かっていくのだった。
「冬終わり頃から、白い毛が生え始めたのだ」
結人はそう言い、自分の姿を見ている。
「どういうことなのかしら?」
奏がそう呟いた時、奏の傍らに守護霊の老婆が姿を現した。
「これは……!」
老婆も驚きを隠せない。一目結人の姿を見ると、目を丸くしながら言った。
「気狐だね」
「気狐ですって?」
老婆の言葉に驚いたのは結人ではなく奏の方だった。結人は黙ったまま二人のやり取りを見ている。
「結人くん、あなた、神格を得たのよ」
「神格?」
「神になるための資格、と言ったら良いかしら」
奏は説明した。
きっと、あずさや奏と行動を共にしていく間に、神格を得ることになったのだろう。これからどんどん毛は白くなり、黒狐から白狐へと姿を変えていくだろう。そして、今後は野狐ではなく、神格を得た狐、気狐として生きていくことになるだろう。
「俺が、気狐……?」
結人は驚いて言葉に詰まる。
「結人くんはもう、野狐ではないわ。おめでとう」
奏は笑顔で言うと、もう悪さは出来ないわね、といたずらっ子のように結人へと告げるのだった。
結人は元の人間の姿になると、
「これは、あずさに責任を取ってもらわないといけないですね」
そう言って、にやりと笑う。それを聞いた奏は微苦笑しながら、ほどほどにしてやってね、と返すのだった。
さて、帰宅したあずさにも小さな変化が起きていた。
お正月に橋姫からからかわれて以来、奏の存在が気になり始めていたのだった。奏といる時間がとても楽しい。奏と別れると、どうしても考えてしまう。
「私、どうしちゃったのかな……」
悶々とする日々の中考えないようにしていたが、これが恋と言うものなのだろうか。あずさはそんなことを考えながら、寝床に入る。
「明日、橋姫に相談しよう」
そう独りごちると、あずさは布団を目深に被って眠りにつくのだった。
翌日、あずさはまだ寒い早朝に橋のたもとへと来ていた。
「橋姫~」
あずさの呼びかけに、いつもの柳の木の下に橋姫の姿が浮かび上がる。
「おはよう、橋姫」
あずさは白い息を吐き出しながら言う。そして昨日考えていたことを橋姫に話すのだった。
「どう思う? 橋姫」
橋姫はそれを聞くとにこやかに返した。
「恋、ですね」
「やっぱり?」
薄々勘付いていた答えに、それでもあずさは驚きを隠せない。
「うわ~、なんだろう。すっごく恥ずかしいよ~……」
あずさは赤くなる自分の顔を押さえてその場にうずくまる。
「恥ずかしいことなんてないですよ、あずささん」
上から優しい声音で橋姫が声をかけてくれた。そして誰かを愛することは、とても幸せなことであると説いた。
「私はもう、恋は出来ません」
「どうして?」
あずさの疑問に、橋姫は神だからです、と答えた。
「神様って、不便なのね」
そう言うあずさに、橋姫は苦笑する。
「だから、あずささんが恥ずかしがる必要なんてないんですよ」
橋姫の言葉にあずさはそっか~、と言い寒空を見上げる。
それぞれの変化が起きた春先。
奏は守護霊の老婆と共に修行にはげみ、結人は野狐から気狐へと変化を遂げた。そしてあずさは淡い恋心を胸に、季節は急速に春へと向かっていくのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

この世の沙汰は運次第
緋水晶
ファンタジー
※土日祝日に更新します。
なのでGW中はほぼ毎日更新です。
閻魔大王の眼前に立つ不幸のうちに死んでしまった17歳の少年シャスバンドール零万は、自分の不幸が神の手違い故だったことを知らされる。
その埋め合わせとして来世の幸運と願いを一つ叶えてもらえることになった零万は自分の名前の意味を知りたいと願った。
幼い頃に亡くなった国籍不明天涯孤独の父の母国語に由来する、意味のわからない言葉の意味を知りたいと。
それを聞いた閻魔大王はにたりと笑うと「ならば父のいた世界でその意味を調べるがよい」と告げる。
「え?俺の父親異世界人なの?」と混乱する零万をよそに、サクサクと話を進めた閻魔大王は零万を異世界に転生させたのだった。
ということを5歳の洗礼の儀式の最中に思い出したレィヴァンは自分の名前の意味を模索しながら平和にのんびり生きていこうと考えていた。
しかし洗礼の結果、自分が神級の勇者であることを知る。
それもこれも高すぎる『幸運』故の弊害だったが、今更それを覆すことなどできない。
レィヴァンは仕方なしに今世も運次第で生きていくのだった。


ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
RGB:僕と浮世離れの戯画絵筆 ~緑色のアウトサイダー・アート~
雪染衛門
ファンタジー
「僕の描いた絵が本物になったらいいのに」
そんな夢を抱く絵描き好きな少年・織部緑光(おりべ ろくみつ)は、科学の発展によって可視化された人の魂の持つ「色」を重視する現代に生まれる。
情熱の赤色、ひらめきの黄色、冷静な青色など人気色と比べ、臆病と評される「緑色」の緑光だが、色に囚われず前向きな幼少期を過ごしていた。
時を同じくして都心では、人類を脅かした感染症のパンデミックとネット社会の相乗作用が、放置されたグラフィティから夜な夜な這い出して人を襲う落画鬼(らくがき)を満天下に知らしめる。
その悪鬼に唯一、太刀打ちできるのは、絵を具現化させる摩訶不思議な文房具で戦う、憂世の英雄・浮夜絵師(うきよえし)。
夜ごとに増える落画鬼の被害。それに決死の覚悟で挑む者への偏見や誹謗中傷がくり返されるネット社会。
月日の流れによって、夢を見なくなるほど「緑色」らしくなっていた緑光だったが、SNS上に浮上した「すべての絵師を処せ」という一文を目にし……。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる