神様と妖の静穏化

彩女莉瑠

文字の大きさ
上 下
43 / 48
第三章

第三章の八 お正月

しおりを挟む
「あけましておめでとう」

 かなでの声が響く。結人ゆいとの家で合流した奏とあずさ、そして結人が新年の挨拶をしていた。



 黄泉の国から奏が帰ってきてから数日で、もう元旦になっていた。冬休みも残り少ない。
 あの後、あずさは結人の家に行き、動いている奏を見ては大号泣してしまった。

「奏っ!」

 ぱたぱたと走り寄ると、奏はいつもの優しい笑顔を浮かべていた。

「凄い! 動いてる! あったかい!」

 あずさは奏に抱きつくとそう叫び、込み上げて来るものを抑えきれずにわんわんと泣いてしまった。奏はそんなあずさの背中をさすりながら微笑んでいた。

「おかえりなさい」
「ただいま」

 結人の言葉に奏はにっこりと微笑みながら返した。
 こうして、奏は黄泉の国から現世へと戻ることが出来たのだった。身体の調子も悪くない。
 奏が帰宅後、守護霊の老婆が現れて言った。

「全く、悪運の強い子だね。私の仕事がまた増えたじゃないか」

 その声は優しく、奏を歓迎しているものだった。奏は、

「また、お世話になります」

 そう言って守護霊の老婆にお辞儀をした。

 そして今日は元旦。
 あずさの提案で、三人は神社に初詣に行くことになっていた。あずさはご機嫌な様子で今にも鼻歌を歌いだしそうな様子だ。

「神の加護を受けているのに、初詣、ですか」

 結人は半ば呆れている。

「こういうのは礼儀なの! しっかりご挨拶しておかなきゃ!」

 あずさはそう主張すると、初詣の長い行列に並ぶ。

「何をお願いしようかなぁ~」

 あずさは終始ご機嫌だ。

「直接お願いしたらいいじゃないですか」

 結人は言うが、あずさはそれを無視する。

「奏は何をお願いするの?」
「そうねぇ~」

 奏は少し考えてから口を開く。

「今まで通り、楽しく日々が送れるように、かしら」

 にっこり微笑んで言われ、あずさもにこにこと返す。

「奏らしい」

 そんな話をしていると、奏たちの番になった。
 三人はお賽銭を投げると、お辞儀をし、鈴緒すずおを振り、拍手をしてお参りをする。

「奏! 結人! おみくじ!」

 あずさははしゃぎながら言う。結人は完全に呆れ返っていた。そんな結人の様子に苦笑しながら、奏はおみくじを引くのだった。

「どうだったっ?」

 あずさに言われ、三人はそれぞれのおみくじを見せ合う。
 奏は中吉、あずさは大吉、そして結人は吉と出ていた。

「みんな今年もいい年になるね!」

 あずさは明るく言う。
 まだ日も高い時分だったが、奏たちは人ごみを掻き分けて神社を後にする。これからツクヨミの元へ向かうのだ。
 人ごみから離れ、人通りの少なくなった所でヤタガラスが舞い降りる。三人はヤタガラスを追いかけながら、ツクヨミのいるほこらへと向かったのだった。
 ほこらに辿り着くと、ツクヨミが白い息を吐きながら待っていてくれた。

「あけましておめでとうございます!」

 あずさが元気良く挨拶する。その元気さにツクヨミは微苦笑しながら、おめでとう、と返すのだった。

「あけましておめでとうございます」

 奏と結人もそれぞれツクヨミに挨拶をする。ツクヨミは奏の姿を見ると、

「身体の方はどうだい?」
「お陰様ですっかり良くなっています」
「それは良かった」

 奏の答えにツクヨミは微笑んだ。

「さっき神社でおみくじを引いたのよ!」

 あずさはツクヨミに言う。

「へぇ~。何が出たんだい?」
「大吉!」

 あずさは、どうだ、と言わんばかりに胸を張って言う。ツクヨミは良かったね、と言ってあずさの頭をぽんぽんとする。

「これから、橋姫にも挨拶に行くの!」

 あずさの言葉にツクヨミは、いいねと言った。

「是非会っておあげ」
「うん!」

 そして三人とツクヨミは他愛無い世間話を少しする。あの後、イザナギは高天原たかまがはらでいつも通り過ごしていることや、アマテラスはこの時期、忙しそうにしていることを話した。

「アマテラス、忙しいの?」
「そうだね。願いごとが殺到する時期だからね」

 ツクヨミは涼しげな顔で答える。なるほど、元旦から三が日にかけてアマテラスは一年でいちばん忙しい時期になるのだろう。
 まだまだ話していたかったのだが、橋姫にも会っておきたい三人は、きりの良いところでツクヨミのほこらを後にするのだった。



 ツクヨミのほこらを後にした三人はその足で川のたもとへと来ていた。

「橋姫ー!」

 あずさが叫ぶと、柳の木の下にぼうっと人影が浮かび上がる。片腕の無い美女は微笑みながら立っていた。

「あけましておめでとう! 橋姫」

 あずさは元気に挨拶をする。橋姫も笑顔でそれに答えた。

「あずささんは元旦から元気ですね」
「もちろん!」

 あずさは無邪気に笑っていた。奏と結人はそんなあずさを眺めていた。

「橋姫、あのね。さっきおみくじ引いたの!」

 ほら、と言ってあずさはおみくじを橋姫に見せる。橋姫はそれをまじまじと見つめて言う。

「あら、恋愛運が運命の人が近くにいる、ですって。もしかして奏さんのことかしら?」

 いたずらっぽく言う橋姫に、あずさの顔が赤くなる。

「あら? あらあらあら?」

 橋姫は顔が赤くなって俯くあずさの顔を覗き込む。

「か、奏は、関係ないよ……」

 あずさはそれだけを言うのが精一杯だった。橋姫はこれ以上は可哀想だと思い、触れなかった。そんな光景を見ていた奏が声をかける。

「何だか楽しそうね。何のお話をしていたのかしら?」
「たっ、楽しくない! 奏には関係ない話だから! 大丈夫だから!」

 あずさは驚いて何を口走っているのか自分でも分からなかった。ぶんぶんと頭を振りながら言う。

「あら、関係ない話だなんて、傷つくわ~」

 奏がしくしくと泣き真似をすると、あずさは焦ったようにあわあわとなる。その様子を橋姫はおかしそうにくすくすと笑いながら見守っていた。
 結人はそんな光景を無表情に見つめていたのだった。

 こうして賑やかな元旦が過ぎていった。
 何事もなく冬休みは終わっていき、あずさと結人は冬休みの宿題に追われる日々が始まるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...