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夫婦円満の秘訣(2)

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「復活した直後は瀕死らしいですし、そうなると暫くは大人しくしているんじゃないでしょうか」

 あ、やっぱり。聞き間違いじゃなかった……。

「えっと……つまり一度死んだけど今は生きている、と」
「ええ。本人が死を望まない限りは、勝手に何度も生き返るとか。『死を望まない限り』なんて、そんなもの死にかければ自然と生存本能が働くでしょうに。最悪な体質ですよね、さすがに同情します」

 全然、「同情します」な表情でないシナレフィーさんが、サラッと答えてくれる。
 『勇者は教会で復活』。定番中の定番とはいえ、それ本当に再現されているんだ。で、そんなふうに常識のように思われているんだ。うわぁ……。

「ここに妃殿下を降ろした後、精霊の村に戻ったのなら、まあ堪えた方ではないですか? 私が同じようなことをミアにされたなら、復活先の教会で待ち構えて百回以上は殺し続けますよ」
「え……」

 何そのホラー。怖すぎる。
 そう思ってたのが顔に出ていたのか、シナレフィーさんに「竜族は大体、そんなものです」と、これもまた常識のように言われた。ああ、うん。『竜はつがいに執心』も結構定番ネタではありますけれども。

「何にせよ、陛下が人間を殺したのは事実です」
「……っ」

 今度は軽さなど一つも無い声が来て、私の頭はスッと冷えた。
 ギルはカシムを殺した。それは事実。

(そのことをギルは気にしてる)

 シナレフィーさんは、ギルが人間に手を下すのは珍しいと言っていた。ギルも戸惑っていたし、とつ的に取った行動のように思える。
 人間を殺したことというより、私の同族を殺したことに彼は動揺しているのだと思う。ゲームでは何の感情もなく魔物を討伐していた私が、ギルを前に気まずい思いをした時のように。
 「強制送還した」という表現は、嘘ではないが誤魔化しの類いにあたる。私に対し誤魔化したこともまた、きっとギルは気に病んでいる。

(でもそれは全部、私のためだ)

 ギルがカシムを攻撃したのは、私の格好を見てのことだった。
 私のために怒って、私のために隠した。
 私が謝ったなら、そのことすら彼は自分の責にしてしまうかもしれない。

(それは駄目)

 不安に震えていたギルを思い出す。

「……ギルと、一度しっかり話をしたいです」

 私に安心をくれた彼に、私も安心をあげたい。

「そうですか、わかりました。明日の昼過ぎキスの時間に戻るでしょうから、捕縛の準備をしておきます」
「捕縛……」

 捕縛とは。
 そしてその床に描き始めた魔法陣は、何のためのものですか。

「えっと、よろしくお願いします……?」

 私は一抹の不安を抱きつつも、しゃがみ込んだシナレフィーさんの背中に声を掛けた。
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