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精霊の村(1)

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 ギルに横抱きされた私は、上空から森を見下ろした。
 進むにつれて、眼下に広がる緑は青緑へと変わり、今はもう青一色だ。
 その森の中心に、ぽっかり開けた場所が見えた。

「あれが精霊の村だ」

 言って、ギルが高度を下げ始める。
 風圧は無くても降下中の景色は、やっぱり怖い。私はギルの肩に、ぎゅっと掴まった。
 トンッ
 程なくして、地面に着いたギルの足からの振動が、ほんの少し伝わる。ギルは私を、そっと降ろしてくれた。

「わぁ……」

 青白く光る樹が至るところに生え、不思議な紋様の入った石造りの小さな家が疎らに見られる。精霊の村の第一印象は、予想通り『幻想的な地』だった。
 ふと、自分の格好を見下ろす。
 いつもは服装に関して私に自由にさせているギルが、今日は珍しく「これを着て欲しい」と指定してきた青のワンピース。ここに来て、すぐにその理由がわかった。

(なるほど、保護色ね)

 生地の染めの濃淡が、村の雰囲気とよく似ている。これなら遠くから見たなら、風景に溶け込むだろう。ギルの気遣いに感謝だ。
 さて、ここからどこに向かうのだろう。上空から見ていた感じでは、私たちは村の中央付近に降りてきたのではと思う。
 私はギルを見上げようとして、

(ん?)

 その前に、その間にいた小動物と目が合った。
 つぶらな黒の瞳、ヒクヒクする鼻、ぴこっと長めの耳。

(えっ、兎!?)

 私の胸の高さまである巨石の上に、ちまっと小さな兎が。
 明るい茶色のモフモフな毛並み。全体的に丸いフォルム。
 こ、これは……

(ネ、ネザーランドドワーフ……さ、触りたい)

 ついふらふらと伸びそうな手をこらえつつ、ひとまず見つめ合ってみた。逃げる気配は、まったく無い。
 巨石は輪状に並んでいて、その中央にこの子の寝床なのかわらが敷き詰めてある。誰かお偉いさんのペットなんだろうか。

「久しぶりだな、光の精霊」
「精霊!?」

 兎に片手を上げて挨拶したギルを、私は今度こそ見上げた。

「魔王とその嫁御か」

 喋った!
 喋ったよ、ネザーランドドワーフが。何だか偉そうな感じで。
 光の精霊とくれば、やっぱり気位が高い設定なんだろうか。

「ふん、魔王め。この尊きワシを訪ねて来るのに、手土産の一つも用意せぬとは」

 もう一度、ネザ――もとい光の精霊に目を戻す。
 腰に手を当て、ふんぞり返る兎。そんな態度でも、そこには『可愛い』しか存在しない。まさに可愛いの化身。確かに尊い。

「前に土産を持ってきたとき、その場で捨てたじゃないか」
「あれはそうして当たり前じゃっ。リアル志向の『木彫りの熊』とか、嫌がらせか!」

 この世界にもあるんだ、それ。
 うん。ネタとして定番だけど、兎向けのチョイスではないね。
 兎向け……兎向けか。

「――ギル、光の精霊さんにレタスをあげてみて下さい」

 私は、コソッとギルに耳打ちした。
 精霊の村では調達はできないということで、二週間分くらいの食料をギルの亜空間に入れてきてもらっている。調理しなくても食べられるものということで、パンとそれに挟む具材。果物に素焼きのナッツ等々。どの具材とも相性の良いレタスは、多めに三玉用意してあったはず。

「レタスでいいのか?」

 ギルが不思議そうな顔で、亜空間を手で探る。
 その反応からして、この世界の兎はレタスを好まないのだろうか。
 だとしたら気位の高い光の精霊を、逆に怒らせてしまう? そ、それはまずい。

「それが手土産じゃと?」

 光の精霊が、ギルの手の上にあるレタスにムスッとした顔をする。
 あわわ。見た目で判断してはいけなかった。

「はっ。こんな粗末な植物で、この高貴なワシが喜ぶとでも――美味ぁぁぁい!!」

 前言撤回。見た目は重要。
 すごい勢いでモシャモシャ食べてる。お気に召したようで何よりです。

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