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エピローグ つまるところ、ハッピーエンド(1)
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目が点になっていた私を見かねてか、一足早く作業が終わった使節団の男性がこちらへ来て会話のフォローに入ってくれた。
彼が言うにはディーカバリアは緑竜の国で、スクルナグは彼らにとって高級食材だという。そして丁寧に加工するほど、その美味しさは増して行くという。
つまり私の彫刻は、彼らの目にはシェフやパティシエが作った芸術品的料理に映った……というわけだった。
(言われてみれば、誰も一度も『彫刻』とは呼んでなかったよね……)
それならば、宰相さんが話していた「どの料理もほとんど手付かずだった」理由がわかる。私たちが逆に彫刻を食卓に出されて、さあ召し上がれと言われても食べないだろう。というか食べられない。
「えっと……ご自由にどうぞ」
気に入ってもらってくれたのなら、後はその人の自由だ。飾ろうが……食べようが。
「ミナセ! ありがとう‼」
『待て』をされた後に『よし』と言われた犬のように、クエルクス王子がパッと顔を輝かせる。
デキる使節団の男性は、ここでも適切な対応に出た。前もって王子の望みを予測していたのだろう、彼は個別の保護魔法だけ掛かった彫刻――いやこの場合、スクルナグ料理とでも呼ぶべきか――を王子にスッと差し出した。
薔薇を象った作品を受け取った王子が、もう我慢できないといった感じでそれにかぶりつく。
バリバリ
ゴリゴリ
当たり前と言えば当たり前だが、「食事……?」というような音がした。
「俺はもうミナセと結婚したい……」
食べ終えたクエルクス王子は、魂が抜けたような顔で呟いた。
料理(仮)を褒められたはずなのに、彼がまたたびを与えられた猫のように見えてしまったのはどうしてか。奇しくも『料理で相手の胃袋を掴む』という夢が叶ったというのに。
(って、そうだ。この王子様は実は私の理想の男性なのでは!?)
『結婚』という単語が呼び水となって、私の頭上にほわほわと未来図が浮かんでくる。
私の彫刻料理を褒め称え、記録に残し、しかも美味しいと食べてくれる夫。しかも子供が彼に似れば、我が子にデコ弁を作ることも夢じゃない……!?
私の頭の中に、リンゴンと教会の鐘が鳴った気がした。
「クエルクス王子殿下、少々よろしいでしょうか」
不意にここへ来て、ずっと壁際で控えていたマリアナさんが王子に声を掛けた。
物怖じしないその姿、ここでも彼女は素敵だ。
「クノン国には、過去に聖女とご結婚され子も成した方がいらっしゃいました。そして、クノン国の者がディーカバリア国の者と子を成した記録もございます。つまり――ミナセ様はクエルクス王子との間にも子を成せる可能性がございます」
前置きなしで言ってきたマリアナさんの言葉に、「おおっ」と使節団の男性が私の感動詞を代弁してくれる。
当の王子の反応はどうだろうと窺えば――彼はピシャーンと雷に打たれたような表情及びポーズをしていた。こんな漫画みたいなリアクションをする人が、本当にいたとは……。
「宝を生み出す宝が俺の宝になって、子宝まで授かるかもしれないとか幸せの楽園か!」
再びテンションMAXと言わんばかりの王子が、ガシッと私の両手を取ってくる。
「ミナセ、どうか俺と結婚して欲しい!」
「わ、私もクエルクス王子殿下がお相手で嬉しいですっ!」
「本当に!? 俺も嬉しい!」
こちらも人生最大レベルのテンションで答えれば、彼もまた私がこれまで生きてきた中で最大級の笑顔を返してくれた。
彼が言うにはディーカバリアは緑竜の国で、スクルナグは彼らにとって高級食材だという。そして丁寧に加工するほど、その美味しさは増して行くという。
つまり私の彫刻は、彼らの目にはシェフやパティシエが作った芸術品的料理に映った……というわけだった。
(言われてみれば、誰も一度も『彫刻』とは呼んでなかったよね……)
それならば、宰相さんが話していた「どの料理もほとんど手付かずだった」理由がわかる。私たちが逆に彫刻を食卓に出されて、さあ召し上がれと言われても食べないだろう。というか食べられない。
「えっと……ご自由にどうぞ」
気に入ってもらってくれたのなら、後はその人の自由だ。飾ろうが……食べようが。
「ミナセ! ありがとう‼」
『待て』をされた後に『よし』と言われた犬のように、クエルクス王子がパッと顔を輝かせる。
デキる使節団の男性は、ここでも適切な対応に出た。前もって王子の望みを予測していたのだろう、彼は個別の保護魔法だけ掛かった彫刻――いやこの場合、スクルナグ料理とでも呼ぶべきか――を王子にスッと差し出した。
薔薇を象った作品を受け取った王子が、もう我慢できないといった感じでそれにかぶりつく。
バリバリ
ゴリゴリ
当たり前と言えば当たり前だが、「食事……?」というような音がした。
「俺はもうミナセと結婚したい……」
食べ終えたクエルクス王子は、魂が抜けたような顔で呟いた。
料理(仮)を褒められたはずなのに、彼がまたたびを与えられた猫のように見えてしまったのはどうしてか。奇しくも『料理で相手の胃袋を掴む』という夢が叶ったというのに。
(って、そうだ。この王子様は実は私の理想の男性なのでは!?)
『結婚』という単語が呼び水となって、私の頭上にほわほわと未来図が浮かんでくる。
私の彫刻料理を褒め称え、記録に残し、しかも美味しいと食べてくれる夫。しかも子供が彼に似れば、我が子にデコ弁を作ることも夢じゃない……!?
私の頭の中に、リンゴンと教会の鐘が鳴った気がした。
「クエルクス王子殿下、少々よろしいでしょうか」
不意にここへ来て、ずっと壁際で控えていたマリアナさんが王子に声を掛けた。
物怖じしないその姿、ここでも彼女は素敵だ。
「クノン国には、過去に聖女とご結婚され子も成した方がいらっしゃいました。そして、クノン国の者がディーカバリア国の者と子を成した記録もございます。つまり――ミナセ様はクエルクス王子との間にも子を成せる可能性がございます」
前置きなしで言ってきたマリアナさんの言葉に、「おおっ」と使節団の男性が私の感動詞を代弁してくれる。
当の王子の反応はどうだろうと窺えば――彼はピシャーンと雷に打たれたような表情及びポーズをしていた。こんな漫画みたいなリアクションをする人が、本当にいたとは……。
「宝を生み出す宝が俺の宝になって、子宝まで授かるかもしれないとか幸せの楽園か!」
再びテンションMAXと言わんばかりの王子が、ガシッと私の両手を取ってくる。
「ミナセ、どうか俺と結婚して欲しい!」
「わ、私もクエルクス王子殿下がお相手で嬉しいですっ!」
「本当に!? 俺も嬉しい!」
こちらも人生最大レベルのテンションで答えれば、彼もまた私がこれまで生きてきた中で最大級の笑顔を返してくれた。
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