聖女召喚されたけど、思ってたのと違う

月親

文字の大きさ
上 下
5 / 9

つまるところ、嘘から出たまこと(1)

しおりを挟む
 あれから三日経ち、ディーカバリアの使節団が帰る日――私が彼らの手土産として貰われていく日がやって来た。
 クノン国は「聖女に礼を尽くした」感を出すためか、私がモーリス商会から買った物も彼の国へ運んでくれるらしい。荷物が私のついでなのかその逆なのかはわからないが、私もこの部屋で待つよう言われていた。
 使節団は昼前には発つという話だったので、そうこうしているうちに人が来るだろう。持ち出せる量に上限がある場合を考え、私は優先順位を伝えるために部屋の入口付近で待ち構えていた。
 彫刻はあれからさらに三日分増えて、もはやテーブルに並べるというより盛ってある。何せ時間は一杯あったからね、めっちゃ彫ったわ。どれも捨てがたい作品に変わりはない。幸い手放す分は、マリアナさんが買い取りを申し出てくれた。私は「あげます」と言ったのに、彼女はそれに対し「対価を払うべき作品ですから」と返してきたのだ。
 そんなマリアナさんは、今もこの部屋の壁際に控えてくれている。クノン国がただで手に入れようとしたなら、それを阻止してくれるらしい。心強い。
 私に良くしてくれたマリアナさんの手に渡るなら、本望だ。何て思いつつも、また未練がましくテーブルを振り返ってしまうわけだが。
 と、そこへ扉がノックされる音が聞こえた。とうとう見納めかと一度じっと作品たちを見てから、私は部屋の入口へと目を戻した。

「失礼する」

 声とともに入室してきた人々を見て、驚く。
 てっきり入ってきたのは城の使用人さんかと思えば、明らかにクノン国の人たちとは違った身なりの人々だった。やはりファンタジー感漂う感じではあるが、こちらは褐色の肌をしていて髪も濃い色だ。名乗られるまでもなく、ディーカバリア国の使節団とわかった。
 男女合わせて五名の使節団は、私を取り囲むようにしてずらりと前に並んだ。
 この使節団、揃いも揃ってとにかく顔が良い。お国柄という奴だろうか。中でも中心に立っていた人物は、特に美形な男性だった。
 針葉樹のようなツンツンした緑の短髪。明るい灰色の瞳。盛年で、背もかなり高い。これはそこに立っているだけできっと多くの女性がうっとりすること請け合いだろう。
 ――が、どうしたものか。うっとりした表情をしていたのは、他でもない男性の方だった。

「おお、これが異世界からやって来た聖女なのか。確かに珍しい……」

 私も私でその神がかったご尊顔に、ついつい挨拶も忘れて魅入ってしまう。
 そんな私を彼は、頭の先から足の先までじいっと見てきた。そしてさらに私の周りをグルッと一周――いや三周くらいした。

「よし、俺の宮にまつろう」
「!?」

 え、まつ……祀る!?
 あまりに想定外な台詞が彼の口から飛び出し、やはり声を掛けられないままぽかんとしてしまう。
 宰相さんが言っていた『飾ってもらえる』という言葉、百パーセント冗談と思っていた。それなのに、『飾る』よりもまだグレードアップしている。竜族の珍しいものに掛ける情熱、半端ない。さすが七ツ葉のクローバーに金貨を出す国……。
 驚愕に固まってしまった私の頭を、男性が慎重な手つきでなでなでしてくる。「俺の宮に祀る」と言うからには、この人が私が贈られた相手――ディーカバリア国の第二王子クエルクスその人なのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

偽聖女の汚名を着せられ婚約破棄された元聖女ですが、『結界魔法』がことのほか便利なので魔獣の森でもふもふスローライフ始めます!

南田 此仁
恋愛
「システィーナ、今この場をもっておまえとの婚約を破棄する!」  パーティー会場で高らかに上がった声は、数瞬前まで婚約者だった王太子のもの。  王太子は続けて言う。  システィーナの妹こそが本物の聖女であり、システィーナは聖女を騙った罪人であると。  突然婚約者と聖女の肩書きを失ったシスティーナは、国外追放を言い渡されて故郷をも失うこととなった。  馬車も従者もなく、ただ一人自分を信じてついてきてくれた護衛騎士のダーナンとともに馬に乗って城を出る。  目指すは西の隣国。  八日間の旅を経て、国境の門を出た。しかし国外に出てもなお、見届け人たちは後をついてくる。  魔獣の森を迂回しようと進路を変えた瞬間。ついに彼らは剣を手に、こちらへと向かってきた。 「まずいな、このままじゃ追いつかれる……!」  多勢に無勢。  窮地のシスティーナは叫ぶ。 「魔獣の森に入って! 私の考えが正しければ、たぶん大丈夫だから!」 ■この三連休で完結します。14000文字程度の短編です。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。 ――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの? 追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※序盤1話が短めです(1000字弱) ※複数視点多めです。 ※小説家になろうにも掲載しています。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

処理中です...