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つまるところ、厄介払い(2)
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『三日間で欲しい物を片っ端から行く』
マリアナさんの言葉に、「よーし」と欲しい物を考えて。そこでふと、私はその前にあった彼女の台詞を思い出した。
「情報もって、言われましたよね。じゃあ、竜族について聞きたいです」
そう、竜だよ。ファンタジーに付きものの竜。実は宰相さんが話してたときから、気になってた。宰相さんの話を聞いていた限りでは、見た目は人間で普通に会談とか会食がなされるようだったけれども。でもやっぱり、色々違う種族なのよね?
「竜族ですが……さすがに国一番を誇る我が商会でも、三百年交流がなかったため詳しいことはわかりません」
「そうでした……」
日本で三百年前っていったら、江戸時代になってしまう。そりゃあわからないわ。
でもマリアナさんのところの商会は、国一番なのね。そのデキる女感……わかったわ。
「情報というより書物で得た知識になりますが、竜族はその名の通り竜の姿が本性だとか。人と似た姿をしているのは、色々な道具を生み出す人間の生活を面白がった彼らの先祖が遊びで始めたと言われています」
「竜が本性」
そんな気はしていたけれど、本気もんだった。
「あとは、『珍しいものが好き』というのは真実ぽいですね。先触れの使者が城の庭で見つけた七ツ葉のクローバーを、その場で金貨を出して買い取ったらしいので」
「ええー……確かに珍しいは珍しいだろうけど……」
自分の『好き』に振り切れてるなあ。人間だとそんなこと――いや、そんなことあったわ。まさに私が、彫刻材として二十センチくらいの黒檀を万札叩いて予約していたわ。あ、何だか私、竜族の人と気が合いそう。
あああ……思い出した、黒檀! 清水の舞台から飛び降りる気持ちで予約したのに、結局それを手にする前にここへ来てしまった。無念だ。まあ、ここへ来てなくとも多分死んでたから同じことだったろうけど。
って、そうだ!
「モーリス商会には……彫刻刀と彫刻用の木材もありますか?」
「勿論、ございます」
「! じゃ、じゃあ……黒くて硬い感じの木材はどうですか?」
「ああ、それなら丁度最近、大量に買い付けました」
「!?」
大量に? 日本の市場では中々手に入らない黒檀(仮)が大量に!?
「我が国に、ディーカバリアから彼の国特産の木材を大量に贈られたようでして。王室に恩を売るために買い取ったものの、当然国に贈られたものを国民に販売なんてできません。処理に困っておりましたので、好きなだけお譲りいたします」
ファンタジーな竜族の国なだけあって、ディーカバリアは夢のような国だった!?
「それはなんて好都合……って、ん? 先触れが来たのって、つい最近の話ですよね?」
「ええ、国が受け取ったそれを右から左に流された感じですね。まあ、使い途がすぐに決まりそうにない未知の木材を長期間保管だなんて、どれだけ金が掛かるかわかりません。うちの商会に代わりに管理させるつもりだったんでしょう。処理に困って暫く倉庫に眠ることになるのは、あちらもわかっていたでしょうし」
クノン国、せこい。
「いっそ、ミナセ様が全部使い切って下さいません? そうすればこちらの管理費用が浮きますので」
「えっ、でも貴重な木材なのでは?」
そう聞き返しながらも、ついついもう何を彫ろうか考え始めてしまう。
仕方がないよね。私は常日頃から、黒檀を好きなだけ彫れたらもうこの世に思い残すことなんてないと思っていた。そんな人生一大目標の達成が目の前にチラついたのだ、心が躍るのを止められるわけがない。
「貴重なのは、これまで交流がなかったからですよ。国交が回復すれば、普通に流通するはずです。今手元にあるものは一旦手放し、一般流通までの間に使い途と管理の仕方を決める方が無駄になりません」
「確かに!」
「ふふっ、それでは早速、ご用意いたしますね。すぐに戻って参ります」
「あっ、図案を描く、紙とペンもお願いします」
私の呼び止めに、マリアナさんが「かしこまりました」と微笑んでから退室する。
「うおぉ……これは、これは思わぬ収穫……!」
私は今度は胃ではなく胸を両手で押さえながら、ダイブしたベッドの上を転がった。
マリアナさんの言葉に、「よーし」と欲しい物を考えて。そこでふと、私はその前にあった彼女の台詞を思い出した。
「情報もって、言われましたよね。じゃあ、竜族について聞きたいです」
そう、竜だよ。ファンタジーに付きものの竜。実は宰相さんが話してたときから、気になってた。宰相さんの話を聞いていた限りでは、見た目は人間で普通に会談とか会食がなされるようだったけれども。でもやっぱり、色々違う種族なのよね?
「竜族ですが……さすがに国一番を誇る我が商会でも、三百年交流がなかったため詳しいことはわかりません」
「そうでした……」
日本で三百年前っていったら、江戸時代になってしまう。そりゃあわからないわ。
でもマリアナさんのところの商会は、国一番なのね。そのデキる女感……わかったわ。
「情報というより書物で得た知識になりますが、竜族はその名の通り竜の姿が本性だとか。人と似た姿をしているのは、色々な道具を生み出す人間の生活を面白がった彼らの先祖が遊びで始めたと言われています」
「竜が本性」
そんな気はしていたけれど、本気もんだった。
「あとは、『珍しいものが好き』というのは真実ぽいですね。先触れの使者が城の庭で見つけた七ツ葉のクローバーを、その場で金貨を出して買い取ったらしいので」
「ええー……確かに珍しいは珍しいだろうけど……」
自分の『好き』に振り切れてるなあ。人間だとそんなこと――いや、そんなことあったわ。まさに私が、彫刻材として二十センチくらいの黒檀を万札叩いて予約していたわ。あ、何だか私、竜族の人と気が合いそう。
あああ……思い出した、黒檀! 清水の舞台から飛び降りる気持ちで予約したのに、結局それを手にする前にここへ来てしまった。無念だ。まあ、ここへ来てなくとも多分死んでたから同じことだったろうけど。
って、そうだ!
「モーリス商会には……彫刻刀と彫刻用の木材もありますか?」
「勿論、ございます」
「! じゃ、じゃあ……黒くて硬い感じの木材はどうですか?」
「ああ、それなら丁度最近、大量に買い付けました」
「!?」
大量に? 日本の市場では中々手に入らない黒檀(仮)が大量に!?
「我が国に、ディーカバリアから彼の国特産の木材を大量に贈られたようでして。王室に恩を売るために買い取ったものの、当然国に贈られたものを国民に販売なんてできません。処理に困っておりましたので、好きなだけお譲りいたします」
ファンタジーな竜族の国なだけあって、ディーカバリアは夢のような国だった!?
「それはなんて好都合……って、ん? 先触れが来たのって、つい最近の話ですよね?」
「ええ、国が受け取ったそれを右から左に流された感じですね。まあ、使い途がすぐに決まりそうにない未知の木材を長期間保管だなんて、どれだけ金が掛かるかわかりません。うちの商会に代わりに管理させるつもりだったんでしょう。処理に困って暫く倉庫に眠ることになるのは、あちらもわかっていたでしょうし」
クノン国、せこい。
「いっそ、ミナセ様が全部使い切って下さいません? そうすればこちらの管理費用が浮きますので」
「えっ、でも貴重な木材なのでは?」
そう聞き返しながらも、ついついもう何を彫ろうか考え始めてしまう。
仕方がないよね。私は常日頃から、黒檀を好きなだけ彫れたらもうこの世に思い残すことなんてないと思っていた。そんな人生一大目標の達成が目の前にチラついたのだ、心が躍るのを止められるわけがない。
「貴重なのは、これまで交流がなかったからですよ。国交が回復すれば、普通に流通するはずです。今手元にあるものは一旦手放し、一般流通までの間に使い途と管理の仕方を決める方が無駄になりません」
「確かに!」
「ふふっ、それでは早速、ご用意いたしますね。すぐに戻って参ります」
「あっ、図案を描く、紙とペンもお願いします」
私の呼び止めに、マリアナさんが「かしこまりました」と微笑んでから退室する。
「うおぉ……これは、これは思わぬ収穫……!」
私は今度は胃ではなく胸を両手で押さえながら、ダイブしたベッドの上を転がった。
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