上 下
20 / 23

20

しおりを挟む
皇帝が座る大きな椅子が少し高い位置にあり、真ん中には絨毯が敷かれた謁見の間に入ってからしばらく待たされた。その間3人は黙って待っていた。

「皇帝陛下がいらっしゃいます」

ロベール侯爵が先頭に夫人、ディアンヌがさらに少し下がったところで頭を下げた。

数人の歩く足音と椅子に座る音がして皇帝が入ってきたのが分かった。

「ロベール侯爵」

「はい」

父親が顔をあげたが、母親がまだそのままなのでディアンヌもそのままで待っていた。

「夫人は久しいな。そなたがミアの妹か」

「皇帝陛下ありがとうございます。はいディアンヌでございます」

母親がゆっくり顔を上げながらディアンヌの背中に手をあて少し前に押された。一歩前に出たところでスカートの端を持ち再度頭を下げ挨拶をした。そこで皇帝の横にアルベルトが立っているのが見えた。

「ミアとは似てないが大丈夫なのか」

「陛下、ディアンヌは素晴らしいよ。私はずっと側にいたから知っています」

アルベルトがにっこり微笑んで皇帝に答えた。皇帝は横にいるアルベルトを見て小さくため息を吐いた後ディアンヌを見た。

「話を聞いているとは思うが…エリックとミアの事は残念だが、本来こんな事はあってはならない。この騒動の責任はロベール家にもある」

「ここはそなたが誠意をみせ我々に仕える事が1番の解決策であり1番温情ある裁きだと提案した訳だが…」

アルベルトが階段を降りディアンヌのそばまで来て手をとる。

「アルベルト様…」

何を言われるのか分からず身構えていると、ふふっと笑いながらディアンヌの耳元で呟いた。

「みんなの為に君が僕の所に来ればいいんだよ。ミアの後始末は君がするべきだよね」
「!!」

驚いて手を離そうとしても力強く握られており、アルベルトはいつもの笑顔でディアンヌを見ていた。

「陛下。ディアンヌも納得しているからこのまま説明の為抜けていいですか?」

まるで遊びに行くかのように軽く皇帝に尋ねるアルベルトにロベール侯爵が振り向いて声をかける。

「アルベルト様申し訳ございませんが、ディアンヌを皇宮仕えにするつもりはありません」

「は?」
「お父様!」

ロベール侯爵は再度頭を下げゆっくり顔を上げ皇帝をまっすぐ見て

「我がロベール家の責任をディアンヌ1人に背負わせる事はしません」

「何?」

アルベルトもロベール侯爵が何を言い出すのかと少し驚いて掴んでいた力が弱くなったのでディアンヌは自分の手を引いてアルベルトから距離をとる。

「ロベール侯爵どうするつもりだ?」

「私は今の職を辞して妻カーラの実家で過ごそうと思っております」

その場にいたロベール侯爵夫妻以外の人達は驚いて空気すら凍ったようだった。
しばらく考え込んでいた皇帝が絞り出すように聞く。

「それは…侯爵を返上すると言うことか?」
「妻は子爵の出になりますのでそうなります」

今ロベール侯爵は司法長官第一補佐として皇宮での仕事もある。いきなり辞められると困る立場で影響も大きい。

実際のところエリックは不貞を働いたが、ミアは性格が悪かっただけである。その責任にロベール侯爵の進退までかける程では無い。

「そこまでロベール侯爵が…」
「いえ婚約のお話を頂いた時にわかっていたものを引き伸ばしてしまった責任はございます。私の責任を娘に擦り付けるつもりはございません」

ロベール侯爵ははっきりと胸を張って答えた。
皇帝は頬杖を付き少し目線を上げ大きく息を吐いた。

「しばし時間を取ろう。すぐの決断でなくても良い」
「父上!!」
「アルベルトも1度下がれ」
「そんなややこしい事しなくてもディアンヌが…」
「アルベルト!下がれ」

グッと言葉につまりながら、はいと引き下がった。

「また知らせる」

皇帝は立ち上がり吐き捨てるように言って出ていった。
残ったアルベルトにディアンヌが近づいて

「アルベルト様、私は宮使いには向いておりません。ご存知かと思いますがあまり出来がよくないので…」

「そんな事関係ないよ。私がディアンヌに側にいて欲しいだけで…なんなら婚約者としてでもいいんだよ」

アルベルトは手を広げディアンヌを受け止めるような仕草をしたが、ディアンヌが首を振ってアルベルトの目を見る。

「私あの計画はやめにしました。助言頂いていたのに申し訳ございません。私はカール様と…」

アルベルトは顔をディアンヌから逸らし握った手を口にあて唇を噛んでいた。

「聞きたくない…」

震える声で答えそのまま走るように出ていってしまった。

「ディアンヌ計画って何?」

母親が聞いてくるのを笑顔で誤魔化しディアンヌは父親に詰め寄る。

「お父様、先程の話は本当ですか?」
「本当だよ。私はもうこの地から離れてゆっくりしようかと思っているよ」

笑顔で答える父親にかける言葉がなく目に涙が溢れてきた。

「安心しなさい。私たちが爵位下がってもお前を変わりなく迎え入れてくれるとパルマ公爵は約束してくれた」
「ミアも一緒に連れていくわ。長閑な所で過ごせば何か変わってくれるかもしれないしね」

両親揃ってディアンヌに微笑みかけそれぞれが肩に手を置いた瞬間ディアンヌははボロボロと泣いてしまった。

「お前は何も心配しなくていい。さあ帰ろう」

ロベール侯爵は娘を抱きしめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離婚された夫人は、学生時代を思いだして、結婚をやり直します。

甘い秋空
恋愛
夫婦として何事もなく過ごした15年間だったのに、離婚され、一人娘とも離され、急遽、屋敷を追い出された夫人。 さらに、異世界からの聖女召喚が成功したため、聖女の職も失いました。 これまで誤って召喚されてしまった女性たちを、保護している王弟陛下の隠し部屋で、暮らすことになりましたが……

その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?

荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。 突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。 「あと、三ヶ月だったのに…」 *「小説家になろう」にも掲載しています。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

私の以外の誰かを愛してしまった、って本当ですか?

樋口紗夕
恋愛
「すまない、エリザベス。どうか俺との婚約を解消して欲しい」 エリザベスは婚約者であるギルベルトから別れを切り出された。 他に好きな女ができた、と彼は言う。 でも、それって本当ですか? エリザベス一筋なはずのギルベルトが愛した女性とは、いったい何者なのか?

お兄様がお義姉様との婚約を破棄しようとしたのでぶっ飛ばそうとしたらそもそもお兄様はお義姉様にべた惚れでした。

有川カナデ
恋愛
憧れのお義姉様と本当の家族になるまであと少し。だというのに当の兄がお義姉様の卒業パーティでまさかの断罪イベント!?その隣にいる下品な女性は誰です!?えぇわかりました、わたくしがぶっ飛ばしてさしあげます!……と思ったら、そうでした。お兄様はお義姉様にべた惚れなのでした。 微ざまぁあり、諸々ご都合主義。短文なのでさくっと読めます。 カクヨム、なろうにも投稿しております。

婚約破棄から~2年後~からのおめでとう

夏千冬
恋愛
 第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。  それも王命により屋敷に軟禁状態。肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!  改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットをして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することを目標にする。

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~

緑谷めい
恋愛
 私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。  4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!  一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。  あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?  王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。  そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?  * ハッピーエンドです。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

処理中です...