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6 眩しい笑顔

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先程の窓を外から見る位置にシルヴィとリオネルは立ち、中庭方向を見ている。
教室棟窓の真下は植え込みがあり、その外側に遊歩道になっている。中庭の芝生との間には背の低い樹木もある。

腕組みをして考え込むシルヴィ。

「女の子が投げて芝生までは届かないよね」
「だと思うけど」
「リオネルは道沿い探して」
「ブローチだよな」
「そう!」

リオネルが探しはじめようと向きを変えた時、アランたちも合流した。

「ローズ様はリオネルと一緒に探してください。アランはこっち来て」

リオネルに目配せすると顔を赤くするが、目的を思い出して頭を1度振り、ローズの方に向く。

「ローズ様一緒に探します」
「あっ…はいよろしくお願いいたします」

「さて私はこの辺を…」

と制服のスカートを少しあげてしゃがみ込もうとするのを急いで止められる。

「シルヴィ…ここは王都の学園だよ。子爵家のお嬢様がスカートをそんなに上まで持ち上げたりしない!僕がそこは探すから植木に引っかかってないか見て」
「…はーい」




「あのリオネル様、本当にこんな事に付き合わせて申し訳ございません」
「いえ大丈夫ですよ。大事な物なんですよね」

目線はブローチを探しながら答えたが真横にいたローズが動かなくなったので下を向いていた顔を上げ振り返る。

「シルヴィ様はなぜ私に優しくしてくださるのでしょうか…」

不安そうな顔で尋ねてきたローズをリオネルは目を大きく見開いて見たがすぐにくすっと笑って

「シルヴィは昔からああですから。仲良くなりたいとか助けたいで体が先に動くみたいです」

俺にもいらないお節介やこうとしてるなと思ったがそれは口には出さない。

「でも…私は」
「相手の気持ち関係なく動くから本当に嫌ならはっきり言ってください。面白いほどへこみますから。でも…」

リオネルはシルヴィを指さしローズもそちらを向く。アランが止めたのにしゃがみこんで探しているシルヴィが何か虫がいたのか騒いでいた。

「嫌ではないのなら、一緒にいれば楽しいですよ。多分ローズ様に笑って欲しいと思ってるはずです。まあ俺もそう思います」

最後は完全に蛇足だったがローズは目に涙を溜めていた。

「ローズ様!どうしました?俺何か気に触ること言いましたか?」

オロオロ焦るリオネルに

「いえ、違うのです。嬉しくて…」

涙をふいて不意に笑った顔はあまりにも美しく、リオネルは真っ赤になって口を押さえ崩れ落ちそうな足に力を入れた。


「あったーーー!!」

シルヴィの声が響き、手にブローチを持っていた。急いでローズの所まで走ってきて手を広げる。

「これですか?」

薔薇をモチーフにした小さなブローチだったが、ローズはそれを手に取り胸の前で大事そうに握る。

「はい。間違いないです」
「良かったです」

と笑うシルヴィの髪には葉が何枚かついていて、植え込みに顔を入れたのが分かる。ローズはその葉を取りながら

「シルヴィ様、ありがとうございます」

と女神のような笑顔を見せた。

──眩しい!眩しすぎる!!ローズ様最高です。

シルヴィの制服が汚れてしまったので着替えのために寮に戻ることにした。ローズも一緒にそのまま帰る事にしたのでアランとリオネルにお礼を言って別れた。

「アラン、シルヴィもしかして…」
「そうだね、リオネルのためにってはりきってるよ」
「やっぱりね…」

苦笑いをするリオネルを少し羨ましそうに見るアラン。

「シルヴィが1番に考えるのはやっぱり君の事だね」

小さい声だったのでリオネルには聞こえていない。


◇◆◇

いつもと違う時間だったが、お風呂も入って完全にくつろぎモードなシルヴィは夜のご飯も部屋に持ってきてもらうことにした。ローズも同じく部屋で食べると言うので、2人分を頼んだ。

「シルヴィ様…今日は本当にありがとうございました」

「本当に見つかって良かったですね」

「少し話をしても大丈夫ですか?」
「はい」

ローズは座っている膝の上で両手を握りしめ絞り出すように話始めた。

「私…昔から人と話をするのが苦手でして…感情も表に出せず…なので面白くないと思いますし、不快な思いをさせてしまっていたら申し訳ございません」

「え?ローズ様表情豊かですよ?」
「え?」

「だってマルクが話しかけると眉がよりますし、美味しい物食べた時は目がキラキラしてます。虫は嫌いですよね?前小さい虫出た時は怖がってましたもんね」

あははと笑いながら言ったがはっと気がついて口元を隠す。

「ごめんなさい。それこそ気持ち悪いですよね…気になりすぎてずっと見てたから」

「いえ…いえ…そのような事言ってもらった事がなくて」

ポロポロと涙を流し顔を両手で押さえてしまった。







ローズは小さい頃から大人しい子供だった。確かに喜怒哀楽が出にくい子供だったが、母親は小さな変化も見逃さず、愛情込めて育ててくれた。
しかし6歳の頃その優しい母を亡くし、父親と2人になった。父親は妻を深く愛していた為落ち込みが酷く部屋にこもりがちになっていた。
小さいながらも父に元気になってもらおうと、ローズなりに話しかけたり元気な所を見せたりしていたが父親に

「わけの分からない娘は疲れる」

と言われてからさらに感情をなるべく出さないように心に鍵をかけてしまった。
母親を亡くしたお嬢様にはじめは優しかったメイドたちも、表情の変わらないローズを気味悪がり最低限のお世話しかしなくなった。

それからのローズはなるべく人と関わらないように過ごしてきた。

シルヴィのように積極的に関わってくる人もはじめてで、どう接すれば良いのか迷っていたが、身構えていてもローズが長年築いてきた壁を簡単に壊して中に入ってきた。
今はシルヴィの笑顔が心地よくなっている。

「ローズ様!泣かないでください!」

シルヴィは慌ててローズに近寄る。

「すみません。泣いたりして。もう大丈夫ですシルヴィ様」

シルヴィをまっすぐ見つめて笑顔になる。

「ふふっ。やっぱり笑っている方がいいですよ。後、私に様は付けなくても大丈夫です。名前で呼んでください」
「では私も名前で呼んでくださいますか?」

「いいのですか?」
「はい。お願いします…シルヴィ」

照れながら名前を呼ぶローズが可愛くてシルヴィはゴンと頭を机にぶつけそうになった。

──これは反則…可愛すぎる!!

「では改めまして、よろしくねローズ」

ローズは名前を呼ばれまたまた眩しい笑顔になった。


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