意地を張っていたら6年もたってしまいました

Hkei

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18 エルンテ国

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ラファラン国より南に位置するエルンテ国は海に面した港が中心で、国面積はさほど大きくもないが海産物や特産の真珠の取引などもあり裕福な国であった。

エルンテ国に向かう途中に立ち寄る街でもジョスタンは視察をしながら進んでいた為、国境付近に来るにも何日もかかっていた。

レイラは父親の仕事の手伝いをしながら、訪れる街で初めて見る物に驚いたり発見したりとそれなりに充実した日々を送っていた。

最後の山を超え、エルンテ国領土に入ると日差しも強くなり空気も変わった。
初めて香る潮の匂いやキラキラと光る海を見てレイラはワクワクするような、気持ちが昂るのを感じていた。

馬車の窓から少し顔をだし外を眺める。

「アイナ凄いわね!初めて見るものばかりよ」
「お嬢様ダメです危ないですから」

今ジョスタンとは別行動の為、アイナと一緒に馬車に乗っていた。興奮して顔が赤くなっているレイラを見て

「こちらの気候は少し暑いので、宿に着いたら少し軽めのお洋服に着替えましょう」
「今日私は自由に動けるのかしら?エミリア」

「本日は旅の疲れをとって、明日公爵様とご一緒にエルンテ国王との謁見となっております」

もう一人同乗しているエミリア・クーパーは男爵家の令嬢ながら騎士の称号も持つ女性で、ジョスタンの部下兼レイラの護衛として今回一緒に行動している。背も高く髪も短く切ってはいるが、濃い青色の目が気品ある顔立ちを引き締め、とても目立つ容姿である。

「私も国王陛下にお会いするのかしら?」
「いえ、レイラ様は控えの間にいらっしゃるだけで大丈夫です」
「それを聞いて安心したわ」

窓から流れる港町の風景を眺めながら後で少し歩こうかなとか考えていたら、港から少し離れ大きな屋敷が連なる区画に入り宿の前で馬車は止まった。
馬車から降りると、肌にまとわりつくような湿気を帯びた空気に驚く。

「本当に違う国に来た…のね」
「お嬢様?」

ふと視線を外すと奥に大きな王宮が見えた。ラファラン国とは違った様式で、色鮮やかな王宮であった。

「レイラ様お部屋まで案内致します」

エミリアが宿から出てきて声をかけた。くるっと向きを変え宿の入口に向かおうとした時、一瞬誰かに見られているような気がして辺りを見返した。


──何かしら?視線を感じた気がしたけど…


「お嬢様早く中に入りましょう!」
「…そうね」

気にはなったが、この国に知り合いもおらず特に問題もないかと宿の中に入った。

部屋に案内されてからアイナが荷物を整理し、軽めの洋服を持ってきた。ここまできっちりと着込んだ服だった為、そのままでは動きづらい上に暑い。
一度身体を拭いてからゆとりのあるドレスに着替えエミリアと今後のことについて話をした。

「本日夜には公爵様も到着なさいます。明日は先程も申しましたが王宮へ行きます。その後は公爵様の助手として…とありますが実際は部下もおりますので御自由にして頂いて大丈夫です」

「こちらでの滞在期間は?」

「交渉や視察次第にはなりますが、今までよりは長くなります」
「分かりました。今日はこのままお父様が来られるまでゆっくりするわ。エミリアも休んで」

「ありがとうございます。私は隣の部屋となっておりますので何かあればお声かけてください」

一礼してエミリアが部屋を出ていく。
アイナが荷解きが終わり、お茶を入れて持ってきたので一口含んでほっとする。

しばらく部屋でくつろいでいると夕食の準備が整ったと宿の者が呼びに来た。案内された食堂へ向かうといつ到着したのかジョスタンが先に席に着いていた。

「お父様」
「この国の気候は暑いが大丈夫か?」
「はい。山を超えるだけでこんなにも違うものなのですね。驚きました」
「すぐに慣れる」

出てくる料理も魚介類が多く初めて口にするものばかりでどれも美味しく、楽しい食事であった。
食後のお茶を飲んでいる時

「明日は王宮へ行くことになるが、あくまで助手の一人として控えていれば大丈夫だろう」
「はい心得ております」

「娘を連れての外交など滅多にないからな。気に止められる事もあるまいが…」

娘とまいりましたと公言するつもりもない為、ジョスタン一人国王と謁見をすれば問題はないがもしもの為に王宮には行く事になりそうだ。何事もなければ後は自由にしていい身だ。

「明日港町をゆっくり見てみるといい」
「ありがとうございます」

食事の後部屋に戻り、明日の準備をして早めにベッドに入った。

あのパーティーの後もう十日以上たっている。アルフからの連絡は父親の元にはきているのかもしれないが、レイラには何も知らされていない。

国を出てから夜一人になると、虚無感に包まれる。
身体を丸くしてきつく目を閉じ何も考えないようにしても自然と涙が出てくる時もある。

こんな事ではダメだと思えば思うほど深い闇に堕ちてしまいそうになるのを必死で堪えていた。

──早く…忘れないと…









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