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17 新たな世界
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「気分はどうだ?レイラ」
「大丈夫です。お父様」
二人は今隣国のエルンテ国へ向かう馬車の中にいた。外交大公としてしばらく国を離れるジョスタンの助手と言う名目でレイラも同行している為、慣れない長時間の馬車に少し疲れてはいたが、これから見る新しい世界への期待の方が大きく心は弾んでいた。
あのパーティーが終わった後あまりのショックからしばらく意識を失ったレイラは、アルフに抱えあげられホール近くのベッドに寝かされた。
気を失っていたのはさほど長い時間ではなくすぐにレイラは起き上がれるまでになっていた。
「レイラ!大丈夫なの?」
母親であるクラーラが泣きながら抱きついてきた。
「お母様…」
「あなたは何も悪くないわ!もう本当に…」
クラーラは本当に泣きすぎてパーティー用に施した化粧が崩れまくっていた。
「殿下には…怒りしか湧かない。明日にでも乗り込んで理由を聞きに…」
「アルフ落ち着け」
「しかし!!」
ジョスタンはアルフを制し、クラーラをレイラから離してベッドに座り込んだ。
感情を出せずにいるレイラの顔をそっと片手で包み優しく微笑む。
「明日から私は外交の為出国する。お前も着いて来るか?」
「旦那様!それはさすがに」
「お父様!!」
アルフとクラーラが同時に話すのを無視してレイラに話しかける。
「しばらくこの国から…殿下から離れてみないか?私の助手として同行すれば問題ない」
「お父様…私…」
──もう…いいですか?私はもう…
「もう良い。我慢しなくて良い」
ジョスタンのその言葉を聞いてレイラはボロボロと涙が流れ子供のように泣き始めた。ジョスタンが頭を撫でてからしっかりと抱きしめた。
「よくやった。後は我々に任せろ」
「はい…はい」
「今日はもう寝なさい。アイナ後は頼む」
まだ足元が怪しいレイラをアイナとクラーラが支え部屋まで連れて行った。
レイラが階段を登りきるのを確認してからジョスタンはアルフと共に執務室へ向かう。
やや乱暴に扉を開け、用意してあった書類をアルフに渡す。
「これをお前に預ける」
「これは?」
渡された書類を手に取りパラパラと数枚めくり確認しかけて手が止まる。
「お父様これは…」
椅子に座って片手を顔に当て考え込んでいる父親は今まで見たことがない程殺気に溢れる表情で、アルフは思わず一歩下がる。
「殿下が今日来なかった理由を探れ。その後はお前の判断でその書類を提出してかまわん」
「…分かりました」
部屋に戻ったレイラは心配する母親に先に休んでもらい、ゆっくりと湯浴みした後ベッドに潜り込んだ。
「明日も朝から忙しいのでゆっくり休んでくださいね」
「急にこんな事になって…アイナも大変よね」
父親と一緒に国外へしかも長期となるとそれなりの用意が必要となり、いきなりの決定では対応が間に合わない。
「実は…旦那様からその可能性もあるとお聞きしておりました」
「え?」
「ですので準備は全て整ってます。お嬢様は何も心配いりませんよ」
パーティー前の忙しさはこれも含めてだったのか…誰も何も言わず普段通りに接してくれていた事にまた泣きそうになるレイラを見てアイナが慌てる。
「さあ本当に明日から今までした事の無い経験が始まるのですから、ゆっくりおやすみくださいお嬢様」
「そうね…おやすみなさいアイナ」
一人になってゆっくり目を閉じると、どうしても思い浮かべてしまう人を頭を振って消そうとする。
──今は…思い出すのも、考えるのも一旦やめよう…
全ての感情に蓋をするように、ギュッと目を強く瞑った。
朝起きると、周りは全ての用意が整っておりレイラの支度が済み次第すぐの出発となった。
「気をつけるのですよ。くれぐれも…」
「お母様行ってきます」
「無理をしないようにね」
「はい。お兄様も」
泣いている母親を支えながらアルフが笑顔で見送ってくれた。
「行ってまいります」
レイラも笑顔で手を振り出発した。
「大丈夫です。お父様」
二人は今隣国のエルンテ国へ向かう馬車の中にいた。外交大公としてしばらく国を離れるジョスタンの助手と言う名目でレイラも同行している為、慣れない長時間の馬車に少し疲れてはいたが、これから見る新しい世界への期待の方が大きく心は弾んでいた。
あのパーティーが終わった後あまりのショックからしばらく意識を失ったレイラは、アルフに抱えあげられホール近くのベッドに寝かされた。
気を失っていたのはさほど長い時間ではなくすぐにレイラは起き上がれるまでになっていた。
「レイラ!大丈夫なの?」
母親であるクラーラが泣きながら抱きついてきた。
「お母様…」
「あなたは何も悪くないわ!もう本当に…」
クラーラは本当に泣きすぎてパーティー用に施した化粧が崩れまくっていた。
「殿下には…怒りしか湧かない。明日にでも乗り込んで理由を聞きに…」
「アルフ落ち着け」
「しかし!!」
ジョスタンはアルフを制し、クラーラをレイラから離してベッドに座り込んだ。
感情を出せずにいるレイラの顔をそっと片手で包み優しく微笑む。
「明日から私は外交の為出国する。お前も着いて来るか?」
「旦那様!それはさすがに」
「お父様!!」
アルフとクラーラが同時に話すのを無視してレイラに話しかける。
「しばらくこの国から…殿下から離れてみないか?私の助手として同行すれば問題ない」
「お父様…私…」
──もう…いいですか?私はもう…
「もう良い。我慢しなくて良い」
ジョスタンのその言葉を聞いてレイラはボロボロと涙が流れ子供のように泣き始めた。ジョスタンが頭を撫でてからしっかりと抱きしめた。
「よくやった。後は我々に任せろ」
「はい…はい」
「今日はもう寝なさい。アイナ後は頼む」
まだ足元が怪しいレイラをアイナとクラーラが支え部屋まで連れて行った。
レイラが階段を登りきるのを確認してからジョスタンはアルフと共に執務室へ向かう。
やや乱暴に扉を開け、用意してあった書類をアルフに渡す。
「これをお前に預ける」
「これは?」
渡された書類を手に取りパラパラと数枚めくり確認しかけて手が止まる。
「お父様これは…」
椅子に座って片手を顔に当て考え込んでいる父親は今まで見たことがない程殺気に溢れる表情で、アルフは思わず一歩下がる。
「殿下が今日来なかった理由を探れ。その後はお前の判断でその書類を提出してかまわん」
「…分かりました」
部屋に戻ったレイラは心配する母親に先に休んでもらい、ゆっくりと湯浴みした後ベッドに潜り込んだ。
「明日も朝から忙しいのでゆっくり休んでくださいね」
「急にこんな事になって…アイナも大変よね」
父親と一緒に国外へしかも長期となるとそれなりの用意が必要となり、いきなりの決定では対応が間に合わない。
「実は…旦那様からその可能性もあるとお聞きしておりました」
「え?」
「ですので準備は全て整ってます。お嬢様は何も心配いりませんよ」
パーティー前の忙しさはこれも含めてだったのか…誰も何も言わず普段通りに接してくれていた事にまた泣きそうになるレイラを見てアイナが慌てる。
「さあ本当に明日から今までした事の無い経験が始まるのですから、ゆっくりおやすみくださいお嬢様」
「そうね…おやすみなさいアイナ」
一人になってゆっくり目を閉じると、どうしても思い浮かべてしまう人を頭を振って消そうとする。
──今は…思い出すのも、考えるのも一旦やめよう…
全ての感情に蓋をするように、ギュッと目を強く瞑った。
朝起きると、周りは全ての用意が整っておりレイラの支度が済み次第すぐの出発となった。
「気をつけるのですよ。くれぐれも…」
「お母様行ってきます」
「無理をしないようにね」
「はい。お兄様も」
泣いている母親を支えながらアルフが笑顔で見送ってくれた。
「行ってまいります」
レイラも笑顔で手を振り出発した。
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