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9 諦めのきっかけ
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彼女の名前はコラリー・ブリュレ。ブリュレ伯爵の1人娘である。
セドリックと同じクラスで何かと一緒に行動している。
セドリックの周りは令嬢が集まることが多いが、コラリーが必ず一番近く、そして長くそばにいる。
レイラがはじめてコラリーを見たのは学園に入ってすぐ、職員室から出た時であった。廊下の先にセドリックを見つけ嬉しく弾む心を抑えながら側まで行こうと少し歩みを早めた時、横にいたコラリーに睨まれた。
何故睨まれるのか分からず、そのまま歩きを止めずにいたが、数人の令嬢に道を塞がれた。
「セドリック様の婚約者と言えど、学年が上の方たちに近づいてはダメですわ」
「コラリー様の邪魔はしないでくださいね」
「ほら、セドリック様とコラリー様お似合いでしょ」
公爵家令嬢で王太子の婚約者であるレイラに本来こんな事を言える立場の令嬢たちではなかったが、学園と言う特殊な場所で女子の団体独特の雰囲気が言わせているのか…
言われたレイラもほとんど外の世界を知らずにいた為、学園内の事を知らない自分が悪かったのだと素直に引き下がった。
──セドリック様には後で挨拶すればいいわよね
そのうちセドリックから連絡があるものだと思って待っていたが、連絡はなく学園内で見かける度横には必ずコラリーがいたのだ。
気分的に落ち込む日々だったが、学園での授業はとても興味のある内容ばかりで必死に勉強した。
数人と課題を解くグループ学習が特に好きだった。
今まで一人で勉強してきたので、みんなで意見を出し合い正解にたどり着けた時の達成感を共感できるのが何より嬉しかった。
グループ学習が続いていたある日、セドリックからの呼び出しがあった。
兄アルフも一緒に招待されたので待ち合わせをした。
「お兄様。お待たせしました」
「学園はどうだ?楽しい?」
「はい。勉強がこんなに楽しいと気づけて本当に嬉しです」
「そうか…」
アルフは久しぶりに楽しそうな妹の笑顔を見て安心した。
二人で指定された場所で待っていると、学園内にある王族が自由に使える部屋に案内された。
──久しぶりにセドリック様にお会いできる
胸に手を当て落ち着いてから案内されたら部屋のソファーに座る。
しばらくすると執事が扉を開けセドリックが入ってきた。
立ち上がろうとした二人に構わないと手で制しセドリックは向かいに座る。
「レイラ久しぶりだな。学園入学出来て良かった。不便はないか?」
「セドリック様ありがとうございます。クラスの方とも仲良くなれて凄く楽しいです」
穏やかに微笑むレイラを見て少し目を細めセドリックは執事の用意したお茶を飲む。一口飲んだところでレイラを見てため息をはいた。
「レイラは楽しんで勉強している立場ではないだろ?」
「え?」
「セド…殿下それはどういう意味ですか」
アルフがセドリックを少し睨みながら聞き返すとセドリックは目を伏せ静かに話す。
「王太子妃として上に立つ立場のレイラがそれではおかしくないか。クラスの者と仲良くなる必要はない」
「殿下もクラスメイトとご一緒に勉強しているではありませんか」
「仲良くしてるつもりは無い。私は常にみなの上に立つ者として接している」
威厳ある声で言われアルフは一瞬怯んだ。レイラは身体が微かに震え出すのを抑えるしかなかったが、脳裏に浮かんだのはセドリックとコラリーが並んで歩いているところだった。
「レイラも節度を保って過ごすように」
──セドリック様はあの方と節度を保って接していると?
ズキッと胸が痛くなる。
これは怒りなのか、嫉妬なのか、悲しみなのか…全てひっくるめて複雑な感情が湧き上がって来るのを感じた。
今この瞬間は怒りが勝っていてはじめてセドリックに意地を張ったあの時のように感情的に叫んでしまった。
「セドリック様にそんな事を言われたくありません!私は皆様と仲良く学んでいる時間の方が今ここにいるより楽しいです!!」
言い返されると思っていなかったセドリックは目を見開いて驚いていたが、眉を寄せ拗ねたような顔をしてソファーから立ち上がる。
「そうか。では好きにすれば良い」
「私の部屋にいつものお茶を用意しろ!気分が悪い!!」
執事に怒鳴りつけそのまま部屋から出ていってしまった。
アルフが手を握りしめ泣くのを我慢しているレイラを優しく抱きしめる。
「殿下は…変わってしまったのかもしれない」
「お兄…様…私は…」
「もう我慢しなくていいよレイラ」
兄の優しい声に堰を切ったように涙が止まらなかった。
アルフは自分の胸の中で泣いているレイラを見ながら兼ねてから思っていた事を口にする。
「レイラ…もし可能なら殿下との婚約を
考え直すか?」
「お兄様?」
「前から思っていたが…さすがにこのままではレイラが辛い思いをするだけだ。お父様に一度相談を…」
「待って…待ってください!そんな事になったらご迷惑を…」
「家のことは大丈夫だよ」
「お父様がお許しになるとは思えません。もう少し…待ってください。私が頑張れば今よりは…」
「レイラ…」
また溢れてくる涙を止めることが出来ず、兄の胸の中で泣き続けた。
──私に落ち度がないようにして…もう…殿下に期待しなければいいのよ…
──私を見てくれると期待しなければ…少しはこの痛みも楽になるかしら…
セドリックと同じクラスで何かと一緒に行動している。
セドリックの周りは令嬢が集まることが多いが、コラリーが必ず一番近く、そして長くそばにいる。
レイラがはじめてコラリーを見たのは学園に入ってすぐ、職員室から出た時であった。廊下の先にセドリックを見つけ嬉しく弾む心を抑えながら側まで行こうと少し歩みを早めた時、横にいたコラリーに睨まれた。
何故睨まれるのか分からず、そのまま歩きを止めずにいたが、数人の令嬢に道を塞がれた。
「セドリック様の婚約者と言えど、学年が上の方たちに近づいてはダメですわ」
「コラリー様の邪魔はしないでくださいね」
「ほら、セドリック様とコラリー様お似合いでしょ」
公爵家令嬢で王太子の婚約者であるレイラに本来こんな事を言える立場の令嬢たちではなかったが、学園と言う特殊な場所で女子の団体独特の雰囲気が言わせているのか…
言われたレイラもほとんど外の世界を知らずにいた為、学園内の事を知らない自分が悪かったのだと素直に引き下がった。
──セドリック様には後で挨拶すればいいわよね
そのうちセドリックから連絡があるものだと思って待っていたが、連絡はなく学園内で見かける度横には必ずコラリーがいたのだ。
気分的に落ち込む日々だったが、学園での授業はとても興味のある内容ばかりで必死に勉強した。
数人と課題を解くグループ学習が特に好きだった。
今まで一人で勉強してきたので、みんなで意見を出し合い正解にたどり着けた時の達成感を共感できるのが何より嬉しかった。
グループ学習が続いていたある日、セドリックからの呼び出しがあった。
兄アルフも一緒に招待されたので待ち合わせをした。
「お兄様。お待たせしました」
「学園はどうだ?楽しい?」
「はい。勉強がこんなに楽しいと気づけて本当に嬉しです」
「そうか…」
アルフは久しぶりに楽しそうな妹の笑顔を見て安心した。
二人で指定された場所で待っていると、学園内にある王族が自由に使える部屋に案内された。
──久しぶりにセドリック様にお会いできる
胸に手を当て落ち着いてから案内されたら部屋のソファーに座る。
しばらくすると執事が扉を開けセドリックが入ってきた。
立ち上がろうとした二人に構わないと手で制しセドリックは向かいに座る。
「レイラ久しぶりだな。学園入学出来て良かった。不便はないか?」
「セドリック様ありがとうございます。クラスの方とも仲良くなれて凄く楽しいです」
穏やかに微笑むレイラを見て少し目を細めセドリックは執事の用意したお茶を飲む。一口飲んだところでレイラを見てため息をはいた。
「レイラは楽しんで勉強している立場ではないだろ?」
「え?」
「セド…殿下それはどういう意味ですか」
アルフがセドリックを少し睨みながら聞き返すとセドリックは目を伏せ静かに話す。
「王太子妃として上に立つ立場のレイラがそれではおかしくないか。クラスの者と仲良くなる必要はない」
「殿下もクラスメイトとご一緒に勉強しているではありませんか」
「仲良くしてるつもりは無い。私は常にみなの上に立つ者として接している」
威厳ある声で言われアルフは一瞬怯んだ。レイラは身体が微かに震え出すのを抑えるしかなかったが、脳裏に浮かんだのはセドリックとコラリーが並んで歩いているところだった。
「レイラも節度を保って過ごすように」
──セドリック様はあの方と節度を保って接していると?
ズキッと胸が痛くなる。
これは怒りなのか、嫉妬なのか、悲しみなのか…全てひっくるめて複雑な感情が湧き上がって来るのを感じた。
今この瞬間は怒りが勝っていてはじめてセドリックに意地を張ったあの時のように感情的に叫んでしまった。
「セドリック様にそんな事を言われたくありません!私は皆様と仲良く学んでいる時間の方が今ここにいるより楽しいです!!」
言い返されると思っていなかったセドリックは目を見開いて驚いていたが、眉を寄せ拗ねたような顔をしてソファーから立ち上がる。
「そうか。では好きにすれば良い」
「私の部屋にいつものお茶を用意しろ!気分が悪い!!」
執事に怒鳴りつけそのまま部屋から出ていってしまった。
アルフが手を握りしめ泣くのを我慢しているレイラを優しく抱きしめる。
「殿下は…変わってしまったのかもしれない」
「お兄…様…私は…」
「もう我慢しなくていいよレイラ」
兄の優しい声に堰を切ったように涙が止まらなかった。
アルフは自分の胸の中で泣いているレイラを見ながら兼ねてから思っていた事を口にする。
「レイラ…もし可能なら殿下との婚約を
考え直すか?」
「お兄様?」
「前から思っていたが…さすがにこのままではレイラが辛い思いをするだけだ。お父様に一度相談を…」
「待って…待ってください!そんな事になったらご迷惑を…」
「家のことは大丈夫だよ」
「お父様がお許しになるとは思えません。もう少し…待ってください。私が頑張れば今よりは…」
「レイラ…」
また溢れてくる涙を止めることが出来ず、兄の胸の中で泣き続けた。
──私に落ち度がないようにして…もう…殿下に期待しなければいいのよ…
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