意地を張っていたら6年もたってしまいました

Hkei

文字の大きさ
上 下
9 / 27

9 諦めのきっかけ

しおりを挟む
彼女の名前はコラリー・ブリュレ。ブリュレ伯爵の1人娘である。
セドリックと同じクラスで何かと一緒に行動している。
セドリックの周りは令嬢が集まることが多いが、コラリーが必ず一番近く、そして長くそばにいる。

レイラがはじめてコラリーを見たのは学園に入ってすぐ、職員室から出た時であった。廊下の先にセドリックを見つけ嬉しく弾む心を抑えながら側まで行こうと少し歩みを早めた時、横にいたコラリーに睨まれた。
何故睨まれるのか分からず、そのまま歩きを止めずにいたが、数人の令嬢に道を塞がれた。

「セドリック様の婚約者と言えど、学年が上の方たちに近づいてはダメですわ」
「コラリー様の邪魔はしないでくださいね」
「ほら、セドリック様とコラリー様お似合いでしょ」

公爵家令嬢で王太子の婚約者であるレイラに本来こんな事を言える立場の令嬢たちではなかったが、学園と言う特殊な場所で女子の団体独特の雰囲気が言わせているのか…

言われたレイラもほとんど外の世界を知らずにいた為、学園内の事を知らない自分が悪かったのだと素直に引き下がった。


──セドリック様には後で挨拶すればいいわよね


そのうちセドリックから連絡があるものだと思って待っていたが、連絡はなく学園内で見かける度横には必ずコラリーがいたのだ。

気分的に落ち込む日々だったが、学園での授業はとても興味のある内容ばかりで必死に勉強した。
数人と課題を解くグループ学習が特に好きだった。
今まで一人で勉強してきたので、みんなで意見を出し合い正解にたどり着けた時の達成感を共感できるのが何より嬉しかった。

グループ学習が続いていたある日、セドリックからの呼び出しがあった。
兄アルフも一緒に招待されたので待ち合わせをした。

「お兄様。お待たせしました」
「学園はどうだ?楽しい?」
「はい。勉強がこんなに楽しいと気づけて本当に嬉しです」
「そうか…」

アルフは久しぶりに楽しそうな妹の笑顔を見て安心した。

二人で指定された場所で待っていると、学園内にある王族が自由に使える部屋に案内された。

──久しぶりにセドリック様にお会いできる

胸に手を当て落ち着いてから案内されたら部屋のソファーに座る。
しばらくすると執事が扉を開けセドリックが入ってきた。
立ち上がろうとした二人に構わないと手で制しセドリックは向かいに座る。

「レイラ久しぶりだな。学園入学出来て良かった。不便はないか?」
「セドリック様ありがとうございます。クラスの方とも仲良くなれて凄く楽しいです」

穏やかに微笑むレイラを見て少し目を細めセドリックは執事の用意したお茶を飲む。一口飲んだところでレイラを見てため息をはいた。

「レイラは楽しんで勉強している立場ではないだろ?」
「え?」
「セド…殿下それはどういう意味ですか」

アルフがセドリックを少し睨みながら聞き返すとセドリックは目を伏せ静かに話す。

「王太子妃として上に立つ立場のレイラがそれではおかしくないか。クラスの者と仲良くなる必要はない」

「殿下もクラスメイトとご一緒に勉強しているではありませんか」
「仲良くしてるつもりは無い。私は常にみなの上に立つ者として接している」

威厳ある声で言われアルフは一瞬怯んだ。レイラは身体が微かに震え出すのを抑えるしかなかったが、脳裏に浮かんだのはセドリックとコラリーが並んで歩いているところだった。

「レイラも節度を保って過ごすように」


──セドリック様はあの方と節度を保って接していると?


ズキッと胸が痛くなる。
これは怒りなのか、嫉妬なのか、悲しみなのか…全てひっくるめて複雑な感情が湧き上がって来るのを感じた。

今この瞬間は怒りが勝っていてはじめてセドリックに意地を張ったあの時のように感情的に叫んでしまった。

「セドリック様にそんな事を言われたくありません!私は皆様と仲良く学んでいる時間の方が今ここにいるより楽しいです!!」

言い返されると思っていなかったセドリックは目を見開いて驚いていたが、眉を寄せ拗ねたような顔をしてソファーから立ち上がる。

「そうか。では好きにすれば良い」

「私の部屋にいつものお茶を用意しろ!気分が悪い!!」

執事に怒鳴りつけそのまま部屋から出ていってしまった。





アルフが手を握りしめ泣くのを我慢しているレイラを優しく抱きしめる。

「殿下は…変わってしまったのかもしれない」
「お兄…様…私は…」
「もう我慢しなくていいよレイラ」

兄の優しい声に堰を切ったように涙が止まらなかった。

アルフは自分の胸の中で泣いているレイラを見ながら兼ねてから思っていた事を口にする。

「レイラ…もし可能なら殿下との婚約を
考え直すか?」

「お兄様?」

「前から思っていたが…さすがにこのままではレイラが辛い思いをするだけだ。お父様に一度相談を…」

「待って…待ってください!そんな事になったらご迷惑を…」
「家のことは大丈夫だよ」

「お父様がお許しになるとは思えません。もう少し…待ってください。私が頑張れば今よりは…」
「レイラ…」

また溢れてくる涙を止めることが出来ず、兄の胸の中で泣き続けた。





──私に落ち度がないようにして…もう…殿下に期待しなければいいのよ…



──私を見てくれると期待しなければ…少しはこの痛みも楽になるかしら…



しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【本編完結】婚約を解消したいんじゃないの?!

as
恋愛
伯爵令嬢アーシアは公爵子息カルゼの婚約者。 しかし学園の食堂でカルゼが「アーシアのような性格悪い女とは結婚したくない。」と言っているのを聞き、その場に乗り込んで婚約を解消したつもりだったけどーーー

【完結】義姉の言いなりとなる貴方など要りません

かずきりり
恋愛
今日も約束を反故される。 ……約束の時間を過ぎてから。 侍女の怒りに私の怒りが収まる日々を過ごしている。 貴族の結婚なんて、所詮は政略で。 家同士を繋げる、ただの契約結婚に過ぎない。 なのに…… 何もかも義姉優先。 挙句、式や私の部屋も義姉の言いなりで、義姉の望むまま。 挙句の果て、侯爵家なのだから。 そっちは子爵家なのだからと見下される始末。 そんな相手に信用や信頼が生まれるわけもなく、ただ先行きに不安しかないのだけれど……。 更に、バージンロードを義姉に歩かせろだ!? 流石にそこはお断りしますけど!? もう、付き合いきれない。 けれど、婚約白紙を今更出来ない…… なら、新たに契約を結びましょうか。 義理や人情がないのであれば、こちらは情けをかけません。 ----------------------- ※こちらの作品はカクヨムでも掲載しております。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。

りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。 やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか 勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。 ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。 蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。 そんな生活もううんざりです 今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。 これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

痛みは教えてくれない

河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。 マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。 別サイトにも掲載しております。

処理中です...