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7 戸惑い
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「何を驚く?」
驚きすぎて一瞬動きの止まっていたアルフがセドリックに向き合う。
「殿下申し訳ございませんが我々はもう失礼させていただきますので…」
「来たところではないのか?」
今はセドリックの方が少し背が高いのでアルフが少し見上げながらどう返そうかと考えていると、セドリックが大きく歩み寄り微笑みながらレイラの前に立つ。
「久しぶりだな。レイラ」
久しぶりにセドリックを近距離で見て名前を呼ばれ、一瞬で全身が沸騰するように熱くなった。
「レイラ?」
「お久しぶりでございます。殿下」
セドリックは眉を寄せ少しムッとした顔をしたが、素早い動きでレイラの手を取る。
「踊ろう」
「え?」
アルフが止めようとする間も、レイラが驚く間もなくそのまま手を引かれホール中央まで連れていかれた。
皆の注目を浴びながら、一曲踊りきる。セドリックのリードもあるがレイラも優雅な動きで見事なダンスであった。
──殿下と正式にダンスなんて…久しぶり…
先程まで見下し馬鹿にしていたレイラが完璧なダンスを披露したので、コソコソ話をしていた人達は目を逸らしていた。
セドリックに礼をしてその場から去るつもりが手を離して貰えずそのままもう一曲踊りはじめる。
少しゆっくりな曲調でレイラも余裕があった為ちらっとセドリックの顔を見上げると目が合いにっこりと微笑み返された。あまりの眩しさと恥ずかしさに顔を背ける。
──どうしましょ…恥ずかしすぎます。
この3年間、感情のない手紙でのやり取りしかなかった為セドリック自身も感情を表に出さないと思い込んでいたレイラは、今目の前にいるセドリックに戸惑った。
曲が終わりセドリックにエスコートされながらそのままバルコニーまで連れてこられた。庭が見える広めのバルコニーで風が吹いていたがとても心地よかった。
「寒くはないか?飲み物は?」
「大丈夫です。ありがとうございます殿下」
また眉を寄せ今度は少し寂しそうな顔をしてレイラを見る。
「…名前で呼んでくれ。その呼び方だと距離を感じる」
「え?」
拗ねたような顔でそう言うセドリックに驚いた。
「セドリック様?」
「その方がいい」
ぱっと明るく嬉しそうに笑うセドリックはとても幼く見えた。レイラが大好きなセドリックの笑顔だった。
レイラも嬉しくて自然と笑顔になっていた。
──昔のセドリック様のような優しい笑顔…
「今日はうるさい側近がいなかったから、このパーティーにレイラが参加すると聞いて飛び入りで来てしまった。驚かせてすまない」
「いえ、私も殿下…セドリック様はお忙しいかとお知らせしておりませんでしたので…」
セドリックは並んで庭を眺めているレイラの手を取り向き合う。
「この前は出迎えてくれてありがとう。あの時声をかけたかったができず、すまなかった」
「セドリック様…」
「レイラ…3年間会えなかった間…」
セドリックがレイラの顔に手を伸ばした時、バルコニーに人が入ってきた。
「殿下!!勝手に動かれては困ります!!」
「レナート…」
見つかったと目を閉じ下を向くセドリックの所までものすごい速さで歩いてきたその側近は、レイラをちらっと見てセドリックとの間に立ち距離を離した。
「帰りますよ殿下」
「ちょっと待て。私はレイラと…」
「殿下」
レナートの背中しか見えないレイラは二人がどんな表情をしているか分からなかったが、レナートの声がとても怖く一歩下がった。
「分かった…」
セドリックが低く小さな声でつぶやくと、レナートがセドリックを引っ張る様にホールへ戻す。セドリックは名残惜しそうにレイラを見た。
「レイラ…また」
「はい。セドリック様ありがとうございました」
段々自分から遠ざかるセドリックを見送りながら、胸の前で握った手は震えていた。
──何かしら?ものすごく不安になるわ…
セドリックと入れ違いにアルフがバルコニーに出てきた。
「レイラ大丈夫かい?」
「…お兄様…大丈夫です」
「寒い?震えているよ。中に入ろう」
背中を押してくれ中に入った。
セドリックの姿は既になかったが、会場内は先程と何も変わることなくパーティーは続いていた。
両親はまだ残ると言うので、アルフと先に帰る事にした。
帰りの馬車の中、レイラはずっと考え込んでいた。何も話さない妹を心配してアルフが声をかける。
「レイラ本当に大丈夫か?」
「はい…」
ふーと長く息を吐きアルフが腕を組む。
「今日の殿下は…変…だったな」
「お兄様もそう思われましたか?」
組んでいた腕を離し拳を口にあてる。
「どこがと言われると…答えに困るが…」
アルフもそのまま考え込む。
馬車の窓から外を眺めレイラはセドリックの笑顔を思い出していた。
ふふっと笑い兄を見て
「昔の…出会った頃のセドリック様みたいでしたわ」
嬉しそうに笑うレイラを見てアルフも背中を後ろに倒し少し笑った。
──最後は少し怖かったけど、今日は楽しかったわ。セドリック様と踊れたし話もできた。
胸が熱くなるのを感じながら今日のことを思い出し、緩みそうになる顔を必死で抑えた。
レイラはセドリックとまた会って話が出来ればと思っていたが、このパーティーの後、半年以上セドリックから何も連絡はなかった。
驚きすぎて一瞬動きの止まっていたアルフがセドリックに向き合う。
「殿下申し訳ございませんが我々はもう失礼させていただきますので…」
「来たところではないのか?」
今はセドリックの方が少し背が高いのでアルフが少し見上げながらどう返そうかと考えていると、セドリックが大きく歩み寄り微笑みながらレイラの前に立つ。
「久しぶりだな。レイラ」
久しぶりにセドリックを近距離で見て名前を呼ばれ、一瞬で全身が沸騰するように熱くなった。
「レイラ?」
「お久しぶりでございます。殿下」
セドリックは眉を寄せ少しムッとした顔をしたが、素早い動きでレイラの手を取る。
「踊ろう」
「え?」
アルフが止めようとする間も、レイラが驚く間もなくそのまま手を引かれホール中央まで連れていかれた。
皆の注目を浴びながら、一曲踊りきる。セドリックのリードもあるがレイラも優雅な動きで見事なダンスであった。
──殿下と正式にダンスなんて…久しぶり…
先程まで見下し馬鹿にしていたレイラが完璧なダンスを披露したので、コソコソ話をしていた人達は目を逸らしていた。
セドリックに礼をしてその場から去るつもりが手を離して貰えずそのままもう一曲踊りはじめる。
少しゆっくりな曲調でレイラも余裕があった為ちらっとセドリックの顔を見上げると目が合いにっこりと微笑み返された。あまりの眩しさと恥ずかしさに顔を背ける。
──どうしましょ…恥ずかしすぎます。
この3年間、感情のない手紙でのやり取りしかなかった為セドリック自身も感情を表に出さないと思い込んでいたレイラは、今目の前にいるセドリックに戸惑った。
曲が終わりセドリックにエスコートされながらそのままバルコニーまで連れてこられた。庭が見える広めのバルコニーで風が吹いていたがとても心地よかった。
「寒くはないか?飲み物は?」
「大丈夫です。ありがとうございます殿下」
また眉を寄せ今度は少し寂しそうな顔をしてレイラを見る。
「…名前で呼んでくれ。その呼び方だと距離を感じる」
「え?」
拗ねたような顔でそう言うセドリックに驚いた。
「セドリック様?」
「その方がいい」
ぱっと明るく嬉しそうに笑うセドリックはとても幼く見えた。レイラが大好きなセドリックの笑顔だった。
レイラも嬉しくて自然と笑顔になっていた。
──昔のセドリック様のような優しい笑顔…
「今日はうるさい側近がいなかったから、このパーティーにレイラが参加すると聞いて飛び入りで来てしまった。驚かせてすまない」
「いえ、私も殿下…セドリック様はお忙しいかとお知らせしておりませんでしたので…」
セドリックは並んで庭を眺めているレイラの手を取り向き合う。
「この前は出迎えてくれてありがとう。あの時声をかけたかったができず、すまなかった」
「セドリック様…」
「レイラ…3年間会えなかった間…」
セドリックがレイラの顔に手を伸ばした時、バルコニーに人が入ってきた。
「殿下!!勝手に動かれては困ります!!」
「レナート…」
見つかったと目を閉じ下を向くセドリックの所までものすごい速さで歩いてきたその側近は、レイラをちらっと見てセドリックとの間に立ち距離を離した。
「帰りますよ殿下」
「ちょっと待て。私はレイラと…」
「殿下」
レナートの背中しか見えないレイラは二人がどんな表情をしているか分からなかったが、レナートの声がとても怖く一歩下がった。
「分かった…」
セドリックが低く小さな声でつぶやくと、レナートがセドリックを引っ張る様にホールへ戻す。セドリックは名残惜しそうにレイラを見た。
「レイラ…また」
「はい。セドリック様ありがとうございました」
段々自分から遠ざかるセドリックを見送りながら、胸の前で握った手は震えていた。
──何かしら?ものすごく不安になるわ…
セドリックと入れ違いにアルフがバルコニーに出てきた。
「レイラ大丈夫かい?」
「…お兄様…大丈夫です」
「寒い?震えているよ。中に入ろう」
背中を押してくれ中に入った。
セドリックの姿は既になかったが、会場内は先程と何も変わることなくパーティーは続いていた。
両親はまだ残ると言うので、アルフと先に帰る事にした。
帰りの馬車の中、レイラはずっと考え込んでいた。何も話さない妹を心配してアルフが声をかける。
「レイラ本当に大丈夫か?」
「はい…」
ふーと長く息を吐きアルフが腕を組む。
「今日の殿下は…変…だったな」
「お兄様もそう思われましたか?」
組んでいた腕を離し拳を口にあてる。
「どこがと言われると…答えに困るが…」
アルフもそのまま考え込む。
馬車の窓から外を眺めレイラはセドリックの笑顔を思い出していた。
ふふっと笑い兄を見て
「昔の…出会った頃のセドリック様みたいでしたわ」
嬉しそうに笑うレイラを見てアルフも背中を後ろに倒し少し笑った。
──最後は少し怖かったけど、今日は楽しかったわ。セドリック様と踊れたし話もできた。
胸が熱くなるのを感じながら今日のことを思い出し、緩みそうになる顔を必死で抑えた。
レイラはセドリックとまた会って話が出来ればと思っていたが、このパーティーの後、半年以上セドリックから何も連絡はなかった。
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