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『はじめまして。僕はセドリック君は?』
父親と一緒に王宮に来て怖くてずっと父親の後ろに隠れていたレイラに笑顔で話しかけたのは10歳のセドリックだった。
はじめて見た王子は本当に輝いていて素敵だった。
幼いレイラは一目でセドリックの虜になっていた。
──あの頃のセドリック様は優しかったな…
懐かしい時期を思い出しながら目を覚ます。
真っ先に目に入ってきたのは自分の部屋の天井で、頭を少し横に向けるとメイドのアイナが水差しをサイドテーブルに置いているところだった。
「アイナ…私…」
「お嬢様!!」
起き上がろうとするレイラをまた寝かしてアイナはすぐに知らせに出ていった。
しばらくすると両親揃って部屋に入ってきた。
「目を覚ましたのか?レイラ」
急いで起き上がり頭を下げる。アイナが身体を支えるため背中にクッションを挟んでくれた。
「お父様、お母様…」
握りしめた手が震える…。顔を上げないとと思うが中々上げることができない。
昔から父親は厳しい為、面と向かって話をするのは今だに緊張する。
「殿下の見送りを断られたそうだな。そんなことでどうする」
「申し訳…ございません」
公爵は大きなため息を吐きそのまま部屋を出ていった。
バンッと扉の閉まる音が胸に刺さる。
──お父様をまた失望させてしまったわ…
泣いてはダメだと必死に堪えるレイラに母親のクラーラは困った顔をしていた。
「レイラ…本当に大丈夫?上手くやってくれないと困るわ。後で私がお父様に怒られるしアルフの将来もあるしね」
「申し訳ございません」
「気をつけてね」
そのまま母親も部屋を出ていく。冷たくされたり愛情をかけてもらっていない訳ではないが、嫡男のアルフを大事にしすぎるため扱いには差が出ている。
クラーラ自身夫である公爵の機嫌を損ねないようにするのに必死でその事には気がついていない。
──泣くほどのことではないわ…
ベッドに顔を埋めていると、部屋の扉が乱暴に開けられアルフが立っていた。
「お兄様?」
「大丈夫かレイラ!!」
アルフはセドリックを見送った後フォローの為に急いで帰ってきてくれたのだ。
アイナが入れたお茶を飲みながらアルフは一息ついた。
「殿下も急に出立が決まったからね。レイラに最後会えなくて寂しいと仰っていた」
ピクッと肩が動く。ゆっくりアルフを見て恐る恐る聞く。
「本当ですか?」
「それを伝えに私が戻ってきたんだよ」
兄が優しい言葉をかけてくれるが、不安が増していくのを感じる。
アルフはそんなレイラの頭を撫で優しく微笑む。
「レイラから近況を手紙で知らせたらどうだ?殿下も待っていると思うよ」
──本当に?セドリック様は私からの手紙を読んでくださるかしら
振り向いてくれないセドリックに手紙を送っても、疎がられるだけではないかと躊躇するが、今少しでも繋がっている細い糸を自分から切るほどの勇気はレイラにはなかった。
体調が戻ると普段の生活が戻ってくる。王太子の婚約者として学ばなければならない事が沢山あるレイラは、忙しい毎日を送っていたが、セドリックへの手紙は忘れず、心を込めて送っていた。
何回かのやり取りは事務的な手紙しか返ってこなかったが、今レイラの手元には小箱と共に手紙が添えられていた。
そっと箱を開けると小さな花をモチーフにしたブローチが入っており、セドリックがレイラの為に選んだ物だと手紙に書いてあった。
レイラはそっとブローチを手に取り両手で握りしめる。
──嬉しい…
どんな思いで選んでくれたのだろうかと考えるだけで胸が熱くなるのを感じていた。
レイラが送る数よりはるかに少ない上、短い感情のない返事が続き心が折れそうになっていたが、この小さなプレゼントはレイラを浮上させるのは充分な物だった。
しかし当初1年の予定だったセドリックの留学は3年に及び、その間一度も帰ってくることなくレイラとも手紙のみでのやり取りしかなかったのである。
父親と一緒に王宮に来て怖くてずっと父親の後ろに隠れていたレイラに笑顔で話しかけたのは10歳のセドリックだった。
はじめて見た王子は本当に輝いていて素敵だった。
幼いレイラは一目でセドリックの虜になっていた。
──あの頃のセドリック様は優しかったな…
懐かしい時期を思い出しながら目を覚ます。
真っ先に目に入ってきたのは自分の部屋の天井で、頭を少し横に向けるとメイドのアイナが水差しをサイドテーブルに置いているところだった。
「アイナ…私…」
「お嬢様!!」
起き上がろうとするレイラをまた寝かしてアイナはすぐに知らせに出ていった。
しばらくすると両親揃って部屋に入ってきた。
「目を覚ましたのか?レイラ」
急いで起き上がり頭を下げる。アイナが身体を支えるため背中にクッションを挟んでくれた。
「お父様、お母様…」
握りしめた手が震える…。顔を上げないとと思うが中々上げることができない。
昔から父親は厳しい為、面と向かって話をするのは今だに緊張する。
「殿下の見送りを断られたそうだな。そんなことでどうする」
「申し訳…ございません」
公爵は大きなため息を吐きそのまま部屋を出ていった。
バンッと扉の閉まる音が胸に刺さる。
──お父様をまた失望させてしまったわ…
泣いてはダメだと必死に堪えるレイラに母親のクラーラは困った顔をしていた。
「レイラ…本当に大丈夫?上手くやってくれないと困るわ。後で私がお父様に怒られるしアルフの将来もあるしね」
「申し訳ございません」
「気をつけてね」
そのまま母親も部屋を出ていく。冷たくされたり愛情をかけてもらっていない訳ではないが、嫡男のアルフを大事にしすぎるため扱いには差が出ている。
クラーラ自身夫である公爵の機嫌を損ねないようにするのに必死でその事には気がついていない。
──泣くほどのことではないわ…
ベッドに顔を埋めていると、部屋の扉が乱暴に開けられアルフが立っていた。
「お兄様?」
「大丈夫かレイラ!!」
アルフはセドリックを見送った後フォローの為に急いで帰ってきてくれたのだ。
アイナが入れたお茶を飲みながらアルフは一息ついた。
「殿下も急に出立が決まったからね。レイラに最後会えなくて寂しいと仰っていた」
ピクッと肩が動く。ゆっくりアルフを見て恐る恐る聞く。
「本当ですか?」
「それを伝えに私が戻ってきたんだよ」
兄が優しい言葉をかけてくれるが、不安が増していくのを感じる。
アルフはそんなレイラの頭を撫で優しく微笑む。
「レイラから近況を手紙で知らせたらどうだ?殿下も待っていると思うよ」
──本当に?セドリック様は私からの手紙を読んでくださるかしら
振り向いてくれないセドリックに手紙を送っても、疎がられるだけではないかと躊躇するが、今少しでも繋がっている細い糸を自分から切るほどの勇気はレイラにはなかった。
体調が戻ると普段の生活が戻ってくる。王太子の婚約者として学ばなければならない事が沢山あるレイラは、忙しい毎日を送っていたが、セドリックへの手紙は忘れず、心を込めて送っていた。
何回かのやり取りは事務的な手紙しか返ってこなかったが、今レイラの手元には小箱と共に手紙が添えられていた。
そっと箱を開けると小さな花をモチーフにしたブローチが入っており、セドリックがレイラの為に選んだ物だと手紙に書いてあった。
レイラはそっとブローチを手に取り両手で握りしめる。
──嬉しい…
どんな思いで選んでくれたのだろうかと考えるだけで胸が熱くなるのを感じていた。
レイラが送る数よりはるかに少ない上、短い感情のない返事が続き心が折れそうになっていたが、この小さなプレゼントはレイラを浮上させるのは充分な物だった。
しかし当初1年の予定だったセドリックの留学は3年に及び、その間一度も帰ってくることなくレイラとも手紙のみでのやり取りしかなかったのである。
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