上 下
2 / 27

2 沈む気持ち

しおりを挟む
一直線に歩きホールからバルコニーまで出たレイラは端の方で一人壁に寄りかかった。

「っ…う…」

次から次と溢れてくる涙を止めることができず、手で口を押さえ声を殺し泣いていた。



──セドリック様…なんて…




「レイラ!こんな所にいたの」

名前を呼ばれ驚いて顔をあげると、一瞬期待した人ではなく兄アルフがいた。

「お兄様…私セドリック様に…」

また涙が溢れてくるのを必死で拭こうとすると、手を取られて優しく抱きしめてくれた。

「擦ってはダメだよ」
「お兄様…」

少し落ち着くまでアルフはレイラを抱きしめていたが、そっと離れてハンカチで涙を拭いてくれ顔の位置を合わせるように少し屈んだ。

「今日はレイラが主役でしょ。こんな所にいてはダメだよ。もう戻れる?」
「…はい。申し訳ございませんお兄様」

ふっと笑いレイラの頭を撫で手を引いて中に戻る。中は主役が少しの間いなかったことなど問題なかったようにゆったりとした時間がすぎていた。

沢山いる人の中でもレイラはセドリックをすぐ見つけてしまう。
レイラがいなかったからかまた数人の令嬢達が周りにいた。

「レイラ…気持ちは分かるけど、今日ちゃんと殿下と仲直りしないと…」
「分かっています」

セドリックは近々隣国へ留学することが決まっていた。最低でも1年帰ってこない。このままだと気まづいままで離れる事になるのはレイラも分かっていた。

しかし先程からレイラと目が合っているのに、まだ自分にも近づいてこず周りの令嬢に笑顔を振りまいているセドリックに素直になれず、わざとらしくフンッと横を向いてしまった。



そう…意地を張ってしまったのだ。



パーティーが終わる頃には話しかけてくれると思っていたが、結局それから話すことなくお開きとなった。
セドリックも学友達とそのまま帰ってしまい、レイラは一人呆然とホールに立ち尽くした。




──セドリック様は…本当にこのままでもいいと思ってらっしゃるのかしら


自分の手を胸の前で握りしめ震える身体を必死で押さえた。
意地を張った後悔と、セドリックへの怒りと、悲しさ…


それでも自分の心を占めるセドリックへの想いを複雑に抱え、動けずにいたレイラは、入口で待っていた兄に促され部屋に戻った。




翌日にはアルフは寮へ帰る準備をして、後は迎えの馬車を待つだけになっていた。父親とは昨日の夜話をしていたので今見送りにいるのは母親とレイラだけだった。

「アルフ気をつけてね」
「はい。お母様も体調気をつけてください」

少し後ろに控えていたレイラを見て微笑み声をかける。

「レイラも勉強頑張ってね」
「はい。あの…お兄様」

アルフはレイラの側まで来て耳元でつぶやく。

「殿下とは留学前に会えると思うし、見送りにも来るでしょ?その時私が一緒に謝ってあげるよ」
「お兄様…ありがとうございます」


王太子の婚約者として学ばなければならない事は沢山あり、レイラは毎日忙しい日々を過ごしていたが、留学前に一度会えると思いながら頑張っていた。








そんな時セドリックから手紙が届いた。

「お嬢様殿下からです!!」
「もうアイナがそんなに嬉しそうな顔しないで」

メイドのアイナから手紙を受け取り、ドキドキしながら封を開けた。





『明日エルンテ国に出立する。見送りは無用』





事務的な、なんの感情ものっていない一文だけであった。

手紙を読んだレイラは全身から力が抜けていくのを感じた。



──これだけ…セドリック様にとって私の存在もこれだけと言うことなのね…




「お嬢様…?」

キラキラ輝いていた瞳から光が消え顔色も無くなった主人を心配してアイナは側に寄る。
そのままレイラは寝込んでしまった。





しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【本編完結】婚約を解消したいんじゃないの?!

as
恋愛
伯爵令嬢アーシアは公爵子息カルゼの婚約者。 しかし学園の食堂でカルゼが「アーシアのような性格悪い女とは結婚したくない。」と言っているのを聞き、その場に乗り込んで婚約を解消したつもりだったけどーーー

余命わずかな私は家族にとって邪魔なので死を選びますが、どうか気にしないでくださいね?

日々埋没。
恋愛
 昔から病弱だった侯爵令嬢のカミラは、そのせいで婚約者からは婚約破棄をされ、世継ぎどころか貴族の長女として何の義務も果たせない自分は役立たずだと思い悩んでいた。  しかし寝たきり生活を送るカミラが出来ることといえば、家の恥である彼女を疎んでいるであろう家族のために自らの死を願うことだった。  そんなある日願いが通じたのか、突然の熱病で静かに息を引き取ったカミラ。  彼女の意識が途切れる最後の瞬間、これで残された家族は皆喜んでくれるだろう……と思いきや、ある男性のおかげでカミラに新たな人生が始まり――!?

結婚式の夜、夫が別の女性と駆け落ちをしました。ありがとうございます。

黒田悠月
恋愛
結婚式の夜、夫が別の女性と駆け落ちをしました。 とっても嬉しいです。ありがとうございます!

婚約者様は連れ子の妹に夢中なようなので別れる事にした。〜連れ子とは知らなかったと言い訳をされましても〜

おしゃれスナイプ
恋愛
事あるごとに婚約者の実家に金の無心をしてくる碌でなし。それが、侯爵令嬢アルカ・ハヴェルの婚約者であるドルク・メルアを正しくあらわす言葉であった。 落ち目の危機に瀕しているメルア侯爵家であったが、これまでの付き合いから見捨てられなかった父が縁談を纏めてしまったのが全ての始まり。 しかし、ある日転機が訪れる。 アルカの父の再婚相手の連れ子、妹にあたるユーミスがドルクの婚約者の地位をアルカから奪おうと試みたのだ。 そして、ドルクもアルカではなく、過剰に持ち上げ、常にご機嫌を取るユーミスを気に入ってゆき、果てにはアルカへ婚約の破談を突きつけてしまう事になる。

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた婚約者。 完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? 第一皇子とその方が相思相愛ならいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- カクヨム、なろうにも投稿しています。

酷い扱いを受けていたと気付いたので黙って家を出たら、家族が大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 ――わたしは、家族に尽くすために生まれてきた存在――。  子爵家の次女ベネディクトは幼い頃から家族にそう思い込まされていて、父と母と姉の幸せのために身を削る日々を送っていました。  ですがひょんなことからベネディクトは『思い込まれている』と気付き、こんな場所に居てはいけないとコッソリお屋敷を去りました。  それによって、ベネディクトは幸せな人生を歩み始めることになり――反対に3人は、不幸に満ちた人生を歩み始めることとなるのでした。

完璧令嬢が仮面を外す時

編端みどり
恋愛
※本編完結、番外編を更新中です。 冷たいけど完璧。それが王太子の婚約者であるマーガレットの評価。 ある日、婚約者の王太子に好きな人ができたから婚約を解消して欲しいと頼まれたマーガレットは、神妙に頷きながら内心ガッツポーズをしていた。 王太子は優しすぎて、マーガレットの好みではなかったからだ。 婚約を解消するには長い道のりが必要だが、自分を愛してくれない男と結婚するより良い。そう思っていたマーガレットに、身内枠だと思っていた男がストレートに告白してきた。 実はマーガレットは、恋愛小説が大好きだった。憧れていたが自分には無関係だと思っていた甘いシチュエーションにキャパオーバーするマーガレットと、意地悪そうな笑みを浮かべながら微笑む男。 彼はマーガレットの知らない所で、様々な策を練っていた。 マーガレットは彼の仕掛けた策を解明できるのか? 全24話 ※話数の番号ずれてました。教えて頂きありがとうございます! ※アルファポリス様と、カクヨム様に投稿しています。

ヤンデレ悪役令嬢の前世は喪女でした。反省して婚約者へのストーキングを止めたら何故か向こうから近寄ってきます。

砂礫レキ
恋愛
伯爵令嬢リコリスは嫌われていると知りながら婚約者であるルシウスに常日頃からしつこく付き纏っていた。 ある日我慢の限界が来たルシウスに突き飛ばされリコリスは後頭部を強打する。 その結果自分の前世が20代後半喪女の乙女ゲーマーだったことと、 この世界が女性向け恋愛ゲーム『花ざかりスクールライフ』に酷似していることに気づく。 顔がほぼ見えない長い髪、血走った赤い目と青紫の唇で婚約者に執着する黒衣の悪役令嬢。 前世の記憶が戻ったことで自らのストーカー行為を反省した彼女は婚約解消と不気味過ぎる外見のイメージチェンジを決心するが……?

処理中です...