夏影 ‐なつかげ‐

天野 帝釈

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浮沈 ‐うきしずみ‐

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それからなんだか朝霧は、客に買われても気が乗らなくなってしまった。

今まで磨いてきた、艶やかしく洗練した仕草も声も、少年の顔が浮かんでは、
浅ましいものに思えて、急に嫌になって呆けてしまうのだ。

太夫になってからというもの、羽振りの良い客を少し取ればよいだけで、
そこまで疲れもあらず、文は少し面倒だったが、良いことずくめのはずだった。

客も太夫の愛想が、他のお高くとまってるのと違って、
品もあって良いもんだから、可愛がって高いもんや、良い小遣いを渡していたのに、

最近は心ここにあらずというもんだ。

だから、ちょっとは時間を空けて、会いに来てやるかと、
間を開けるようになってしまった。

だから太夫も躍起なって、足繫く通う客に余計に擦り寄るようになった。



そうすると、そんな朝霧太夫が愛しくなってしまった流行りの呉服屋の旦那が、
浮かれてしまい、太夫の他の客への呆けは恋煩いで、
自分にやたらすり寄るのは太夫が自分に惚れてるからと思うようになった。

この男、そこそこ年は取っているが、
流行りの簪屋や歌舞伎役者がもつ化粧屋と組む程のやり手である。

朝霧太夫を囲いたいと言い出した。

こんな機会はまたとあるまい、幼い頃からここで暮らした朝霧には、
年季が明けた後の生活など、自分にはわからぬし、
どう生きればよいのかなどわからぬ。





そうであるのに、どうにも乗り気にはなれず、暫く焦らすことにした。
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