23 / 52
後悔
しおりを挟む
おミツは膳を片付けると、家の掃除と次の食事の下拵えと、
少しは栄養を取れるようにと、薬湯を煮出す。
これが思いの外時間がかかり、すぐに日が暮れだすのだ。
相楽は一日中書きものをしていたようで、書き損じの文のようなものが大量に散らばっていた。
「相楽様。夕餉の用意が出来ました。」
何となく冷たい声が出てしまった。
それでも気付いていないのか、いつものように相楽は文机から顔をゆっくりと上げ、
「あぁ。」
と呟いて筆を置いた。
言いたくもないのに余計な一言が口から滑り落ちる。
「相楽様。あまり無理をされますとお体に障ります。」
いつもあまり話さないおミツから注意を受け、相楽の左眉がピクリと動いた。
一言「構うな。」
とぴしゃりと言って膳に手を付け始める。
その手がいつもより、心なしか急いでいるように見える。
満足な文が書き上がっていないのだろう。
八重という女子へだろうか。
ついつい言ってはならないとわかってはいるものの、ポロリと口から零れ落ちた。
「八重殿ですか・・・。」
ピタリと相楽の手が止まった。
しまった。
昼に盗み聞きをされたと思うに違いない。
相楽は一瞬おミツをちらりと見たが、
「お主が気にする事では無い。」
と言って再び膳に箸を伸ばし始めた。
気にされないのが悔しくて、
「何故その方は相楽様に会いに来て下さらないのですか?」
と最後の方は叫ぶように言ってしまった。
それが相楽の逆鱗に触れてしまったらしい。
背後にあった刀を手にし、
「無礼な小娘め!そこに直れ!叩き斬ってくれる!」
と怒りの声を上げた。
普段物静かな相楽がここまで取り乱すのは珍しい。
激怒しているところを見ると、もしかしてその女子はもう・・・。
おミツはそこまで思い至ると、何と浅はかな事をと後悔の念に苛まれた。
少しは栄養を取れるようにと、薬湯を煮出す。
これが思いの外時間がかかり、すぐに日が暮れだすのだ。
相楽は一日中書きものをしていたようで、書き損じの文のようなものが大量に散らばっていた。
「相楽様。夕餉の用意が出来ました。」
何となく冷たい声が出てしまった。
それでも気付いていないのか、いつものように相楽は文机から顔をゆっくりと上げ、
「あぁ。」
と呟いて筆を置いた。
言いたくもないのに余計な一言が口から滑り落ちる。
「相楽様。あまり無理をされますとお体に障ります。」
いつもあまり話さないおミツから注意を受け、相楽の左眉がピクリと動いた。
一言「構うな。」
とぴしゃりと言って膳に手を付け始める。
その手がいつもより、心なしか急いでいるように見える。
満足な文が書き上がっていないのだろう。
八重という女子へだろうか。
ついつい言ってはならないとわかってはいるものの、ポロリと口から零れ落ちた。
「八重殿ですか・・・。」
ピタリと相楽の手が止まった。
しまった。
昼に盗み聞きをされたと思うに違いない。
相楽は一瞬おミツをちらりと見たが、
「お主が気にする事では無い。」
と言って再び膳に箸を伸ばし始めた。
気にされないのが悔しくて、
「何故その方は相楽様に会いに来て下さらないのですか?」
と最後の方は叫ぶように言ってしまった。
それが相楽の逆鱗に触れてしまったらしい。
背後にあった刀を手にし、
「無礼な小娘め!そこに直れ!叩き斬ってくれる!」
と怒りの声を上げた。
普段物静かな相楽がここまで取り乱すのは珍しい。
激怒しているところを見ると、もしかしてその女子はもう・・・。
おミツはそこまで思い至ると、何と浅はかな事をと後悔の念に苛まれた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王妃の愛
うみの渚
恋愛
王は王妃フローラを愛していた。
一人息子のアルフォンスが無事王太子となり、これからという時に王は病に倒れた。
王の命が尽きようとしたその時、王妃から驚愕の真実を告げられる。
初めての復讐ものです。
拙い文章ですが、お手に取って頂けると幸いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】その約束は果たされる事はなく
かずきりり
恋愛
貴方を愛していました。
森の中で倒れていた青年を献身的に看病をした。
私は貴方を愛してしまいました。
貴方は迎えに来ると言っていたのに…叶わないだろうと思いながらも期待してしまって…
貴方を諦めることは出来そうもありません。
…さようなら…
-------
※ハッピーエンドではありません
※3話完結となります
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愚か者の話をしよう
鈴宮(すずみや)
恋愛
シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。
そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。
けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる