花火

天野 帝釈

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床に臥せる

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漸く相楽の身の回りの世話にも慣れてきたある日のことだった。

おミツが朝相楽の家を訪ねると、珍しく人の気配がした。

おミツは珍しく相楽が二度寝でもしているのかと思ったが、
何やら苦し気な息遣いとごぷごぷと嫌な咳の音がする。

婆様に予め言われていたように、水桶と布巾を急いで用意し、相楽の部屋へと入って行く。

相楽は青黒い顔を一層青くして、床でびっしょりと汗をかいていた。

枕に吐血したのだろう。

枕は赤黒くなっており、血なまぐさい臭いがする。

お蜜は気絶しそうになりながら辺りを片していく。

汗を拭いて、着替えをさせてやったら少しは楽になるだろうか?

それとも早くお医者様を呼ばなけりゃ。

でもお医者なんてどこに?これじゃあ薬湯も飲めそうにない。

頭がぐるぐると混乱する。

相楽の体を拭き、服を代えてやると、少し身体が落ち着いたのか、呼吸が穏やかになった。

背をさすると少しだけ桶に血を吐き、大人しくなる。

あぁ、この人は死が近いんだろう。喉元にすっと冷たい水を落としたように、体が冷えた気分がした。

すると、血を吐いて疲れてしまったのか、気絶するように眠った相楽が、寝言で
「父上・・・。」
と呼んだ。

いつもの凛とした表情とは違い、ほっとした顔をしており、少しばかりあどけなく見える。


おミツがふっと笑うと、また相楽が呻きだし、
「八重殿・・・。」
ともごもごと口を動かし、苦しそうに眉を寄せる。





女子の名前なのか解らぬが、おミツはまた少し胸がもやりとするのを感じた。

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