入厨 ‐いりくりや‐

天野 帝釈

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好青年

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男は何やら最近良い事尽くめで、その器用さも相まり、大工仕事の棟梁にも気に入られ始めた。

皆仕事を引き延ばそうとダラダラやるのに、この男、
仕事の最後に残る数人の席に入ろうと、誰よりも丁寧に、出来るだけ速くと頑張った。

棟梁以外の男衆も、初めは仕事を張り切る男を疎んではいたが、
愛想も良いし、話も面白いんでこの男に段々と好感を持つようになった。

それに女房がいい女なのか、他の男達の簡素な粟や稗の入り混じった不格好な握り飯よりも、
遥かに旨そうなおかずのついた弁当を持ってくる。

仕事が終わると飛んで帰るのもこのせいだろうと益々男と話したがった。

それが話してみれば、飯は自分で作っており、年寄りの世話をしている孝行息子ときたもんだ。

元は泥棒とは知らず、皆は苦労人のこの男の世話をしてやりたくなって、
あれやそれやと土産を持たせてくれるようになった。

お返しにとおかずを一品わけてやりゃ、大層喜んでくれるので、
素人ながらも男は嬉しくなって、貰った土産を使って、分ける用のおかずを多めに作って配り歩くのも常になった
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