入厨 ‐いりくりや‐

天野 帝釈

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味をしめる

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家までたどり着けぬなら、それはそこまでの縁だと思っていたのに、
幸か不幸かあのボロボロの吹いたら壊れそうな家はすぐに目の前に現れた。

婆ぁの家に入る時、近くを一人の爺ぃが通りがかったが、特にお互い気にせず、
ペコリと会釈をしてすれ違った。近くに家などあったか不思議だったがあの婆様の知り合いかもしれねぇ。

ならお役御免かと泥棒は、厨の窓から中を眺めた。

婆ぁは相変わらず動けず、お上品に布団に仰向けになっている以外は特に違いは見られない。

やはり誰もいないようだ。

泥棒はするりと戸から入ると水瓶の蓋を開けてみた。

どうやらさっきの爺ぃが水瓶の水を一杯にしていったらしい。

少しばかり山菜と塩も増えている気がする。

だが、米や味噌は増えていないところを見ると、元々あの爺ぃからの物じゃなかったらしい。

何だ俺以外に面倒を見てくれる奴がきちんといるんじゃねぇかと思い、
婆ぁに近付くと、何やら小水の嫌な臭いがする。

この婆ぁと思いながら、男はまたおしめを代えて、体を拭いてやった。

ついでについさっき銭と共に盗んだ干し魚と大根を煮て、
汁とぐちゃぐちゃに煮潰した大根を冷ますと、この間の重湯のようにゆっくり口に含ませてやった。

美味いのか、こくりこくりとこの間より飲み込む勢いが早い気がする。

自分は干し魚と大根を煮た形のまま食ったが、確かに確かにこりゃうまい。

大根の葉はからからに炒めて塩を振り、また後で食う事にした。

それにしても不思議なもんだ。あの爺ぃは飯の継ぎ足しだけしかしねぇんだろうか。



まぁ、ちょっとした菜が手に入るなら、ここにこっそり通うも悪くない。
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