入厨 ‐いりくりや‐

天野 帝釈

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不本意

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すさまじい吐き気に耐えながら、男は老婆の体を海につっこんでジャブジャブ洗い、
水瓶の水を少し温めてぼろきれに含ませ、この糞婆ぁと思いながら体を拭いてやった。

同時にこんな状態の母親を放置した息子か娘は随分な鬼畜野郎共だと胸糞が悪くなった。

すると婆ぁが無ぇ歯でなにかふしゅるふしゅると言葉のようなもんを紡いで、一筋涙を流した。

粗方他所の男に裸にされて、婆ぁの癖に恥じらっているんだろう。

辞めろと言っているに違いない。

うるせぇ。

泣きてぇのはこっちだと自分の勝手にやっている事なのに理不尽に文句を言いながら、何とか拭き終えた。

「おら、クソ婆ぁ。死んだ旦那か誰かが迎えに来るのに最期位綺麗にしておけや。飯の借りは返したからな。」

と軽口で勝手な事を言いながら、着物を着せておしめを巻いてやった。

これでまぁまぁ死に姿も前よりはましだろう。



それにもしかしたら、家族が帰って来て、生きた婆ぁを見つけて腰を抜かすかもしれねぇと男は一人想像して噴き出した。
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