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優馬
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映像は、ドタドタという足音から始まった。
「お兄ちゃん僕多分死ぬからこれであとはよろしく…!」
優馬が急いだ様子で話したあと、カメラの端にふわふわしたものが映った。きっとぬいぐるみだ。
優馬の怯えた顔、包丁を持った男。
「僕悪いことしたの…?ごめんなさいごめんなさい……痛いのはやだ…」
優馬が後ずさりすると、男は一歩、また一歩と距離を縮める。優馬と男では、身長差があり過ぎる。
優馬は両親が死ぬところを見たんだろう。既に顔は涙で濡れ、顔に恐怖が張り付いていた。
「君のね、お母さんとお父さんに合わせてあげる。」
「や…やだやだ…!!僕はお兄ちゃんと一緒がいいの……!!」
優馬が泣きながらそう言うと、男は包丁を振り下ろした。咄嗟に顔を庇った優馬の腕が、胸からお腹が、ざっくりと切りつけられる。
それと同時に、優馬は倒れて動かなくなった。
「ぴーぴーうるせえなクソガキ…はぁ…もういいや、家族全滅…か。」
男は目的を果たしたようで嬉しそうに優馬の部屋を出ていった。部屋には、血だまりの中に沈む優馬だけが残される。
「い…た……おにぃ、ちゃん…」
身体を切られて、出血も酷い中、優馬はまだ生きていた。もう泣く元気もないのか、優馬は小さく口を動かしていた。
「お兄ちゃんと、結婚したかった…遊園地、行けなさそう…ごめん…ね…」
俺の中の優馬のイメージが、少しずつ崩れる。
優しくて、元気で甘えん坊で、子供っぽい優馬は、俺の中の固定観念でしかなかった。
「生まれ変わったら…お兄ちゃんに近づく人全員殺してでも…一緒になってやる……僕は…お兄ちゃんのことが…」
目を開けたまま、優馬は動かなくなった。どうやら事切れたらしい。悔しさと悲しさ。でも少し幸せそうな顔で、優馬は死んだ。が。
しばらくすると、ぴくりと動いて、優馬は起き上がった。
ゾンビ化は、こんなにも早いものなのか。
「…ぉ…にぃ、ちゃ…いしょ……う…」
優馬はカメラに近付いてくる。ここで映像は終わった。
優馬は、最初から優馬だった。変わってなんかいない。俺が見ていなかっただけだった。
「お兄ちゃん、もう…入ってもいい…?」
「…ああ、いいよ。おいで優馬。」
俺の落ち着いた声に安心したらしく、いつもと変わらない柔らかい笑みを浮かべて、優馬は俺に近寄ってきた。
「ごめんな優馬。優馬は優馬、だよな。」
「うーん…?よく分からないけど…お兄ちゃん、僕のこと好きでいてくれる?」
優馬は俺に向かって手を広げた。俺は優馬を強く抱きしめる。
「もちろん。優馬、大好きだよ。…還ってきてくれて、ありがとう。」
初めて心の底から、優馬を愛せた気がした。
「お兄ちゃん僕多分死ぬからこれであとはよろしく…!」
優馬が急いだ様子で話したあと、カメラの端にふわふわしたものが映った。きっとぬいぐるみだ。
優馬の怯えた顔、包丁を持った男。
「僕悪いことしたの…?ごめんなさいごめんなさい……痛いのはやだ…」
優馬が後ずさりすると、男は一歩、また一歩と距離を縮める。優馬と男では、身長差があり過ぎる。
優馬は両親が死ぬところを見たんだろう。既に顔は涙で濡れ、顔に恐怖が張り付いていた。
「君のね、お母さんとお父さんに合わせてあげる。」
「や…やだやだ…!!僕はお兄ちゃんと一緒がいいの……!!」
優馬が泣きながらそう言うと、男は包丁を振り下ろした。咄嗟に顔を庇った優馬の腕が、胸からお腹が、ざっくりと切りつけられる。
それと同時に、優馬は倒れて動かなくなった。
「ぴーぴーうるせえなクソガキ…はぁ…もういいや、家族全滅…か。」
男は目的を果たしたようで嬉しそうに優馬の部屋を出ていった。部屋には、血だまりの中に沈む優馬だけが残される。
「い…た……おにぃ、ちゃん…」
身体を切られて、出血も酷い中、優馬はまだ生きていた。もう泣く元気もないのか、優馬は小さく口を動かしていた。
「お兄ちゃんと、結婚したかった…遊園地、行けなさそう…ごめん…ね…」
俺の中の優馬のイメージが、少しずつ崩れる。
優しくて、元気で甘えん坊で、子供っぽい優馬は、俺の中の固定観念でしかなかった。
「生まれ変わったら…お兄ちゃんに近づく人全員殺してでも…一緒になってやる……僕は…お兄ちゃんのことが…」
目を開けたまま、優馬は動かなくなった。どうやら事切れたらしい。悔しさと悲しさ。でも少し幸せそうな顔で、優馬は死んだ。が。
しばらくすると、ぴくりと動いて、優馬は起き上がった。
ゾンビ化は、こんなにも早いものなのか。
「…ぉ…にぃ、ちゃ…いしょ……う…」
優馬はカメラに近付いてくる。ここで映像は終わった。
優馬は、最初から優馬だった。変わってなんかいない。俺が見ていなかっただけだった。
「お兄ちゃん、もう…入ってもいい…?」
「…ああ、いいよ。おいで優馬。」
俺の落ち着いた声に安心したらしく、いつもと変わらない柔らかい笑みを浮かべて、優馬は俺に近寄ってきた。
「ごめんな優馬。優馬は優馬、だよな。」
「うーん…?よく分からないけど…お兄ちゃん、僕のこと好きでいてくれる?」
優馬は俺に向かって手を広げた。俺は優馬を強く抱きしめる。
「もちろん。優馬、大好きだよ。…還ってきてくれて、ありがとう。」
初めて心の底から、優馬を愛せた気がした。
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