僕が立派な忠犬になるまで。

まぐろ

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63日目:潜伏

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 ガクガクと震える。2日目、先生はまだ家にいて、僕を探すことを再開した。
 クローゼットの中は暗くて、不安でも身体を掻きむしることも出来なくて僕は発狂しそうだった。でも叫んで見つかって死ぬのは嫌だから、理性で耐えている。

「夕凪~、出ておいで~…怖いことしないからさぁ~?」

 トン、トン…と足音がゆっくりと部屋の中を移動する。先生はまだキッチンには来ていないけど、きっとこのままじゃ見つかる。
 暗くて怖くて目を閉じていると、頭の中でお兄さんとの思い出が流れた。

「ここかなー…いないな。あれ、本当にいない?おかしいなぁ……」

 先生が後ろを向く。もしかしてもう諦めてくれるのかもしれない。僕は気を抜かないように身体をぎゅっと縮めた。もし先生がここに来たら、飛び出して噛み付いてやる。僕が先に攻撃して包丁を落とせたら、僕の勝ちだ。

「………ああそこかな?キッチン…」

 あ。まずい。先生が振り返った。僕は誘拐されるし先生に襲われかけるし運が悪いのかもしれない。今度お兄さんと神社でも行こう……今度があればの話だけど。
 先生が、僕のいるクローゼットの前に立つ。待てよ。いきなり襲いかかったら返り討ちに合うかもしれない。それなら……

「あぁ夕凪…ここにいたんだな…あんな奴じゃなくて、先生の犬にならないか?」

「あ…ぁ…あ…い……やだ…」

 先生が僕に顔を近づけて、身体を触る。憐れむような、嘲笑うような顔で…僕は自然と涙が溢れてきた。

「…下脱がされて手を縛られて…こんな所に閉じ込められてるのに…あんな奴が好きなのか?」

 僕はこくこくと頷いた。先生はすぐには刺そうとせず、僕の服の上から切れない程度に刃を当てて楽しんでいるみたいだった。

「や…めて……僕…まだ…」

 死にたくない。そう言おうとした途端、首を絞められた。包丁はただの脅しでしかなかったんだろう。

「大丈夫…すぐ楽にしてあげるからな。夕凪は俺が看病してやる。死人に看病できるのか知らないけど。」

「…っ…ぐ、…がっ、」

 お兄さんにされたら多分気持ちいいのに。それに安心してすぐに意識を飛ばせるのに。僕は死ぬまいと必死で抵抗した。先生の後ろに立つ人を見て、少しホッとしながら。

 ゴッ…

「俺の飼い犬に何してんだお前。」

 お兄さんが、怖い顔をして立っている。いつものお兄さんじゃない、殺意に満ちた顔だ。

「だいじょぶ?ごめんね、風音。」

「お兄さんっ…」

 僕はお兄さんの胸に飛び込んだ。先生から飛んだであろう返り血の匂いが、少しだけ鼻をついた。

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