僕が立派な忠犬になるまで。

まぐろ

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62日目:居留守

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 ドタドタと廊下をを歩く音がする。僕の部屋の扉が勢い良く開けられて、ちょうど扉の前にいた僕はころころと転がった。

「きゃんっ」

「うぇ、風音ごめんっ…!」

「大丈夫…どしたの…?」

 お兄さんに頭を撫でられて嬉しくなりつつ、聞いてみた。いつもぽやんとしているようなお兄さんがすごく急いでいる。きっと、これからすごいことが起こるに違いない。

「仕事呼ばれちゃって…!留守にするけど待てる?ご飯は冷蔵庫に入れておいたから…!」

「へ…、えぅ……うん……」

 僕はうつむいた。ここに来てから僕の暗い所が怖いのは悪化したし、ひとりが怖いのも治っていない。それに今は、不安になると身体をひっかく癖がついてしまっている。また血だらけになったらどうしよう。

「あの…可能であれば…僕のこと縛ってくれない…?引っ掻くかも…しれないから…」

「あー…帰ってくるの明日だからな…じゃあ手だけ。」

 お兄さんは別の部屋に走り、戻ってきたかと思えば手にベルトと手錠を持っていた。
 僕の腰にベルトを巻いて、それに手錠を引っ掛けて固定する。僕は手を後ろにまわした状態で過ごすことになった。これでいい。

「うん…うん…これなら頑張れる…お兄さん、いってらっしゃい。」

「うん、行ってきます。」

 手を振れないからぴょんぴょんとその場で跳ねた。可愛い、とお兄さんは呟いて家を出ていってしまった。
 急に静かになってしまった家の中に、僕は不安になった。しかし頑張ると言ってしまった手前、泣き喚くわけにもいかない。

「ううぅぅぅ………おにいぃさぁぁぁ…」

 前言撤回。こんな静かな空間に僕ひとりで、泣かないわけがない。泣くのをやめようと思っても、涙が止まらない。拭おうにも、手が使えないからぼろぼろと泣くことしかできない。

 ガチャ、ガチャガチャ。

 不意に、鍵を開けようとするような音がした。お兄さんだろうか、急いでいるから鍵が開きにくいのか…?

「おにぃ……ぁっ」 

 違う。お兄さんは急いでいても鍵を開けるのに手間取るはずがない。つまりこれは…お兄さんじゃない。僕は咄嗟にキッチンのクローゼットの中に隠れた。足で無理矢理扉を開け閉めしたせいで痛い。

「夕凪ー、助けに来たぞー…いるんだろー?」

 あの声。間違いない、先生だ。でも、学校からお兄さんの家まで結構離れているはずなのにどうして……

「ここか?あれーいないなー。」

 どうしよう。僕の頭の中はそれでいっぱいだった。クローゼットの中には果物の入ったダンボールがある。明日までなら、なんとか持つだろう。でも…万が一見つかったら。

「んー…いるだろ?夕凪。折角、誘拐犯が居なくなったから助けに来たのに…」

 先生は家の中を練り歩いているようだった。このまま見つかれば、僕は……
 ちらりと見えた、先生は僕を助ける気なんてない。手には包丁を持っていたし、何より興奮したように笑っていたのだ。見つかったら絶対に殺される。
 僕はガタガタと震えながら息を潜めた。先生はこの日、1日中僕の家に居座っていた。
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