僕が立派な忠犬になるまで。

まぐろ

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52日目:発狂

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 外でお兄さんと遊ぶ夢を見た。目を開けると何も見えなくて、ああそういえば閉じ込められたんだっけ…なんて思い出した。
 ふらふらと起き上がり、扉を引っ掻く。ただ何も言わずに、大好きな人の事だけを考えて。

「あ………」

 身体がふわりと浮いた気がした。気がつくとすぐそこに床があって、自分が倒れたのだと自覚する。ずっと真っ暗な部屋にいるから、平衡感覚がおかしくなってきたんだろうか。
 ガリガリという扉の音だけが心の支えだった。この部屋は何も音が出ない。音がないと、不安になる。

「風音。」

 声がした気がした。後ろから。僕は立ち上がって走り、壁にぶつかって転んだ。真っ暗闇の中に人影はなく、そこにあるのは暗闇に沈んだ壁だけだった。

「お兄さんお兄さんお兄さん」

 僕の頭の中を単語だけがくるくると回る。文法など無視した単語が次々と浮かび、いつの間にか僕はそれを口にしていた。

「お兄さん、風音、犬、壁、開けて、美味しい、怖い…」

 扉を叩く行為は引っ掻くものへと変わり、体当たりに変わった。ばん、ばんと重たい音が部屋に響く。それでもやっぱり、お兄さんがここを開けることはなかった。

「きゃんっ」

 体当たりの仕方を間違えて頭をぶつける。ぶつけたところに触れると手が濡れたが、不思議と痛みはあまり感じなかった。

「あけてあけてあけて…」

 どれだけ願っても、謝っても、扉が開くことはない。もしかしたらこれはお仕置きじゃなくて処刑なんじゃないか。そう思った途端、僕の中に蓄積されていた何かがぷつりと弾けた。

「あ゛ああああッ!!!」

 僕は絶叫とともに今までにないくらい強く扉を殴る。何だ、ここで僕の人生は終わるんだ。少しでも愛されていて幸せだった。なのに裏切られた。それなら思いっきり酷い状態で死んでやる。

「あけろよぉおお!!なんでだよ!!!ッあ゛あぁっ!!!」

 僕は悪いことをしていないのに。お兄さんの身勝手な理由で僕はここで死ぬんだ。
 ご飯が出てきたのは扉の下の方だ。そう思い出して探ってみるが窪みらしき所は見つからない。

「ぎゃああああっっ!!い゛あ゛ぁぁぅゔゔ!!!」

 猫の喧嘩のような、それよりもっと激しい鳴き方をした。分かっている。もう扉を引っ掻き始めたところから僕はおかしくなっているんだ。もう僕は僕じゃない。
 扉に体当りしながら、体力が尽きるまで叫び続けた。

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