僕が立派な忠犬になるまで。

まぐろ

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51日目:暗闇

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 いつの間にか眠っていた。今は朝だろうか、相変わらず部屋は真っ暗でなんの音も聞こえない。

「お兄さん、開けて…僕は…くらい…嫌い、ひとりも、嫌だ…っ!」

 扉を叩きながら叫ぶ。調教されかけた僕の頭はもう人語を上手く紡げなかった。また練習すれば言葉は思い出せるだろうが、今この現状では難しい。
 僕は選択肢を間違えたわけではない。お兄さんが少しおかしくなっただけだ。話し合えばきっと前みたいに仲良くできる。これがお兄さんの本当の目的な訳が無いのだから……

「開けて…開けて…怖いよ…開けて…」

ばんばんと扉を叩き続ける。普段なら簡単に開く扉が、まるで鋼鉄のように硬く、全く開かない。
完璧に空調が整えられていて、その気温が恐怖を加速させた。

「わんわんっ…!!わんわん…っ…」

扉のすぐそばでうずくまり、泣きじゃくった。お兄さんがおかしいならここから出なきゃ話し合えない。つまりお兄さんの目的通り僕がおかしくなるまでここから出られない。
そういえばご飯も食べていない。いつもならお兄さんがくれるのに。

「わんわんっ……」

お兄さんが開けてくれるまで僕は鳴き続けた。光が入らない部屋では目が慣れることはなく、目を閉じているのか開けているのか分からなくなってくる。
恐怖がじわじわと精神を削り、段々と体力も無くなってくる。まだ数分しか経っていないはずなのにおかしい。

「おに…さん…」

まだ、話せる。僕はまだおかしくなっていない。ここから出てお兄さんを説得しなければ。
涙も出なくなってきて、僕が大人しくなってくると足元からいい匂いがしてきた。手でにおいのもとを探すと、べちゃっとした何かに触れた。僕はなんのためらいもなくそれを口へと運ぶ。今日のご飯はカレーだった。

「はむっ…むぐっ…」

食べ終わって顔を上げる。全く見えないけど、多分食べ終わっただろう。お兄さんは今どこにいるんだろう。カレーはいつも夜に出るから、もう寝ているだろうか。……あれ、それだと僕は今日1食しかご飯を食べていない。

「あけて、あけて……」

ご飯を食べて元気になって、また扉を叩く。ばんばんと響いていた音はいつの間にかガリガリと言う音に変わった。
大丈夫、大丈夫。僕はおかしくない。扉に爪を立てて引っ掻いているだけだ、ノックが聞こえないなら誰でもやるだろう。

「…………」
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