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42日目:さようなら
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朝、朝食を食べているとお母さんとお父さんが話しかけてきた。そういえば家族会議が今日になったんだっけ。
「風音、実はあなた…お兄ちゃんになるの。…だけど、これは私達で勝手に決めた事だから…その…」
「お母さん、僕大丈夫だよ。心配しなくても、ひとりでやっていけるよ。」
声が震えた。僕には、このままお兄ちゃんとしてこの家に残るか、すべての現実を捨てて、新しくお兄さんの家族になるかの選択肢がある。僕が選ぶのは一択だ。
僕が答えると、お父さんが急に焦りだした。
「家を出るって…また、でもどうするんだ?生活は…お金は…」
「実はね、特別に簡単な仕事をくれるところ見つけて。危ない仕事じゃないし、住み込みで働かせてくれるんだ。だからそこで…」
お父さんはぱくぱくと何か言いたげに口を動かしたが、やがて、わかった。とだけ返事を残した。
「………まさか風音がそこまでやれるとはな。……まぁ…なんだ…いつでも帰って来い。弟の顔くらい、ちょっとは見て欲しいからな。」
「ちょっとお父さん、いいの?…風音、死ぬようなことはしちゃ駄目。危なくなったら帰ってきなさい。」
僕は驚いて両親の顔を見た。両親の顔には、これが最善なら応援するしかない…とでも言うような表情が浮かべられていた。裏も表もない、本当に心からそう思っているような。
本当は、両親なりに僕を愛してくれていたのかもしれない。でも僕は……心に決めた人が出来てしまった。
「じゃあ、今日出るね。僕、元気に頑張るから。お父さんとお母さんも、元気でね。……弟の前では…仲良くしててね。」
そう言って、僕の部屋に残っていた物を鞄に詰めて、部屋の窓にぴたりと手を当てた。お兄さんは、見てくれているだろうか。
鞄を持って、学校へ向かう。教室に着くと、先生がぎょっとしたような顔で僕を見た。
「先生。僕は先生の思うような良い子じゃありません。それに、僕はどう足掻いても女の子にはなれない。」
「ゆ、夕凪…急に何を…」
先生が慌て出す。クラスメイトも気になるのかチラチラとこちらを見てくる。もう最後なんだ、僕は構わず続けた。
「僕はもうみんなの知ってる夕凪風音じゃない。だから先生、先生の知ってる可愛い風音は死んだんです。そう思ってください。………さよなら。」
「まっ……待って……」
先生を無視して小走りで教室を飛び出し、道を歩く。久しぶりにお兄さん以外の人と話したせいで疲れきってしまった。
今の時間帯はみんな学校にいるから、人はほとんどいない。僕は道端に座り込み、雲を眺めることにした。
「こんにちは。……具合悪い?大丈夫?お兄さんが看病してあげよっか。……なんてね。風音、お疲れ様。」
目の前に立った足を見つめ、僕は安心した。お兄さんはあの日と同じ、コーンスープを買ってきてくれた。
「……ありがとお兄さん。」
僕はまた、疑いもせずに貰ったコーンスープを飲む。そうしてまた眠くなって、でも今度は安心しきって、お兄さんに寄りかかるようにして眠りに落ちた。
「風音、実はあなた…お兄ちゃんになるの。…だけど、これは私達で勝手に決めた事だから…その…」
「お母さん、僕大丈夫だよ。心配しなくても、ひとりでやっていけるよ。」
声が震えた。僕には、このままお兄ちゃんとしてこの家に残るか、すべての現実を捨てて、新しくお兄さんの家族になるかの選択肢がある。僕が選ぶのは一択だ。
僕が答えると、お父さんが急に焦りだした。
「家を出るって…また、でもどうするんだ?生活は…お金は…」
「実はね、特別に簡単な仕事をくれるところ見つけて。危ない仕事じゃないし、住み込みで働かせてくれるんだ。だからそこで…」
お父さんはぱくぱくと何か言いたげに口を動かしたが、やがて、わかった。とだけ返事を残した。
「………まさか風音がそこまでやれるとはな。……まぁ…なんだ…いつでも帰って来い。弟の顔くらい、ちょっとは見て欲しいからな。」
「ちょっとお父さん、いいの?…風音、死ぬようなことはしちゃ駄目。危なくなったら帰ってきなさい。」
僕は驚いて両親の顔を見た。両親の顔には、これが最善なら応援するしかない…とでも言うような表情が浮かべられていた。裏も表もない、本当に心からそう思っているような。
本当は、両親なりに僕を愛してくれていたのかもしれない。でも僕は……心に決めた人が出来てしまった。
「じゃあ、今日出るね。僕、元気に頑張るから。お父さんとお母さんも、元気でね。……弟の前では…仲良くしててね。」
そう言って、僕の部屋に残っていた物を鞄に詰めて、部屋の窓にぴたりと手を当てた。お兄さんは、見てくれているだろうか。
鞄を持って、学校へ向かう。教室に着くと、先生がぎょっとしたような顔で僕を見た。
「先生。僕は先生の思うような良い子じゃありません。それに、僕はどう足掻いても女の子にはなれない。」
「ゆ、夕凪…急に何を…」
先生が慌て出す。クラスメイトも気になるのかチラチラとこちらを見てくる。もう最後なんだ、僕は構わず続けた。
「僕はもうみんなの知ってる夕凪風音じゃない。だから先生、先生の知ってる可愛い風音は死んだんです。そう思ってください。………さよなら。」
「まっ……待って……」
先生を無視して小走りで教室を飛び出し、道を歩く。久しぶりにお兄さん以外の人と話したせいで疲れきってしまった。
今の時間帯はみんな学校にいるから、人はほとんどいない。僕は道端に座り込み、雲を眺めることにした。
「こんにちは。……具合悪い?大丈夫?お兄さんが看病してあげよっか。……なんてね。風音、お疲れ様。」
目の前に立った足を見つめ、僕は安心した。お兄さんはあの日と同じ、コーンスープを買ってきてくれた。
「……ありがとお兄さん。」
僕はまた、疑いもせずに貰ったコーンスープを飲む。そうしてまた眠くなって、でも今度は安心しきって、お兄さんに寄りかかるようにして眠りに落ちた。
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