僕が立派な忠犬になるまで。

まぐろ

文字の大きさ
上 下
42 / 68

40日目:帰郷

しおりを挟む
 車の中で軽く朝食を済ませ、車から降りる。目の前には見慣れた景色が広がっていて、少し嫌な気持ちになった。

「ずっと見てるから。……じゃあ、またね。俺の可愛い風音。」

「うん。お兄さんまたね。またすぐ会おうね。」

 そう言って、お兄さんと別れる。すぐまた会えるはずなのに、悲しくてたまらなかった。
 家に向かい、ドアを軽く引くと鍵は開いていて、僕は玄関に入った。

「……っ…ただいま…」

 家の中に向かって声をかけると、お母さんが顔を覗かせた。暫く驚いたような顔で僕の上から下まで凝視して、それからいつもの顔に戻った。

「あぁ…おかえり。もう帰ってこないかと思った…」

「家出…ごめんなさい。」

 お母さんは僕に近づき、何かを怪しむようにずっと見てきたが、お腹空いたでしょう、と家に上げてくれた。
 お母さんのご飯って、どんな味だっけ。
 少し前まであんなに帰りたがっていたのに。今はお兄さんのもとに帰りたいなんて。

「ごめんね、いまおにぎりしか作れないけど。」

「あ…う、うんっ!ありがとう!」

 精一杯、笑顔を作る。お母さんからピリピリとした空気が出ているような、沈黙の中僕は探られているような気持ちになる。

「…学校は行けそう?お母さん、あなたが帰ってこないと思ってお部屋ほとんど片付けちゃった。」

「う……学校行けるよ…!大丈夫…」

 おにぎりを食べて、お母さんの味ってこんなだっけ…なんて思って、食器を洗って自分の部屋へ入った。物が少し置いてあった部屋は片付けられ、僕が気に入って両親の前で使っていたものが残されていた。

「………帰れた…のか…」

 僕はベッドに座り、転がっていたぬいぐるみを抱きしめる。このぬいぐるみは確か小学1年生の時に誰かから貰ったものだ。誰なのかは思い出せないけど。

「学校…行けるかな…」

 壁に貼り付けてある時間割を見ると、明日は6時間授業の日だった。体育は…体操服が無いと言って休めばいいか…と軽く現実逃避をした。

「…お母さん、お父さんは怒ってた…?」

「怒っては無いみたい。明日大切な話をしなくちゃいけないから、学校から帰ってきたら家族会議ね。」

 リビングにいたお母さんに声をかけると、そんなことを言われた。ああ、きっとそこで僕はめちゃくちゃに怒られるんだ。それは、仕方のないことだ。
 とりあえず今は、学校のことだけを考えなくては。孤独に耐えられるかわからないけど、何とか持って帰れるものを持って帰らないと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうして、こうなった?

yoyo
BL
新社会として入社した会社の上司に嫌がらせをされて、久しぶりに会った友達の家で、おねしょしてしまう話です。

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

笑って誤魔化してるうちに溜め込んでしまう人

こじらせた処女
BL
颯(はやて)(27)×榊(さかき)(24) おねしょが治らない榊の余裕が無くなっていく話。

処理中です...