僕が立派な忠犬になるまで。

まぐろ

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21日目:寂しい

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「……お兄さん来ないな…ねぇどう思う…?」

 僕は自分の部屋で、小さなぬいぐるみに話しかけていた。お兄さんがいないときは時々、こっそりと人語を話しているのだ。

「わんわん…」

 今日はまだお兄さんに合っていない。毎日毎日、鬱陶しい程に僕に絡みに来るくせに、たまにパタリと会いに来なくなるのだから僕のことをよくわかっているんだなと思う。

「うぅっ…わんわん…」

 部屋の扉を開け、お兄さんの部屋に向かう。他の部屋にはいなかったから、きっとこの部屋だ。爪でカリカリと扉を引っ掻くがお兄さんは出てこなかった。

「お兄さん…?ねぇ…いますか…?」

 呼びかけるが返事がない。声が聞こえるから、電話中だろうか。扉を少し開けてみると、お兄さんが携帯を耳に当てて不機嫌そうな声を出していた。

「だから…その件は俺じゃなくて……っ…なんでそうなるんだよ!まあいいとりあえず明日は行くから…ったく……。…!?風音っ…!?」

「きゅ…わぅん…」

 僕は幼い頃から両親の喧嘩を聞いてきた。だから人一倍、怒鳴り声が怖かった。急に怒鳴られると、胸がきゅっとなるから嫌いだった。
 部屋の隅っこで縮こまっていると、お兄さんが優しい声を出す。

「ごめんね、俺の声怖かったかな…大丈夫だよ、風音には怒ってないからね…」

「お兄さん…わん…僕、今日お兄さんに会ってないから探しに来て…どうして今日は来てくれないの…?」

 お兄さんが目を見開く。申し訳なさそうな顔が、一瞬にしてデレッデレな表情に変わった。
 ゆっくりとこちらに近づいてきては、僕を抱っこし、抱きしめた。
 ちょっと嬉しい。

「風音ぇ~、そんなに寂しかったの?…俺は幸せだなぁ…」

「ん…えへへ…わんわんっ」

「最初の頃よりもだいぶ懐いてくれたね。俺は嬉しいよ。」

 お兄さんの部屋には、まだ謎の薬品が置いてある。でもここに来たばかりの時より瓶の中身が減っている。あれは全部、僕に使われたんだろうか。

「っ…懐いた…のかもしれないですね。ちょっと…変な気持ちです…」

 薬を使われたかどうかなんて分からないけど、僕のお兄さんに対する気持ちは変化しつつあった。誘拐されてすぐに胃袋を掴まれ、今ではお兄さんの作るご飯が大好きで、最近は、お兄さんの事も……。でも、認めるわけにはいかない。

「早く…帰りたいな…」

 こんな気持ちが大きくなる前に、家に帰りたい。ここで味わった幸せを、早くなかったことにしたい。だって僕はもう、帰りたいという感情が消えかけてしまっているから。
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