少年人形の調教録。

まぐろ

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夜空(最終話)

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「お兄さん、おはようございます。」

 夕方になり、未だに爆睡しているお兄さんに声をかける。お兄さんは数回寝返りを打ち、うぅん…と軽く唸って身体を起こした。

「ん…おはよう。」

「えへへ、もう夕方ですね。ご飯、作っておきましたからね。」

 僕がそう言うと、お兄さんは少し驚いたような反応をした。

「夜空くん…作れたの?ひとりで?」

「はい。」

 棚からレシピ本を引っ張り出してきて作ったご飯。前の僕の料理より味は落ちるが、自分のデータに頼らずに作れた。僕にとっては大きな進歩だった。

「いいね。俺が寝てても殺そうとしてこなかったし…君はちゃんと直ったみたい。」

「よかったです。これからも僕、お兄さんの恋人でいられますか…?」

 少し緊張しながら問いかけると、お兄さんはもちろん、と答えてくれた。ほっとして、口元が緩む。

「お兄さん…僕ね、お兄さんに見てもらえてるって、自覚が持てるようになったんです。だから寝ているお兄さんを見ても、手を握ったり撫でたりしかしなかったんですよ。」

「そっか。俺の気持ち、ようやく受け取ってくれたんだね。」

 そっと、お兄さんの手が僕の髪を撫でる。
 なんだか、直接心に触れられた気がして嬉しかった。お兄さんの優しく笑った口元が、僕だけが映った瞳が、僕だけのもののように思える。

「夜空くんは、思いやりがあって、少しわがままな所もあって……もうすっかり人間だねぇ。」

「そうですか?ふふ…とっても嬉しいです。」

 部屋から出ると、キッチンだけが明るくて、リビングは薄暗かった。電気をつけようとすると、お兄さんに呼び止められる。

「今日はさ、星がよく見えるよ。夜空くんも見てみて。」

 そっとカーテンを開くと、空には満天…とまではいかないけれど、黒い膜に散りばめた宝石みたいに、星が輝いていた。
 夜空、という言葉は大好きだ。お兄さんからもらった名前でもあり、夜空には色んな表情がある。満開の花みたいにオーロラと星が吊り下げられた夜空もあれば、黒い膜に灰色のインクを塗りつけたような曇った夜空だってある。

 今の夜空は、僕のプログラムみたいだった。
 ぽつぽつと覚えたことが光り、今を作っている。僕は今日の夜空を忘れないだろう。

「お兄さん。」

 僕が呼ぶと、お兄さんは僕の方を向き、にこりと笑った。今までの優しげな笑みとも似て違う、心から嬉しそうな顔。僕はこの顔がずっと見たかったんだ。
 お兄さんの特別になれたような、そんな気持ちが湧いて、僕はありったけの心を込めて言った。

「お兄さん、大好き!」

 今日も月は、夜空を明るく照らしている。
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感想 3

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みんなの感想(3件)

トリさん
2024.06.09 トリさん

心が浄化されました…

最終回、お疲れ様でした。

2024.06.09 まぐろ

最終回までお付き合い頂き、ありがとうございました!✨✨
感想、とっても励みになりました!本当にありがとうございます!

解除
トリさん
2024.06.02 トリさん

更新ありがとうございます!
1話目から読み直すと感慨深くて非常に良い…

2024.06.08 まぐろ

読み返してくださったのですか…!本当にありがとうございます…!!(,,ᴗ  ̫ᴗ,,)

解除
トリさん
2024.05.26 トリさん

久しぶりに心に刺さった小説に出会えました!!!!!
エロシーンはもちろん、心情・思考の描写がめちゃくちゃ好きです!人間も機械のようで、機械も人間のようで、純粋に小説として素晴らしい作品です!!!!
ありがとうございます!

2024.05.27 まぐろ

感想ありがとうございます!そんなふうに言って頂けてとても嬉しいです✨✨

解除

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