少年人形の調教録。

まぐろ

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ひとりのおそと

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 泣きながら、道を進んでいく。もうここがどこなのかもわからない。
 走って疲れて、気持ちの整理もついてきた。…と同時に、迷子になってしまったという事実に気づいた。

「あ…っ…あっ…どうしよ…どうしよ……っ…」

 衝動的に家を出て走ってきてしまった。お兄さんもきっと怒っているだろう。いや、悲しんでいるかもしれない。
 相当高い額を出して僕を買ってくれた……作ってくれた……はずなのに。作った…?

「あぇ…あ…れ……お兄さんは僕を買って…それで……目と脳を担当して作ってくれて……?あ…れ…?買い手の人がいなくなったから引き取って…好きになって、壊れて……?違う、いっぱい犯してもらって壊され…え…?あっ」

 これ以上思い出しちゃだめだ。なのに記憶がどんどん蘇ってくる。お兄さんは僕を作るところで働いていて、僕の目と脳担当だった。
 お兄さんは高いお金を払って僕を買ってくれた。
 2つの記憶がぐるぐると回る。どちらかは偽物だ。だけどそれが僕にはわからない。

「あっ、頭っ…、目、もっ…くるくるします、して、…あれ、地面近い、倒れ、へ、……助けてお兄さんっ…!!」

 かくんと力が抜けて、いつの間にか地面に倒れ込んでいた。まずい、このまま壊れたら二度と直せない。記憶が混濁してしまえば、プログラムの破損が起きる。
 植え付けられた記憶の方を頼らないと。でも、どっちだろう。

「ゔーっ……う……おに…さ……」

 このまま壊れたら、お兄さんに悲しい思いをさせたままだ。…あれ?どうしてお兄さんは悲しんでいるんだっけ……お兄さんって…誰だっけ。
 違う。お兄さんは僕の大切な人だ。

「こ…れ以上は…っ…ほん…と、に…っ………プログラムの異常を感知しました。データの初期化を…」

 嫌だ嫌だ嫌だ。僕は一生懸命お兄さんとの思い出を思い出した。丁度道には誰もいなかったお陰で、どんなにジタバタしても施設に連絡する大人はいなかった。

「…夜空くんっ…!」

 抵抗する力もなくなって来た頃、お兄さんは来てくれた。でももうお兄さんの記憶が無い。顔を見ると何故か安心して、僕はそのまま目を閉じた。

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