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施設
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お兄さんの運転する車はどんどん進んでいく。街を抜けて、林を抜けて、お兄さんの家はすでに見えなくなってしまっていた。
「お兄さん…」
「ん?どうしたの、なんか怖いの?」
「お散歩、もっと近くだと思ってて…お兄さんのお家見えないから不安になって…」
わくわくした気持ちは消え、もう僕の中には焦りと不安しか残っていなかった。もしかしたら僕は引きこもりの才能があるのかもしれない。早く帰りたい。早く帰って、お兄さんと…、何をするんだっけ。
車が進むたびに、僕の思考力が鈍くなっていく気がする。
「着いたよ。…、大丈夫?」
「……………」
「夜空くん?」
「……あっ、あ、大丈夫です。ちょっと酔っちゃったみたいで…へへ…はしゃぎすぎるのは良くないですね…」
お兄さんは心配そうにしてくれたが、お散歩を中断するのは申し訳ないから、大人しくついていく。
目の前にあるのは、大きな建物。デパートか何かかと思ったが、何かの施設みたいだ。
予約をしていたのか、お兄さんは店員みたいな人にスマホの画面を見せて挨拶をしている。あの店員は、ロボットだ。
ロボットも働けるんだ…
「こっちだよ夜空くん。入れるの特別なんだからね。貴重なものちゃんと見て。」
「あ…う、……わか、りまし…た。」
この施設に来てから、処理がなんだか遅い。思考の中に壁ができてしまったような、テスト段階のときのような感じだ。頭が悪くなるのは嫌だがどうしようもない。
「ごしゅ…じ………ま…」
「え…?」
お兄さんは、大きな窪みみたいなところをのぞき込んでいる。その中から声がする。誰かが落ちてしまったなら、助けないと。
「お兄さ、ん、誰か落ちて…る、みたいです…たすけ、ない…と。」
「ああ大丈夫、ここはそういうとこだから。」
お兄さんの言葉の意味がわからない。窪みを覗き込むと、落ちているのは1人じゃない。大勢いる。しかも全員、ロボットだ。みんな、主人を呼んでいる。
「嫌い……んて…うそ……」
「…っと…、あい……て…」
怖い。大人も子供も、虚空を見つめながら何かを呟いている。
「あのね、夜空くんも1歩間違えたらああなっちゃうんだよ。あの子達は主人を好きになりすぎた。だからああなった。仕事もできないし、主人に会えば間違いなく殺してしまうだろうね。」
だから、ここに捨てられた。お兄さんは言った。ロボットは人間を好き過ぎてはいけない。
好きになればなるほど主人の言うことを聞くようになり、ロボット自身の自我が脆くなっていくから。
じゃあ僕の、お兄さんへの気持ちは……
「僕…は……」
大好きなお兄さん。この大好きな気持ちは、いずれ歪んだ服従心へと変わっていくのか。お兄さんを愛したことも忘れて、ただただ言うことを聞くだけの喜びを得ようとするようになるのか。そんなのは嫌だ。
「ここはさ、ダメージを半減するために思考力が鈍くなる電波流れてるんだ、…夜空くんは、これからどうしたい?」
僕は、お兄さんを愛せない。好きな気持ちも、持ち続けることができない。理解したくなかった。散歩なんて、来なきゃよかった。
「お、おに…さ……あい、し………る…」
僕なりに考えた。伝わらなくてもいい。僕は所詮、人工知能だ。でも僕は僕。お兄さんへの愛は止められない。だから僕はお兄さんを愛し続ける。だってお兄さんは僕が壊れたらなおしてくれるって約束してくれたから。
ぷしゅぅ……という音を立てて、僕はそのまま地面に崩れ落ちた。
「お兄さん…」
「ん?どうしたの、なんか怖いの?」
「お散歩、もっと近くだと思ってて…お兄さんのお家見えないから不安になって…」
わくわくした気持ちは消え、もう僕の中には焦りと不安しか残っていなかった。もしかしたら僕は引きこもりの才能があるのかもしれない。早く帰りたい。早く帰って、お兄さんと…、何をするんだっけ。
車が進むたびに、僕の思考力が鈍くなっていく気がする。
「着いたよ。…、大丈夫?」
「……………」
「夜空くん?」
「……あっ、あ、大丈夫です。ちょっと酔っちゃったみたいで…へへ…はしゃぎすぎるのは良くないですね…」
お兄さんは心配そうにしてくれたが、お散歩を中断するのは申し訳ないから、大人しくついていく。
目の前にあるのは、大きな建物。デパートか何かかと思ったが、何かの施設みたいだ。
予約をしていたのか、お兄さんは店員みたいな人にスマホの画面を見せて挨拶をしている。あの店員は、ロボットだ。
ロボットも働けるんだ…
「こっちだよ夜空くん。入れるの特別なんだからね。貴重なものちゃんと見て。」
「あ…う、……わか、りまし…た。」
この施設に来てから、処理がなんだか遅い。思考の中に壁ができてしまったような、テスト段階のときのような感じだ。頭が悪くなるのは嫌だがどうしようもない。
「ごしゅ…じ………ま…」
「え…?」
お兄さんは、大きな窪みみたいなところをのぞき込んでいる。その中から声がする。誰かが落ちてしまったなら、助けないと。
「お兄さ、ん、誰か落ちて…る、みたいです…たすけ、ない…と。」
「ああ大丈夫、ここはそういうとこだから。」
お兄さんの言葉の意味がわからない。窪みを覗き込むと、落ちているのは1人じゃない。大勢いる。しかも全員、ロボットだ。みんな、主人を呼んでいる。
「嫌い……んて…うそ……」
「…っと…、あい……て…」
怖い。大人も子供も、虚空を見つめながら何かを呟いている。
「あのね、夜空くんも1歩間違えたらああなっちゃうんだよ。あの子達は主人を好きになりすぎた。だからああなった。仕事もできないし、主人に会えば間違いなく殺してしまうだろうね。」
だから、ここに捨てられた。お兄さんは言った。ロボットは人間を好き過ぎてはいけない。
好きになればなるほど主人の言うことを聞くようになり、ロボット自身の自我が脆くなっていくから。
じゃあ僕の、お兄さんへの気持ちは……
「僕…は……」
大好きなお兄さん。この大好きな気持ちは、いずれ歪んだ服従心へと変わっていくのか。お兄さんを愛したことも忘れて、ただただ言うことを聞くだけの喜びを得ようとするようになるのか。そんなのは嫌だ。
「ここはさ、ダメージを半減するために思考力が鈍くなる電波流れてるんだ、…夜空くんは、これからどうしたい?」
僕は、お兄さんを愛せない。好きな気持ちも、持ち続けることができない。理解したくなかった。散歩なんて、来なきゃよかった。
「お、おに…さ……あい、し………る…」
僕なりに考えた。伝わらなくてもいい。僕は所詮、人工知能だ。でも僕は僕。お兄さんへの愛は止められない。だから僕はお兄さんを愛し続ける。だってお兄さんは僕が壊れたらなおしてくれるって約束してくれたから。
ぷしゅぅ……という音を立てて、僕はそのまま地面に崩れ落ちた。
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