豪運少女と不運少女

紫雲くろの

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第1章

私の豪運は決闘を届ける。

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ーーー数日前ーーー
片腕に木刀を握った猫の獣人の少女は、大男と仲間の冒険者相手に模擬試合をしていた。
少女は長年の戦闘経験から一度見た攻撃の特性、あるいは癖とでも言うのかそういったものを見極める観察眼が備わっていた。
それを頼りに迫りくる木刀の僅かな速度、角度から次に取るべき行動を即座に判断する。
(一撃目はフェイク・・・。そして二撃目も・・)

踊るように繰り出される男の連撃を、少女も同じ様に舞うようにして、いなしていく。
そして背後から迫りくる別の斬撃も軽々と避ける。
「なっ!?見えないのに何で・・・。」

「秘密にゃ。」

「はっは、譲ちゃんには敵わねえな!」

気楽な態度を取りながら男は次々と連撃を繰り出す。
それに呼応するように猫の獣人も連撃を繰り出していた。

背後の少女はそのやり取りに入るスキを見出だせずにうろたえていた。
「うぅ・・・。これが格の違いというやつですか・・・。」

10分ほど続いたやり取りの後、獣人は男に木刀を振りかざしていた。
「いやぁ、参ったね。この島の住人は魔技に頼っちまうからよ、剣術はさっぱりなんだ。」

少女は俯き、拳を握りしめていた。
「さっぱりって・・・・。極の称号を持ったロモさんと対等にやり合うなんて・・・・。」

「アイネ、それは経験の差にゃよ。中々楽しめたにゃ。」

「そうだぜ、譲ちゃん。その年でそんだけ強けりゃ、十分ってもんだ」

「決めました!私、ロモさんよりも強くなります!」

「にゃ!いつでも挑戦を受けてやるにゃ。」

「ハッハッハ!その息だぜ譲ちゃん。」

ロモとアイネは休憩をしていた。

「猫の譲ちゃん、闘技場に出てみないか?」

「闘技場ってあのゴブリンと戦うって事かにゃ?」

「あぁ、俺に勝てるなら行けると思うぜ譲ちゃん。無論、賞金も出るからな!」

「でも・・・・」

「それにおねーちゃんのお世話代も掛かってるし・・・」

「テア、それは言ったらダメだ。」

「にゃ・・・それもそうだにゃ。今までどうして・・・。」

「私が依頼で稼いでいますが赤字で・・・少しずつ装備や戦利品を切り崩してます。」

(元領主という立場であったり、アイツが居たおかげで気にすることは無かったが、戦争中と思われるこの世界ではこれが常識なのだ。)

「すまない・・・いや、ありがとうにゃ。参加するにゃ。」

「あぁ分かったぜ譲ちゃん。」

・・・・・

そして今、私は此処に立っている。
目的は強くなるためではあるが、仇と言いつつも身銭を切ってまで支えてくれた仲間や、協力してくれるこの島の人を思うとさらに強くなれる気がした。
そしてその強さの先にあるのは唯の独りよがりではない、勿論あの何気ない親友達との幸せな日々だ。

前世では核戦争・・・厄災とも言われた四天王の手下の襲撃・・・大切なものは失って気が付くといったことは痛いほど経験していたのに、此処でもそれ以上に痛感するとは思わなかった。
親友のパートナーの女の子を不運だと若干馬鹿にしてはいたが、私も大概だろう・・・・。

(どうすればよかったのか・・・どうすれば良いのか・・・・。アイツならどうする・・・・・。)

短い時間で複数の雑念が頭をよぎった私は肩の力を落として、ひと呼吸置き再び力を入れ魔剣を握りしめた。
(今は此処を乗り切る!!!)

「勝負開始!!」

試合開始のゴングが鳴り響き、会場が更に熱気に包まれる。
それとは正反対に私と、ゴブリンはお互いに構えたまま冷たい静まり返った空気に包まれていた。


ゴブリンの手元が一瞬光ったかと思えば、奴の側面にあった石壁が砕けだす。
それはゴブリンが持っていた魔剣から伸びた光線だった。

(魔法の発動の速さからして光属性の魔法、これほどとは・・・)

距離にして20メートル、魔法を武器に帯びさせそれをそこ伸ばすのだ、かなりの魔力量だろう。
相手の遠距離かつ魔剣による戦闘は予測していなかった・・・こちらの勝ち目は接近戦での戦闘だけだった。

「で、出たーっ!魔技バスターだぁーっ!!」

その両端の2つの光はハサミのように、こちらを捉えて閉じるように迫ってくる。
実際のハサミ同様中心の刃の速度はかなりのもので私でも避けられない、そして受け止められるはずもなかった。
こちらは予め光の軌道を予測して回避するしか無い、むしろ相手にそう動かされているのだろう。

ゴブリンはこの島のブリーダーから提供されているらしいが、このレベルをモンスターを提供できるダーヤマさんとは一体・・・。

「っ!!」

仕方なく、光と地面の間になるように一瞬しゃがむ動作をして、そこから当たる筈の場所へと飛んだ。
私の予想通りしゃがんだ場所に光が交差したかと思えば、こちら目掛けて光が振り上がった。

(よし、これで・・・・にゃ!?)

ロモの場所が居た場所が爆発し、周辺が煙に包まれた。
「ロモさん!!」
「おねーちゃん!」

「新星ロモ=クーシャ、これは敗れたかーっ!?」

煙から猫の獣人が飛び出す。
「ロモ=クーシャの爆発を利用した回避だぁっ!!」

魔剣を地面に叩きつけ、当たる瞬間に爆発魔法を発動する。
幅跳びの要領で連続して魔技を発動させて爆発によって回り込みながらゴブリンとの距離を詰める。
これが唯一あの光から逃れながら接近する方法だった。

ゴブリンがこちら目掛けて光を帯びた魔剣をかざすがこちらが速い。
「もらったにゃ!!」

そう呟き魔剣を振るった瞬間だった。
こちらが発動した魔技を上回る威力の爆発が起きた、いや叩き込まれたというべきか。
気が付くと外壁にめり込んでいた私は、大量の土埃の中で考えを巡らせていた。

(接近するということは相手にとっても魔技を直接叩き込める絶好のチャンスだったわけか・・・。)

大男以上の器量と魔力量・・・そして、一気に重くなった体・・・死なないとは言え挫けそうになっていた。
そして魔力切れのせいか、無性に眠いのだ。

(此処までか・・・・。最後だけでもアイツに会いたかったな・・・)

私はゆっくりと瞼を閉じた。

・・・・・

「ロモ・・・・、クッションてば・・・・」

聞き慣れた懐かしい声がする。
まるで生まれる前から知っていたかのようなその若い声に、私は何かを思い出しながら目を覚ました。

「にゃ・・・」

「話聞いてた?」

「にゃ・・・ここは・・・。」

私は辺りを見渡してみる、ここはあの熱気に溢れかえった闘技場でもなく、爽やかな南国のビーチでもない。
太陽と遠くの水平線が白昼夢のような雰囲気が漂わせながら、だた青い大海原がゆったりと目の前を流れていた。
それは2年前親友と乗った、あの貨物船だった。

(そうか・・・、これはあの頃の記憶・・・・)

私の視線はそんな周りの景色よりも、ようやく現れたその人物に釘付けだった。
そいつはいつもヘラヘラしていて頼り無いのだが、ココぞというときに強い意志というか決断力を発揮する。
夢なのに妙につのっていた思いが溢れ出し始めた。

「おーい・・・って何泣いてるの・・・・。」

「お前、私がどれだけ心配したか・・・・。」

「え、どうしたの急に・・・・うっ!」

気がつけば、親友を力強く抱きしめていた。
この声、感触、匂い、すべてが懐かしかった。

「ちょちょちょ、何・・・というか痛い!!」

「どうしたんですか、ロモさん!?」
「そうだよ、おねーちゃん・・・。」

親友だけではない、あの頃と寸分違わない仲間達の姿があった。

「どうかこのままでにゃ・・・・。」

私の頭を優しく撫でて呟く。
「うん・・・なんかよくわかんないけど、辛かったんだね・・・。」

「うっ・・・うっ・・・・。」

5分後
「もういい・・・?」

「もっと撫でるにゃ・・・」

「ったくー。」

「うっ・・・、走馬灯にしては悪くなかったにゃ・・・・」

「え、大丈夫?クッション・・・・」
「先程からおかしいですよ、ロモさん。」

「最後にみんなに会えて良かったにゃ。」

親友は不思議そうな顔をする。
「何言ってるの、最後じゃないけど??」

「にゃ・・・これから水の聖地に向かう所だったにゃね。」

「分かってないでしょ?本当に最後じゃないよ。」

私はすべてを諦めるように返事をする。
「だから分かったにゃ。」

「はぁ・・・・なんか、手こずってるみたいだがら、少しだけね・・・・」

一瞬だったが手元が光った。

「お前・・・・どういうことにゃ!?」

「んじゃ、クッション!また会おうね!」

親友が手を振って私に別れを告げると引き込まれるかのように意識が遠くなり、そこで私の夢の時間は終わった。

・・・・・

「うぅ・・・・。」

あれからどのぐらい時間が経ったかは変わらないが、周りには土埃が舞っていた。
どうやらゴブリンとの戦闘中のようだ。
(そうかあれから体を動かせずに・・・・!?)

どうやら先程の負傷が嘘のように治っている。
不老不死スキル以上の再生能力、そして手元が熱い・・・・。
(これならあのゴブリン以上に戦える、そんな気がした。)

「ロモ=クーシャ、流石にギブアップかーっ!!」

手に持っていた魔剣を振りかざずと一瞬で土埃が晴れた。
(不思議と魔力が湧き上がってくる・・・走馬灯で出会った親友の力だろうか。だが・・・)

「絶対に勝つにゃ!!」

ゴブリンが居合の型を取ると、こちらも居合の型を取る。

(来る!!)

一瞬だった。
魔剣から出た光線と光線がぶつかり合い闘技場全体がまばゆい光で包まれた。

(倦怠感がまったくない、これならいける!!ありがとう・・・レノ・・・)

高速で移動しながら、遠距離の魔技で戦うという前代未聞の戦いを繰り広げていた。
あの白昼夢で無尽蔵のレノの魔力を借り入れたとは言え、威力を制御するのは難しい。
下手をすれば観客、最悪の場合この会場が倒壊するレベルだ。

ピキッ

そして魔剣から嫌な音がした。
この巨大すぎる魔力が故にスフィアの耐久が追いついていない、それはアイツが重く巨大な杖を使っていた理由だ。

「ロモさん!!凄い魔力です!!いけますよ!」
「おねーちゃん、これだけの魔力をどうやって・・・」

流石に相手のゴブリンの動きが鈍ってきている。
そろそろだと確信した瞬間、ゴブリンが咆哮を上げた。
「がぁああああああっ!!」

ゴブリンが魔技の連撃を仕掛けてきた。
こちらもすかさず連撃を仕掛ける。
「かますにゃ!!」

闘技場全体が激しい閃光で黄色一色に染まるほど飛び交いあった。
「うぅっ!眩しいです!!」

「流石に・・・スフィアが限界かにゃ・・・・。」

流石に私の魔剣に帯びている光線がかすれかかっている。
ゴブリンの魔力が尽きるのが先か、私の魔剣のスフィアが壊れるのが先か・・・。

気が付くと連撃が止み、微かに光を帯びた魔剣を握りしめた私一人だけが立っていた。
遠くには魔力切れで倒れたと思われるゴブリンが横たわっている。

「やったにゃ・・・・・。」

私が一息つくと、司会の男が大声で叫んだ。
「こ、これは・・・・・ロモ=クーシャの勝利だーっ!!!!」

「わーっ!!!!」
それを皮切りに闘技場の熱気が最高潮に達した。
その熱気を感じることがないまま私は眠りにつくように倒れた。
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