ものひろいの能力もらったけど魔法と恋愛に夢中です。

紫雲くろの

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亡国の姫君編

第60話 静寂

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俺は王女に王国から近すぎず、遠すぎない位置にある湖を探してもらっていた。
そして、そのアイテムを使うためにはある程度の大きさの湖が必要なのである。
そこの周辺状況を確認するため地図と虫眼鏡を使って確認する。

「であればこの湖が良さそうですけど・・・。」

「広さ、水深共に十分だな。」

「一体、何をなさるおつもりで?」

「電子戦のための準備さ。まずは下見だな・・・その湖に連れて行ってくれ。」

「分かりました。ですが・・・」

王女は俺の手を握ってきた。

「えーっと・・・1人で十分なはずだが・・・・。」

「アナタだけでは心配なので・・・その・・・。」

「あぁ、分かったよ。一緒に行こうか」

その言葉を聞いた王女は笑顔で返事をする。
「はい!それとこれは・・・・俗に言うデートですよね・・・。」

「まぁ・・・・デートってやつなのかな・・・。」

「そういうことであれば分かりました。」

「何を分かったんだ・・・・。」

そそくさと王女は部屋を出ていった。

「アイテムをそこで使うだけなんだが・・・・。」

5分後、王女は綺麗なワンピースのような服を着て戻ってきた。
髪は後ろでくくり、別人のようにスッキリとした雰囲気を醸し出していた。
「お待たせしました。」

「デートとは言ったが・・・・・」

王女は不満そうな顔をして軽く咳払いをした。
「こほん・・・。」

それを聞いた俺は慌てて言い直した。
「いや、むしろ早いぐらいだ。可愛いよ、王女様・・・。」

「ふふっ、そう言ってもらえると準備した甲斐がありますね。」

「そろそろロモ辺りが嗅ぎつけて来そうだが・・・。」

「それなら心配要りません。ここは王城の裏手にある館ですので。」

「今頃、王城は蜂の巣を突付いたような状況になっていそうだな。」

「そうですね。ふふっ、こういったことは昔から得意で、よく父上に叱られたものです。」

微笑みながら王女はこちらに杖を渡したあと、何かを待っているような雰囲気を醸し出し始めた。
「エスコートをお願いできますか?」

俺が手を差し出すと王女はゆっくりとその手を取った。
「あぁ。行こうか。」

「はい・・・。」


・・・


転移した先は湖にほど近い、とても静かな草原だった。
くるぶしほどの高さの草が生い茂り、心地よい夜風がそれをなびかせながら静かに吹いている。
湖の曇り一つ無い水面(みなも)には満月が映し出されていた。

「ここが・・・・現実とは思えないな・・・」

「えぇ、私もこれほどの場所は訪れたことがありません。近くにこんな場所があったなんて・・・。」

一流と呼べる景色というものを知っているはずの彼女も、その幻想的な光景に息を呑まずにはいられなかった。

「少し楽しみましょうか。」

そう言うと、満月に照らされた王女はこちらを意識しながら優雅に踊り始めた。
つま先から指先の細部に至るまで魂がこもったその踊りはこちらの心を簡単に射止めた。
周りの幻想的な光景を忘れさせる程に彼女の踊りは魅力的だったのだ。

しばらくしてゆっくりと王女がお辞儀をしてその幕を閉じると、気が付けば称賛を送っていた。
「どうでしょうか・・・。」

「素晴らしい踊りだった。」

「ありがとうございます。」

そう言うと王女は隣りに座った。
俺は目的アイテムを使うのを諦め、日々の疲れを癒やすかのように目の前に広がる光景を眺めていた。

「コウさん・・・あの・・・。」

「なんですか王女様・・・。」

「その・・・奥様方とはキスとかされましたか?」

「あぁ、当然・・・っておい・・・。」

王女の方を見ると恥ずかしそうに目を瞑りながら何かを待っていた。

「仕方ないな・・・。」

俺はゆっくりとその王女の唇を塞いだ。
その行動に緊張していたのか王女は甘い声を出した。
「んっ・・・・。」

周りが醸し出す雰囲気に、なれているはずの少年ですら初々しく戸惑っていた。
その衝撃で思考負荷とでも言うのだろうか、認識すら難しくなった脳が見せるのは只々甘いという感覚だけであった。
雲が飛行機のように流れ、夜風が突風のように通り過ぎていく。

突風がよそ風に変わる頃、目の前の王女は恥ずかしそうに呟く。

「はぁっ・・・・その・・・初めてでした。」

「あぁ、とても良かったよ。」

上目遣いで王女はこちらを見つめながら頬を膨らませる。
「まぁそれだけですか・・・・って、きゃっ!」

俺は優しく王女を抱き寄せる。
静寂の中に2人のやり取りだけが優しく広がった。
「王女様・・・愛してる。」

天才的な統率力で人心掌握が得意な彼女もその言葉と雰囲気に飲まれていた。
耳元に透き通った声が恥じらいと共に入ってくる。
「あの・・・その・・・フィオナと・・・・」

「フィオナ・・・愛してる。」

「はい・・・。私もです・・・。」

2人は抱きしめ合いながらその周辺の雰囲気を静かに楽しんでいた。
甘ったるさが徐々に甘酸っぱさに変化する頃、フィオナはゆっくりと立ち上がりこちらに背を見せる。

「私が欲しても、手に入らない物もあるのですね・・・。」
「フィオナ、俺と一緒に100年後に・・・」

「そうしたいのは山々ですが、前にもお伝えしたとおり私にしかできない役目がありますから。」
「そうか・・・」

「もう一度、抱きしめてくれますか?」
「あぁ・・・。」
するとタブレット端末から着信音が鳴り響いた。
それはまるでこちらの様子を見ていたかのようなタイミングであった。

「ロモからの連絡だ!」

「まぁ、大変。逢引(あいびき)がバレてしまいますね。」

タブレット端末に表示されている時間を見た少年は驚いた。
「言ってる場合か。ってこんな時間か!?」

「戻りましょうか。」

「あぁ。明日にしよう。」

王城の裏手の館に戻った俺達は急いで戻る準備をした。
特注の香水を振りかけ、こちらの衣服に異常がないかを確認する。
「これで大丈夫かと思いますが。私は遅れていきますので先に・・・」

「わかった。」

「それと、杖の方を・・・。」

「あぁ。」

王城に戻った俺はあまりの惨状に驚愕した。そこはあの場所とは違い、喧騒と荒らされた様子が広がっていた。
城中の壁には何処かの獣人が走ったような跡が付き、各所のドアは鋭利な魔法で切り裂かれた焼け焦げた跡があった。
さらには床には謎の液体と割れた小瓶が転がっており、予想通り蜂の巣を突付いたような状況であった。
幸いなのはあの幼馴染が王城で魔法を放っていないことであった。

俺がゆっくりとそれらの状況を確認していると騎士と思われる人が見かけるやいなや木で出来た笛を鳴らした。
「コウ殿を発見しました!!」

騎士がその言葉を叫んだ瞬間、近くの壁が崩れリンが飛び出してきた。
そして俺に対してタックルをお見舞いしてきた。
彼女に馬乗りになられながら手足を抑えられる。
「うぐっ。」

「目標確保です!!」

次の瞬間大量の小瓶が飛んでくる。
「モニカか!?」

その小瓶の液体を浴びた俺とリンは覆いかぶさるように倒れる。
視界には相変わらず大量の状態異常が表示されていた。

「モニカさん・・・ちょっと・・・。」

「リンまで巻き添えにするんじゃない。」

「ふふっ、やっと見つけました。」

しばらくして忍び装束を身にまとった獣人が小刀を構えながら歩いてくる。
「縛り付け、水攻め、焼き討ち・・・どれがいいにゃ?」

「待てロモ、俺は!」

遠くからフィオナが息を荒げて駆けつけてくる。
「コウさん!何処に行ってたんですか!?」

「お前があの杖でさらったんじゃにゃいのか?」

「いえ、私もお探ししておりました。」

「本当かにゃぁ・・。」

あの杖を腰に挿した騎士のマイルが駆けつけてくる。
「すまない、少年。私のわがままに付き合わせてしまって。」

王女はアイコンタクトを送ってきた。
おそらく話を合わせろということだろう。
「良いんですよ。マイルさん。」

「マイルどういうことですか。」

「少年には我が国の秘宝の調査と私の訓練を手伝ってもらっていました。その証拠にほら。」

騎士マイルが俺の足元を指さした。
そこにはあの草原で付いたであろう土や草の屑の跡があった。
「たしかににゃ・・・。」

「そうだったんですね、マイル。」

「どうりで王城に・・・そしてマイルさんを見かけなかったわけですね。」
当然、彼は王女様の警護を担当しているので王城には居ない。

「で、姫様は何処に居たんだにゃ?」

「えぇ、別室で作戦の立案をしていました。」

すべての人物が彼女の手の平の上で転がされているようであった。
彼女であればあのアカネですら自在に操られてしまうだろう。

しばらくすると豪華な杖を背負った少女がこちらに勢い良く向かってきた。
そのまま少女は抱きついてきた。
「ナシェ!」

「コウ君、心配したんだよ!」

「マイルさんに頼まれたんだ。」

「そうだったんだ。よかった!」
すると少女は満面の笑みを浮かべる。
その笑顔に罪悪感を覚えた俺は彼女たちに埋め合わせを計画することにした。
遠くから男が呆れた様子で歩いてくる。
「けっ、街から戻ってきてみりゃあ何だこれは襲撃かよ・・・。」

「マイルかにゃ。」

壁を見ながら男は感心していた。
「姉御まで心酔してるたぁ、世も末だな!って大戦中だからそうか!ハッハッハ!」

「笑い事じゃありませんよ・・・」

王女は気まずそうな顔をしてこちらを見つめてくる。
「で、ここの修理は一体誰が・・・・。」

少女達もこちらを見つめてきた。
「それはもちろん・・・・」

「俺か・・・。」
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