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39、嬉しい時は倍になる!

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「昨日から本ばっかり読んでる‥‥‥アルフレド様にまた借りたの?」

「うん」

 帰宅してすぐ俺の部屋に入ってきたマナ。
 
「しかも、今日早退したの?」

「ちょっと色々やる事があってさ」

「なんだか忙しそうだね。帰っても本読んでばっかりだし‥‥‥」

「知らない事が多すぎる。もっと頑張らないと」

 色んな人と話してわかった、俺にはまだまだ知識が足りない。
 時間があるなら、少しでも頭に情報を入れておきたい。

「で、アルフレド様はどうなの?」

「どうとは?」

「付いていくの?」

 主君として認めたのかどうかという事だろう。
 俺は机の上に読んでいた本を置き、ベッドに転がるマナの方に身体を向けた。

「マナ、ちょっと話しをしてもいい?」

 俺に付いてくると言っていたのだから、ちゃんと話してる方がいいな。

「うん。難しい話はわからないかもしれないけど、ちゃんと聞いておく」

 マナもベッドに腰掛け、真剣な顔を此方に向けた。





「アルフレド様は王になるつもりでいるのね?」

「俺はそれを助けようと思ってる」

「で、なんでそんな紙切れが必要なの?」

 アルフレド様が書いた檄文を指差すマナ。

「これは、血判状にもなってるんだ。アルフレド様の味方になる人間を探して、署名してもらってる」

「ねえねえ、シャーロット様を私とカイトで暗殺しちゃった方が楽じゃない?」

「‥‥‥物騒な事を軽々と言うなよ」

「そしたら自然と、第二王子のアルフレド様に継承権が来るじゃない」
 
「そうは上手くいかないよ。頭でっかちのアルフレド様は、現国王にもよく思われていないんだ。第三王子や第四王子に継承権が流れちゃうかもしれない」

 王様は子沢山。
 そしてアルフレド様以外の王子達は、皆この国の教えに従い身体を鍛え、騎士団の部隊長などに任命されている。
 
「そしたら第三王子も第四王子もヤッちゃえば?」

「‥‥‥そうすると、アルフレド様がめちゃくちゃ疑われちゃうな」

「王様もヤッちゃえば上手くいかない?」

 物凄く好戦的な英雄。
 まあでも、それはその通りなんだけどね‥‥‥。

「仮に今俺が魔法で王を暗殺したとしよう。時と場所さえ選べば上手くいくかもしれない。だけどその後どうすんだ?」

「その後って‥‥‥アルフレド様が王様になって国を治めるんでしょ?」

「王様を倒したから、今日から俺が王様だ! なんて言っても誰も付いてこないだろ? すぐに反撃されて全滅しちゃうよ‥‥‥。それにあまりゴタゴタしてると、他の国に弱みを見せる事になるだろう。俺たちの目的は国を壊す事じゃなく立て直す事。だから王を討った後、迅速に国を治められるように仲間は多い方がいい」

「つまり王様は倒すけど、倒したら終わりって訳じゃないから仲間を増やしてるってわけね」

 まあ、そもそも王を倒すのが普通困難なんだけどな‥‥‥。
 アルフレド様は大分前から仲間を増やしつつ、その機会をうかがっていたらしいが、やはり隙をつき王を討つのは至難の業だったようだ。
 兵を使い大軍で攻めると、お互いに戦死者が出てモスグリーン王国の国力を大きく失う事になるので、出来れば避けたい。
 しかし、俺が魔法で風の刃を使えば、遠くからでも襲撃が可能。
 そうすれば兵士は失わないし、被害は最小限になる。
 俺は自らその役を買って出て、頓挫していた作戦を進めるようにアルフレド様に進言した。
 ツラい仕事になるからと本人には何度も止められたが、ここで魔法を使わないなんて絶対にありえないんだ。

 ───誰かがやらないと国は変えられない。

 俺の強い説得もあり、第二王子アルフレドは重い腰を上げ遂に動き出した。
 檄文を作成し、自分の覚悟を皆に伝える為に血判状まで用意する。

 余談だが、作戦決定後も若い俺に汚れ役を任せる事を謝ってくるアルフレド様を見て、この人についていこうと俺は再度心に決めたのだった。
 



「ねえねえ、見てもいい?」

 ベッドから立ち上がり、机に置かれた血判状を手に取るマナ。

「いいけど丁寧に扱ってくれよ。それが原本なんだし、もし王国側の人間に見られると、署名してる人は全員打首なんだから」

「流石にそれくらいは私でもわかるから‥‥‥。あ、ウェンディさんの名前もあるのね」

「快く署名してくれたよ」

 ウェンディ先輩は内容を話すと『その時を待つよ』と一言だけ言うと、捺印してくれた。
 彼女が賛同してくれたのは、俺にとってはかなり大きい。
 自分の行動が間違ってないという確認にもなったし、何より相談出来る相手が出来たことが本当にありがたかった。

「ちょっと座るね」

「‥‥‥何してんの?」
 
 マナは椅子に座る俺の足の間に強引に座ると、机の方を向いてペンを手にしている。

「何って、私も署名するのよ」

「あ、待った!」

 急ぎマナからペンを取り上げる。

「え、なんで? 私も名前書くわよ?」

「マナは血判状に署名しないでほしいんだ」

「‥‥‥私だけ除け者?」

「マナが署名しちゃうと、多分人が集まり過ぎちゃう‥‥‥」

 マナ・グランドの人気は王より高い。

「それでいいじゃない。仲間は多い方がいいんでしょ?」

「いや、マナ・グランドが参加してるって聞いたら、意味もよく理解しないで入りたいって人が増えそうだろ? あまりこころざしの低い人は参加してほしくないんだ。どこから話が漏れるかもわからないし」

「当の私もあんまり理解できてませんけど、こんな人は参加するなって事かな?」

 睨まれた。
 同じ椅子に座っているので顔が近い。

「‥‥‥怒るなよ。マナの戦闘能力や名声は、アルフレド様にとってとんでもない戦力になるのは間違いないんだから。血判状には最後に署名してくれたらいいと思う」

「最後‥‥‥」

「それより、俺がやろうとしてるのは反乱なんだ。失敗したら殺されると思う」

「知ってる」

「その‥‥‥本当にいいのか?」

 付いてきてくれると言ってはいたが‥‥‥。

「ねえ、もしかして‥‥‥私がいると邪魔?」

 また睨まれた。

「そういう意味じゃなくてだな‥‥‥俺の一存で決めちゃっていいのか?」

「まだ、署名すらさせてもらえてませんけど」

「このままだと、マナも参加する事になるんだぞ?」

 王の暗殺の際、マナの戦闘能力はきっと必要になる‥‥‥。

「だからヤルって言ってんじゃん」

「‥‥‥ツラいぞ?」

「カイトもツラいんでしょ?」

「‥‥‥そりゃな」

 王だからとかじゃない。
 人を殺めるとはそういう事だ。

「じゃあ一緒ね」

 そう言うと、そっと抱きついてくるマナ。

「‥‥‥」

「ツラいのは半分こしよ。私はずっとカイトに付いて行くから」

 半分こね‥‥‥。

「‥‥‥マナ、ありがとう」


 俺を抱きしめてくれてるマナの体温は、とても温かく感じられた。
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