上 下
32 / 48

32、カイトに何かされましたか?

しおりを挟む


「つまり決勝戦に俺は参加するなと?」

「話が早くて助かるよ。決勝戦への出場停止、せめてこれくらいしとかないと、シャーロット様は納得しないと思うんだよね。その代わりに、君のクラスの他の人はちゃんと決勝に出られるようにするつもりだから」

 細目のアルフレド王子は、相変わらずニコニコと笑っている。

「それだけであの人納得しますか?」

 準決勝一回戦終了と同時に、俺の元へ向かおうとしていたバカ王子を抑えてくれたのは、このアルフレド王子だったようだ。

「そこは任せてもらえるかな? 上手いこと丸め込むよ」

「‥‥‥まあ、お任せしますけど」

 出場停止くらいで本当に納得するもんかね?

 別に不正を働いて勝ち抜いたわけではないのだが、魔法の存在を隠すとどうしても此方の言い分が弱い。
 そこで、疑わしいだけの者を罰するという力技を先に行う事により、バカ王子が俺に手出しし難くするようだ。

「君には申し訳ないと思ってるよ。本当はウェンディ・ノースとちゃんと戦いたかっただろ?」

「まあ、確かに」

「ただ、参加はするなと言っても、策を講じるなとは言ってない。事前に指示を出したり等して上手い事やってくれるなら、別にとがめたりしないよ。どうせ参加してても、君自身は砦に籠ってるだけだっただろうから、そこまで悪い条件ではないだろ?」

「そんな事して良いんですか?」

「多分アイツらには分からないし、僕が個人的に君達の戦いを見たいってのが本音かな。残念なのは、戦闘中に指示が出せない君が完全に不利だってところだね‥‥‥」

「大丈夫です。ウチのクラスの人間は頭いいんで、先にある程度言っとけば勝手に動いてくれます。‥‥‥ただ、ウェンディ・ノースは俺より全てにおいて格上ですから、そもそも勝てる見込みは少ないんで」

「そんなに凄いのかい彼女?」

「模擬戦を10回したら、7、8回は負けれます」

「模擬戦? 君達そんな事して遊んでたの?」

「ウェンディ・ノースが考案した遊びです」

「‥‥‥彼女とも早く話してみたいな」

「ウェンディ先輩呼んできましょうか?」

「いや、今はやめとくよ。僕が動き回ると嫌な顔をする人間が多いんでね」

「学園長が生徒と話すだけでしょ?」

「こんなでも一応僕は、この国の王位継承権第二位だからね。人と会うだけで継承権第一位の側近の方々は、僕が勢力を伸ばして何か企てようとしてると大慌てしだすんだよ」

「‥‥‥なんか、色々大変なんですね」

「物心ついた頃からだからもう慣れた。ただ、君には申し訳ないけど、今回は運が良かった。この状況じゃなかったら君と腹を割って話すなんて出来なかったからね」

「‥‥‥それはどうも」

「ウェンディ・ノースとは折りをみて話してみたいが、今じゃない。ちょっと今回は僕も動き過ぎている。君を救うだけで精一杯ってところかな」

「‥‥‥」

 やばいな。
 アルフレド様がとても良い人に思えてきた‥‥‥。
 俺は簡単に人を信じ過ぎか?

「後は、決勝がある明日だけ我慢してくれれば、暫くは大丈夫だと思うよ」

「決勝で俺が活躍しないだけで、シャーロット様が落ち着くとは思えませんけど?」

「いや、シャーロット様は明後日から遠征に行かれるんだ。ちょっと今ウチの国、ブルターヌ連合国と揉めててね。王族のシャーロット様がわざわざご出陣して、戦争にならないように説得に行くんだよ」

「そんな事になってたんですね‥‥‥知らなかった。しかし、あの人にそんな器用な事できるんですか?」

 あの人とはバカ王子の事。

「こういう時は、使者の肩書きがものを言うんだ。あんなのでも、一応モスグリーン王国の第一王子だからね」

 ‥‥‥この人も割と言うな。

「まあ、俺には関係ない世界です」

 国の偉い人達のやってる外交に興味はない。
 仮に興味があったとしても、そういった対外的な話は、俺達国民の耳に一切入ってこないのがこの国。

「おやおや、何を言ってるんだい? 今度詳しく世界の情勢なんかも教えてあげるから、ちゃんと勉強しとくように」

「‥‥‥なんで俺が?」

「今回の件で国への士官のチャンスがなくなる上に、僕が妙に肩入れしちゃうから、君はアイツらにますます目をつけられる可能性が高い。その代わりと言ってはなんだけど、君の将来を僕に保証させてくれないかな?」

 アルフレド様は細い目を開き、鋭い視線を此方に向けてきた。
 これがこの人の偽らざる素顔なのだろう。

「‥‥‥身体も鍛えずふらふらと遊び回った挙句、国王にまで愛想をつかされて隠居老人しかいない士官学校に飛ばされた第二王子が、何カッコつけて言ってんですか? 俺この学校の用務員とか、全然興味ないですよ?」

「‥‥‥うん、その通りだね。僕もそろそろ真剣に身の振り方を考えないとな────」


 トンットンットンッ。


 園長室に響く扉をノックする音。

「思ったより早かったね。どうぞ入りたまえ」

 返事より少し早く扉を開け、部屋にて入ってきたのはとんでもなく冷たい目をした美しい美女。

「アルフレド様、カイトに何かされましたか?」

 過保護すぎる俺の保護者マナ・グランド。
 学園長が第二王子のアルフレド様だって事、マナは知ってたんだな。

「やあマナ・グランド君、今日の準決勝残念だったね」

 ニコニコとアルフレド様。

「そんな事聞いておりません。何をされてたんですか?」

 ───あ、やばい。

 これは完全に怒ってるな‥‥‥。
 相手が王族だろうが、今にも切り掛かりそうな雰囲気。

「‥‥‥おやおや、これは僕の想像以上に愛されてるようだね。シャーロット様が嫉妬するのも頷けるよ」

 ニコニコと変な分析してる場合じゃないでしょ‥‥‥。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~

菱沼あゆ
ファンタジー
 旅の途中、盗賊にさらわれたアローナ。  娼館に売られるが、謎の男、アハトに買われ、王への貢ぎ物として王宮へ。  だが、美しきメディフィスの王、ジンはアローナを刺客ではないかと疑っていた――。  王様、王様っ。  私、ほんとは娼婦でも、刺客でもありませんーっ!  ひょんなことから若き王への貢ぎ物となったアローナの宮廷生活。 (小説家になろうにも掲載しています)

【完結】投げる男〜異世界転移して石を投げ続けたら最強になってた話〜

心太
ファンタジー
【何故、石を投げてたら賢さと魅力も上がるんだ?!】 (大分前に書いたモノ。どこかのサイトの、何かのコンテストで最終選考まで残ったが、その後、日の目を見る事のなかった話) 雷に打たれた俺は異世界に転移した。 目の前に現れたステータスウインドウ。そこは古風なRPGの世界。その辺に転がっていた石を投げてモンスターを倒すと経験値とお金が貰えました。こんな楽しい世界はない。モンスターを倒しまくってレベル上げ&お金持ち目指します。 ──あれ? 自分のステータスが見えるのは俺だけ? ──ステータスの魅力が上がり過ぎて、神話級のイケメンになってます。 細かい事は気にしない、勇者や魔王にも興味なし。自分の育成ゲームを楽しみます。 俺は今日も伝説の武器、石を投げる!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【TS転生勇者のやり直し】『イデアの黙示録』~魔王を倒せなかったので2度目の人生はすべての選択肢を「逆」に生きて絶対に勇者にはなりません!~

夕姫
ファンタジー
【絶対に『勇者』にならないし、もう『魔王』とは戦わないんだから!】 かつて世界を救うために立ち上がった1人の男。名前はエルク=レヴェントン。勇者だ。  エルクは世界で唯一勇者の試練を乗り越え、レベルも最大の100。つまり人類史上最強の存在だったが魔王の力は強大だった。どうせ死ぬのなら最後に一矢報いてやりたい。その思いから最難関のダンジョンの遺物のアイテムを使う。  すると目の前にいた魔王は消え、そこには1人の女神が。 「ようこそいらっしゃいました私は女神リディアです」  女神リディアの話しなら『もう一度人生をやり直す』ことが出来ると言う。  そんなエルクは思う。『魔王を倒して世界を平和にする』ことがこんなに辛いなら、次の人生はすべての選択肢を逆に生き、このバッドエンドのフラグをすべて回避して人生を楽しむ。もう魔王とは戦いたくない!と  そしてエルクに最初の選択肢が告げられる…… 「性別を選んでください」  と。  しかしこの転生にはある秘密があって……  この物語は『魔王と戦う』『勇者になる』フラグをへし折りながら第2の人生を生き抜く転生ストーリーです。

処理中です...