29 / 48
29、本気出しなさいよ!
しおりを挟む「さて、やっと2人きりになれたわね」
転がっている俺を見下ろすマナ。
「参りました」
まさに手も足も出ない。
敗北宣言である。
「何言ってんの? 勝負はこれからでしょ」
「‥‥‥それが、自分達の仕掛けた罠に絡まって、床に這いつくばってる人間に言うセリフか?」
情けない事に、先程からもがいてはいるのだが、この投げ網なかなか取れない。
改良に改良を重ねたとは言え、我ながら恐ろしい道具。
「まさか私にあれだけ啖呵切っといて、このまま終わる気じゃないでしょうね?」
挑発行為の事だろう。
「マナ・グランドには遠く及ばなかったけど、俺達は本気で戦った。やれる事、考えられる事は全てやった、悔いはない」
「怒るわよ。本気で来いって言ったのはどこのどいつよ? カイトも本気出しなさいよ」
先程までと違い、冷たい視線のマナ・グランド。
───何を言いたいのかは‥‥‥もちろんわかる。
「‥‥‥使わないぞ」
魔法の事。
「人に見せたくないって言うから、わざわざ単騎駆けまでしてこんな状況にしてあげてんじゃない」
相変わらず冷たい視線。
転がっている為、見下されてる感じが半端ない。
「‥‥‥マナはあの『力』の事をまるでわかってない。あれは本当に色々ヤバいんだ」
「だから魔法ね」
怒ってても拘るのな。
「それに俺がもし勝ったって、誰も信じやしないんだ‥‥‥マナが手抜きしたと思われるのが関の山だぞ?」
「そんなもの、後で私がちゃんとねじ伏せてやるわよ。それ以上ごちゃごちゃ言ってると、この皿叩き割るわよ!」
自分の額につけられた皿をコンコンと叩くマナ。
「‥‥‥何故、自分の皿を割る‥‥‥割るのは俺の皿だろ」
「カイトに勝ってもらいたいからに決まってんでしょ! 手抜きしたら怒るって言うし、そのくせ自分は本気出さないし、カイトの我儘にはもう付き合いきれないわ!」
「‥‥‥我儘なのはどっちだ」
言いたい事は何となくわかる。
前に本人が言っていたが、恐らくマナは俺を合戦大会で活躍させたい。
それは俺の出世の為。
しかし、普通に自分と戦っても俺に勝ち目がないと薄々感じていたんだろう。
かと言って、手を抜くと俺が怒る。
考えた結果、此方の策に乗っかる形で単騎駆けからの1対1の状況を作り、本気の自分を魔法で倒せと‥‥‥。
なんて、まわりくどい。
そして、そもそも俺はそこまでして国に士官したいと思ってないんだけどな‥‥‥1人でもちゃんと生きていける男になりたかっただけだ。
「あとさ、勝手に勝った気にならないでもらえる? 私はカイトと真剣に戦うのは、これを最初で最後にするつもりだけど、本気を出す以上コッチだって勝ちにイクわよ。さあ、おいで」
腰を落とし臨戦態勢のマナ・グランド。
その顔に笑みはない。
‥‥‥おいでと言われても、今は投げ網に絡まって動けませんが?
「マナ、見ろ!」
『ヒュルルシュルヒュルルー』
魔法で出したのは、昨日の休日を利用して発見したばかりの風の刃。
シュパパパッ!!
風は俺の周りを漂うと、拘束していた投げ網を細かく切り刻んで消えた。
「凄い! カッコいい!」
キラキラとした目で此方を見てくるマナ・グランド。
‥‥‥違う、そうじゃない。
「今のが自分に迫ってくる事を想像してみろよ。見えもしない風が急に襲ってくるんだ、まず避けれないだろ? 本気出せば竜巻だって出せるし、もう人間がどうこうできるもんじゃない‥‥‥」
俺は立ち上がり服についた埃を払った。
「カイトは私を甘く見過ぎ。避けれるし!」
「いや、無理だろ」
「避けるし!」
「見えないモンをどうやって避けんだよ‥‥‥」
「経験と勘」
「‥‥‥勘って」
「カイトはさ、妙に殺傷能力の高い魔法を使うから躊躇しちゃうんでしょ? 私だって木刀なんだから、なんか上手いこと皿だけ割るような威力の弱い魔法を使えば気持ちも楽なんじゃないの?」
「‥‥‥確かに」
相手は殺傷能力のない木刀。
こっちも殺傷能力の高い魔法は確かに反則な気がする。
‥‥‥ん? いや待て、そもそも魔法が反則なのでは?!
「私も本気出すけど、カイトを切っちゃわないように手加減はするわよ? 本気出せって言うけど、そんな事で怒んないでしょ?」
マナの木刀は何故かよく切れる。
コイツは存在自体が反則級だよな‥‥‥。
「マナは全然わかってない。殺傷能力がなくても、魔法を使えば一瞬で勝負はつく。あまり魔法を甘く見るな」
見えないんだから、適当な強さの風を皿に当てれば簡単に割れる。
「避けれるって言ってんでしょうが。早く撃ちなさい!」
‥‥‥駄目だコイツ。
まるでわかっちゃいない。
ちょっと木刀でも叩き落として驚かせてやるか‥‥‥。
『シュルヒュルルルシュルヒュルル』
ボフッ!
丸めて撃ち出した風の弾丸。
速さは弓矢なんて比じゃない。
俺が手から放った弾丸は真っ直ぐ進み、砦の壁に当たって弾けた。
───‥‥‥おい。
「凄っ、速っ!」
元いた場所から少し横に移動して、目をキラキラさせてるマナ・グランド。
「‥‥‥まじかよ」
「避けれたし!」
「‥‥‥ゴホン、今のはちょっとした力試しだ。魔法はこんなもんじゃないぞ!」
「じゃあソレ撃ちなよ」
‥‥‥むっ!
先ほどより速く。
速さは増しても威力が上がらないようにするには‥‥‥。
あまり条件をつけると、呪文は長くなる一方だ。
『シュルルヒヒュルルルシュルヒュルル』
ボンッ!!
「避けれた!」
ニヤリと笑うマナ・グランド。
嘘だろ?!
今のは人間がどうこうできる速さじゃないだろ?!
いや‥‥‥そんな事より、何より‥‥‥
「見えてるのか?!」
「正確には見えないけど‥‥‥なんか空間が歪んでる気がする。後、絶対『ヒュルヒュル』言うから、タイミングがわかる」
‥‥‥空間の歪み?
「魔法を舐めるな。そして風は一つと思うなよ!」
『シシュルルヒヒュルルルシュルヒュルルシュル』
ボボボフッボフッ!
ヒラリと身を捩り、飛んできた風を全て掻い潜るマナ・グランド。
かなり必死に避けたのだろう、床に片膝をついている。
「凄い! 今のはやばい!」
しかし、その顔は笑顔。
「‥‥‥お前‥‥‥人間か?」
「面白くなって来たじゃない。こっちも攻撃するから覚悟してね」
普通に負けそうな気がしてきた‥‥‥。
0
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる