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12、幼女のパンツ?!
しおりを挟むモスグリーン王国士官学校に入学してから半年が過ぎていた。
「‥‥‥また、汚したな」
この学園は王国中から優れた人材を募っている為、俺とマナのように実家から通学できる者は極少数。
生徒のほとんどが寮生活であった。
学生専用の寮の一室。
放課後、俺はウェンディ先輩の部屋の片付けをしていた。
───なんでも出来る駄目人間。
これが俺のウェンディ先輩に対する評価。
頭の回転が早いのは知っていたが、彼女は戦闘能力も目を見張るものがあった。
参謀と言えど、自分の身は自分で守れ。
これが彼女の持論。
体格的に剣を振るうのは向いてないと悟った彼女は、自分でも扱える小型の弓の修練を幼い頃から欠かさずにやっていたようだ。
一度狩りに連れて行ってもらったのだが、まさに百発百中。射られた矢は吸い込まれるように獲物の急所へ。
『これは才能じゃない、努力の結果だ』
とは本人談。
俺も真似してここ最近は教えてもらいながら、弓の修行中ではあるのだが、成果は‥‥‥。
絶対才能だろ!
そんな彼女なのだが致命的な欠点が存在する。
絶望的に生活能力がないのだ。
数日顔を出さないと部屋はゴミ屋敷に変わり、注意しとかないとご飯を食べずに本ばかり読み続けたりする。
二日間何も食べず、空腹により部屋で倒れていたのは記憶に新しい。
「服は脱いだら洗濯カゴへとあれほど言ったのに‥‥‥」
初めて部屋に訪れた時は本当に足の踏み場がなくて驚愕した。
本人は用事があったらしく、勝手に入って物色しといてくれと言われてた為、完全に一人。
───どこで本を読めと?
見た目が幼女とはいえ彼女は女性。
勝手に部屋を触るのはあまり良くないと思いはしたが、明らかなゴミだけ適当に片付けてまとめておき、後で捨てていいか確認するつもりで部屋で読書させてもらう事に。
帰宅した本人が至極喜んだので、その日から色々と教えてもらってるお礼に、部屋の清掃をするのが俺の仕事となっている。
「そして、こういう物が普通に落ちてます」
机の上に脱ぎ捨てられた下着。
正直もう慣れました。
「バウディ君、レディーのパンツを握りしめて何をしてるんだ?!」
「あ、おかえりなさい。ちゃんと洗濯カゴに入れといてくださいね。洗濯する時に集めるのも大変なんですよ」
下着を持ったまま振り返ると、帰宅してきたウェンディ先輩。
「フフフ、トンチを利かせた冗談だ。あんな美しい彼女のいる人間が私のパンツで興奮するとは思ってないぞ。バウディ君、いつもありがとう」
「あれ、その本は?」
ニコニコと笑顔のウェンディ先輩の手には、一冊の本が握りしめられている。
「探し求めていた本がまた見つかったんだ!」
『精霊との交信』と書かれた表紙の、これでもかってくらい怪しげな本。
「‥‥‥それは良かったですね」
「バウディ君も読んでみるといい」
「今度機会があれば、読ませて貰います‥‥‥」
彼女にはもう一つ変わったところがある。
『黒魔術のすすめ』だの『グレイ暗殺の真相』だの、なんともオカルトな本もかなりの数、部屋に置かれていた。
もちろん俺は一切、手をつけていない‥‥‥。
そう、彼女は極度のオカルトマニアだったのだ。
「いつもそんな事言って、全く読んでくれないじゃないか。君の意見も聞いてみたいんだ、本当に頼むよ」
「‥‥‥はい」
真剣に頼まれると断れない。
変な宿題ができてしまった。
「さて、今日も一戦しないか?」
ウェンディ先輩が机の上に持ってきたのは、彼女が考案した遊び『大戦ごっこ』。
『王様ゲーム』よりも、兵士の動きや陣形などを細かく再現した、本格的な戦ごっこ遊び。
彼女と出会ってから3ヶ月、俺は10回戦うと2~3回くらいは勝てるようになっていた。
「喜んで」
だがしかし、まだまだ対等には程遠い。
「カイト一緒に帰ろ」
「あれ? まだ学園にいたの?」
ウェンディ先輩の部屋から出て、校庭を歩いていたらマナに声をかけられた。
「もうすぐ合戦大会でしょ。色々準備があるのよ」
「なるほど」
そういえば今日は、まだ校庭で訓練してる人が多いな。
‥‥‥そして視線が怖い。
マナとの関係が公になって3ヵ月。
一緒にいると嫉妬の視線を感じる事は多いが、嫌がらせをしてくる者はほとんどいなかった。
やはりマナの存在は、俺の想像よりも遥か高みにあるようで、誰も手を出してこない。
「優勝目指すから応援してね」
ニコニコとマナ。
「‥‥‥軽く優勝じゃないの?」
「ちゃんと応援してね!」
「はいはい」
合戦大会とは一年から三年のクラスが参加し、トーナメント方式で行われる模擬戦。
昨年までは2年続けてマナのクラスが優勝しているようで、今年勝てば学園史上初の3連覇らしい。
「カイトのクラスも出られたらいいのにね」
「‥‥‥いやいや、出たくないし。それどんなイジメだよ」
ちなみに各学年の事務クラスは不参加。
30人対30人の乱戦に戦闘能力皆無な事務クラスが参加したら、ボコボコにされるだけだろう。
誰も出たいとも思わない。
「なんか上手いこと勝ち上がったら、国に認められるかもよ?」
実際この合戦大会で活躍した生徒は、王国での採用の時に良い待遇を受けられるのだとか。
「上手いことって‥‥‥その少人数の戦いで、何をどうしろと?」
兵法や陣形を使ったところで、国のエリート達相手では一瞬で崩壊するのが目に見える。
「それを考えるのはカイトでしょ」
「‥‥‥まあ、出ないから。応援してます」
そう、俺たち事務クラスには関係ない。
「うん、応援よろしくね!」
俺は校庭にいる生徒の恐ろしい嫉妬の視線を感じながら、腕に絡みつくチート美女と共に夕暮れの中を帰路につくのだった。
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