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7、餌付け。

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 状況を整理しよう。

 主人公リディア・アンデルマンの購入した奴隷は超美麗ネロ。
 おっとり系令嬢ニーナ・ベルはイケメンレックス君。
 雑魚ギャル令嬢エリザベス・ムーアは、特にここまで語られる事もなかった、名前が機関車みたいなゴードン。
 悪役で敵役、性格破綻で情緒不安定な顔だけ美女ローズ・ブラッドリィは俺アルバート。
 これが令嬢達がそれぞれ選んだ奴隷。

 令嬢達は皆『聖バラバラ学園』という、令嬢御用達の学園に通う生徒。
 そこの成績優秀な4人が、今回王妃の座を争って戦うのだ。
 そして、令嬢達が学園に通う時、何故か俺たち選ばれた奴隷も一緒に通学させられる。
 完全な、お嬢様学校に腰蓑しか着てない男が4人。
 狂気しか感じません。
 ここまではゲームの設定そのままです。

 そしてここからはゲームでは語られる事がなかった一コマ。
 彼女達が授業を受けている間、俺たち奴隷の4人は物凄く暇。
 というか、別に休み時間になるたびに令嬢に会いに向かう必要もないらしいので、学園に居る間、俺たちは果てしなく暇。

「女性の園である『聖バラバラ学園』に現れた腰蓑一丁の変質者4人は、屋上に集まってゴロゴロしていましたとさ」

「‥‥‥アル、誰と話してるんだい?」

「独り言です」

「そうか」

 ニコニコとイケメンレックス君。

「アルの所はどんな感じだい?」

「どんな感じとは?」

 イケメンレックス君は俺の方を向いて相変わらずニコニコしている。

「そうだ俺も聞きたかったんだ。テメェのご主人のローズって見た目は腰抜かすくらい綺麗だったが、氷の令嬢って言われてんだろ? 鞭とかやべえんじゃねぇのか?」

 話に割り込んできたのは、金色の短髪がよく似合う、ここまで語られる事が全くなかった可哀想な機関車ゴードン。
 ゴードンは容姿が85もあるのでかなりカッコいい。

「まだ鞭を打たれてないからわかんない」

「マジか?! 俺なんて昨日エリザベスにかなりやられたぜ。なかなか可愛い奴だよアイツ」

 鞭を打たれてるのに可愛い?!
 なんだか歪んだ愛情ですね。

「俺もかなり打たれたぞ」

 1人寝転がり空を見ている超美麗ネロ。

「ネロのご主人様はどんな感じなんだい?」

 寝転がるネロをニコニコしながら覗き込むイケメンレックス君。
 なんだろう、レックス君が絡むと男同士のラブラブな光景に見えてしまうのは、俺の思考が歪んでいるからなのだろうか‥‥‥。

「リディアは鞭を打ちながら泣いていた‥‥‥。俺はアイツの心を見た気がする」

 空を見つめポツリと呟く超美麗ネロ。

 ───やはり絵になる!

 皆さん鞭を打たれるだけで、色々とドラマがあったご様子。

 ‥‥‥いやいやいやいや!
 今納得しかけたけど、やっぱりこのゲームおかしいって。
 鞭を打たなくても話せばわかる事ばかりだろ?!

「そう言うレックスはどうなんだ?」

 目の前にいたレックス君を抱きしめながら起き上がるネロ。
 それに応えるようにレックス君もネロを抱きしめ上半身を起き上がらせた。
 
 ───何これ? イケメン2人がやったらなんでも様になる!

 もうイケメンのボーイズラブにしか見えません‥‥‥。
 俺が女子だったら涎をダラダラと垂らしてるところかもしれない。

「ニーナは優しいからね。鞭はあまり打ってこないんだ」

 ニコニコとレックス君。
 
 ───俺だって鞭は打たれてませんよ~だ!

 っと、なんとなく対抗意識を燃やしてみたが、なんかウチのご主人様は意味合いが違う。
 アイツが鞭を打たないのは、優しいとかそういう部類じゃない気がする‥‥‥。
 


「レックスさん」

 屋上に上ってくるための階段の辺りから可愛いらしい声がした。

「ニーナどうしたんだい?」

 イケメンレックス君のご主人様のおっとり系令嬢ニーナが、ニコニコとコチラに向かって歩いてくる。
 うん、ゲームと一緒でやっぱりいい人そう。

「昼食を一緒に食べようと思いまして。良かったら食堂に来てもらえませんか? お友達にもレックスさんを紹介したくって‥‥‥」

 モジモジとして可愛いニーナ。

「ああ、構わないよ」

 爽やかスマイルのイケメンレックス君。
 やばい、なんか余裕があるところがとても素敵!

「良かった! じゃあ、行きましょう」

 ルンルンと可愛い笑顔で先に歩き出すおっとりニーナ。

「ごめん、ちょっと行ってくるよ」

 俺たちにそう言い残し、イケメンレックス君は屋上からいなくなった。

 ───レックス君、なんかカッコいい‥‥‥。




 残されたのは俺と機関車ゴードンと超美麗ネロ。

「そういや、俺たちって昼飯どうすんだろうな?」

「さあ? 昼は抜きなんじゃない?」

 あっけらかんと話すゴードンに、俺が答えた。

 ───まあ、昼は我慢かな。

 俺たちはお金を持たされていない。
 何故なら奴隷だから‥‥‥。


「お~い! ゴードンいるか~!」

「おう、ここだ! エリーどうした?」

 また屋上に来客。
 今度は機関車ゴードンのご主人様エリザベス。
 
「お昼食べよ~! シェフに作らせたお弁当持ってきたよ~ん!」

「エリーナイスだ! 腹が減って死にそうだったんだ、早く食わせろ!」

「慌てない慌てない。中庭にランチ用意させてるから行くよ~」

「すまん2人共! ちょっくら食って来る!」

 そう言うと機関車ゴードンはエリーことエリザベスを抱え上げ、階段を凄い勢いで駆け下りて行った。



 そして残されたのは俺と超美麗ネロ。

「ネロはお腹空かないの?」

「空かない事はないが、まあ奴隷として鞭を打たれながら、重労働させられていた時よりかなり楽だろ?」

「まあ確かに」

「一食抜いたくらいで人は死なないんだ。アルバート、俺たちはこの裕福な時間をゆっくり味わおうじゃないか」

 そう言うと、超美麗ネロはまた寝転がり空を見上げた。
 
 ───ああ、なんてカッコいいのでしょう!
 
 ランチに誘われた2人に、嫉妬してしまっていた自分が恥ずかしい!
 この懐の大きさが超美麗ネロのメインヒーローたる由縁だろう。
 ネロの真似をして俺もカッコよく寝転がり目を閉じてみた。
 陽気な太陽の暖かさが身体に沁みて心地よい。

 ───ネロが一緒で良かった。



「‥‥‥あの、ネロさん?」

 寝転がる俺たちの頭上から透き通る綺麗な声。

 ───‥‥‥やな予感。

「リディアか? どうした?」

「あの‥‥‥私、今日早起きしてお弁当作ってきたんです‥‥‥」

「ああ、それで今日は少し眠そうな顔だったのか?」

「あ、バレてました?」

「まだ出会って短いが、お前の事はだいたいわかる」

「‥‥‥嬉しいです」

 やばい、俺の横でラブコメが始まってる!!

「それでどうした?」

「その‥‥‥一緒に食べてくれませんか?」

「ああ、いいぞ」

「じゃあ、一緒に教室に来てください!」

「わかった‥‥‥あっ!」

 超美麗ネロは思い出したように俺の方に顔を向けた。

「‥‥‥いいよネロ。俺に気を使わずに行ってくれ」

「‥‥‥アルバート、お前‥‥‥泣いてるのか?!」

「コレは欠伸したせいだ! 早く行け!」

「‥‥‥すまん。この埋め合わせはいずれ‥‥‥」

 そう言うと、超美麗ネロは腕に絡みつく主人公リディアを連れて階段を降りていった。


 
 残されたのは俺だけ。

 ───そして誰も居なくなった‥‥‥。

「そう、人間は一食抜いたくらいでは死なないんだ。気楽に‥‥‥気楽に行こう‥‥‥」

 俺は寝転がり空を見上げた。

 ───涙で空が見えません‥‥‥。




 

「何‥‥‥あんた死ぬの?」

 泣きながら目を閉じている俺の頭上から、聞き覚えのある綺麗な声。

「‥‥‥ヒック、ヒック」

「キモッ。ウジ虫から変な液体が出てるわ」

 目を開けると、目の前にこの世のモノとは思えない綺麗な美女の顔。

「なんだよ‥‥‥ウジ虫にだって泣きたい時があるんだい」

「それは良かったわね。そのまま干からびて死んだら、アイスの棒でお墓くらい作ってあげるわ」

「‥‥‥うるせぇ。お前に俺の気持ちなんてわかんないんだ!」

「ウジ虫の脳内なんて知りたくもないわね」

「‥‥‥今はお前の相手をする体力が俺には残されていない。帰ったら鞭でもなんでもくれて構わないから、今は1人にしてくれ‥‥‥」

 俺は美女と反対側を向いて再び目をとじた。

「あんた‥‥‥帰ったら覚えてなさいよ」


 コトッ。


 何かが地面に置かれる音。
 その後、美女の遠ざかっていくコツコツという軽快な足音が耳に届いた。

 目を開き確認すると、布に包まれた箱が俺の横にポツンと置いてある。

 ───コレは、爆弾?!

 流石にこの世界に爆弾はないか‥‥‥。
 いや、開けたら未知の生物が襲いかかってくるトラップか!

 おそるおそる布を剥がしてみると、なんて事ない木で出来た箱が姿を現した。

「フフフ、ここからが勝負だな‥‥‥蓋の開け方を失敗したら、学園ごとドカンか‥‥‥」

 俺は腰蓑を脱ぎ手に巻きつけた。
 コレは少しでも手にかかる衝撃を弱らせる為の処置。

 ───心許ないが、何もないよりマシだ!

「神様ー!」

 覚悟を決め、俺は腰蓑ごと箱の蓋を投げ飛ばす。
 腰蓑と蓋は遥か遠くに飛んて行った。
 
 ───‥‥‥何も起こらない?

 事態を確認するため、顔を守るために上げていた反対の腕をゆっくり下ろす。

 箱の中身は、それはそれは美味しそうな───

「‥‥‥お弁当?」

 嘘だろ?
 あの性悪女が俺に?!

 ───あ、やばい‥‥‥。

 俺は目から出る、ウジ虫汁プシャーが止められなかった‥‥‥。

「ご主人様、愛してる~!」

「うるさい!」

 ‥‥‥あ、まだ居たの?
 姿は見えないが階段の方から声が聞こえた。

「いただきます!」

「勘違いしないで、それはただのエサよ! どうでもいいから早く服を着なさい!」


 ローズの階段を降りる軽快なコツコツ音を確認した俺は、腰蓑を装備し直し美味しくお昼ご飯をいただきました。
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