魔王(♂)と勇者(♀)

心太

文字の大きさ
上 下
5 / 16
魔王と勇者

5、婚約指輪

しおりを挟む


「魔王様、勇者マルチナのパーティーが攻めて参りました」

 ガーゴイルが跪き報告する。

「‥‥レベルは?」

「勇者マルチナLv85、戦士レナLv73、僧侶メリルLv68にございます」

「‥‥ふむ、悪くないな。『勇者の剣』と『勇者の証』を装備したら敵などおるまい‥‥」

 魔王は玉座から立ち上がり、身体を動かしだした。
 今までの勇者マルチナ達ではない、油断は禁物だ。

「‥‥余が創り出した、最強の勇者の姿見てやろうではないか」

 トントン!

「‥‥入れ」

 勇者マルチナのパーティーが颯爽と現れた。
 
「魔王、覚悟!」

 勇者の剣を魔王に向け、威風堂々と勇者マルチナ。

「‥‥‥‥何故そのマントを装備している」

 仁王立ちの勇者マルチナの身体を包むは、とにかく派手な『豪華なマント』
 あまりにも恥ずかしく、あまりにも場違いなマント。

「何でって‥‥ダンジョンの宝箱に入っていたのだ、凄いマントなのだろう?」

「‥‥‥違うのだ、それは其方の宿屋の客集めの為に宝箱に入れてるアイテムだ、装備しても意味はない。‥‥‥何より、其方は恥ずかしくないのか?」

「‥‥恥ずかしいに決まってるだろ!」

 頬を染める勇者マルチナ。

「さっさと売ってしまう事だな」

「‥‥やはりあのダンジョンは、貴方が作ったものだったのか」

 何を今更、勇者マルチナ。

「‥‥他に誰がおるのだ」

「何でそこまでしてくれるんだ!」

 何でと言われて、魔王は考え込んだ。
 何故なのだろうか‥‥

「‥‥‥わからん。強いて言うなら暇つぶしだ」

「私が好きなのか!」

「‥‥‥いや、そういうのじゃない」

「指輪まで渡してきた!」

 左手の薬指に光る『勇者の証』

「‥‥‥それは、勇者専用のアイテムだ」

 溜息を吐く魔王。

「男が女に指輪を贈るのは結婚を申し込む時だ‥‥婚約指輪くらい私だって知ってる」

 仁王立ちの勇者マルチナ。

「‥‥‥婚約指輪とは何だ?」

 ガーゴイルの方を向く魔王。

「人間の男が求愛する際、女に贈る指輪だと認識しております」

「‥‥つまり、勇者マルチナは勘違いをしておるのだな」

「‥‥‥そうですな」

 肩をすくめる魔王とガーゴイル。

「勇者マルチナよ、それはそういう物ではない」

 キッパリと魔王。

「はっきり言っておく私達は敵どうし、それに私は余り貴方の顔が好きでは無い!」

 キッパリと勇者マルチナ。

「‥‥‥‥今もしかして、余は振られておらんか?」

 魔王の呟き。

「振られましたな」

 ニヤニヤしているガーゴイル。

「‥‥‥何を笑っておるのだ」

 腑に落ちない顔の魔王。

「‥‥‥顔は好みではないが‥‥嫌いではないんだ‥‥しかし私達は勇者と魔王‥‥返事は少し待ってくれ!」

「おお!魔王様、まだ脈はありますぞ!」

 ニヤニヤしながらふざけるガーゴイル。

「‥‥‥怒るぞ」

 魔王は深い溜息を吐いた。

「指輪は大事にする!」

 勇者マルチナは左手の指輪を、大事そうに右手で包んだ。

「勿論、他の貰った物も大事にするぞ!」

「‥‥‥マントは売り払え」

 豪華なマントを大事そうに撫でる勇者マルチナを見て魔王の一言。

「マントも大事に使う!」

「‥‥‥わかった、もう良い。今日はもう戦わんのか?」

 投げやりな魔王。

「魔王、覚悟!」

 豪華なマントをはためかせ勇者マルチナ。

「よく来たな勇者マルチナと仲間達よ。二度と歯向かえぬよう、其方らにこの世の物とは思えぬ絶望を味合わせてくれるわ」

 勇者と魔王の壮絶な戦いが今始まる。




「捨てて来て」

「‥‥奥方様の亡骸を捨ててよろしいのですか?!」

「‥‥‥本当に怒るぞ」

 ガーゴイルは深々と頭を下げた。

「しかし、こ奴らかなり強くなりましたな。13ターンも戦っておりましたぞ‥‥」

「‥‥余の体力もかなり削られておった」

 やはり勇者の剣と勇者の証の効果は大きい。

「‥‥こ奴らに邪神が倒せますでしょうか?」

 魔王の体力が残り100を切ると、邪神の復活という強制イベントが発生する。
 勇者達は魔王討伐後、喜ぶ間もなく邪神討伐に旅立たねばならない絶望イベントである。

「まあ、余を倒せるのなら邪神にも勝てるだろう」

「そう期待しましょう」

 ガーゴイルは数名の部下と共に、勇者マルチナパーティーの亡骸を抱え外に出て行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

凶幻獣戦域ラージャーラ

幾橋テツミ
ファンタジー
ラージャーラ…それは天響神エグメドなる絶対者が支配する異空間であり、現在は諸勢力が入り乱れる戦乱状態にあった。目下の最強陣営は「天響神の意思の執行者」を自認する『鏡の教聖』を名乗る仮面の魔人が率いる【神牙教軍】なる武装教団であるが、その覇権を覆すかのように、当のエグメドによって【絆獣聖団】なる反対勢力が準備された──しかもその主体となったのは啓示を受けた三次元人たちであったのだ!彼らのために用意された「武器」は、ラージャーラに生息する魔獣たちがより戦闘力を増強され、特殊な訓練を施された<操獣師>なる地上人と意志を通わせる能力を得た『絆獣』というモンスターの群れと、『錬装磁甲』という恐るべき破壊力を秘めた鎧を自在に装着できる超戦士<錬装者>たちである。彼らは<絆獣聖団>と名乗り、全世界に散在する約ニ百名の人々は居住するエリアによって支部を形成していた。    かくてラージャーラにおける神牙教軍と絆獣聖団の戦いは日々熾烈を極め、遂にある臨界点に到達しつつあったのである!

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏
ファンタジー
たったひとりの王位継承者として毎日見合いの日々を送る第一王女のレナは、人気小説で読んだ主人公に憧れ、モデルになった外国人騎士を護衛に雇うことを決める。 騎士は、黒い髪にグレーがかった瞳を持つ東洋人の血を引く能力者で、小説とは違い金の亡者だった。 主従関係、身分の差、特殊能力など、ファンタジー要素有。舞台は中世~近代ヨーロッパがモデルのオリジナル。話が進むにつれて恋愛濃度が上がります。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...