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少女、流星を穿つ

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あれから三日…俺は生まれて初めて…まあ物心着くまえは違うのかも知れないが…住んでいる土地を出た。現在はシンジュクスラムを北上し瓦礫の山を越えながら、何とか都市らしい都市に辿り着いた。ここはサンシャインシティ。殆どは瓦礫の山を越えるのに時間を使った。
ガルバニア帝国の追撃は不思議な事に無かった…のだが…エクスカリバーのマスターになって気が昂っているだけかも知れないが…いやーな…メガロゴキブリを台所で発見したような気分が続いている。
誰かの視線を感じる。エクスは基本的に黙っているけれど…彼女?は何も感じないのだろうか?話し掛けてみる。
端から見ると折れた剣に話し掛けている変質者だ。まあ今はサンシャインシティの路地にいる。誰も聞いてないだろうし、伝説の預言者サリバンだっけ?どうせあいつに嗅ぎ付けられたらおしまいだ。その時は闘って金貨をたらふく稼いでやる。

…………
「エクス…何か嫌な感じがしないか…台所でメガロゴキブリを見掛けたような…。」
「何よ?メガロゴキブリって?普通のゴキブリと違うの?」
「そこ突っ込む?異常繁殖してる一匹50cm超えのゴキブリだよ。でかくてタフな奴だ。殺すのも大変、殺した後も大変。放っておくともっと始末が悪い。寝ている人間の顔の上に乗っかってベロベロなめ回すんだ。」
「シオン…貴方幻覚が見えているんじゃない?ヤバいコナをキメないとその発想は出てこないわ。」
「ちょっとおおお!何人をヤクチュウ扱いしてるんですか!シオンさんは生まれたまま何にもキメキメしていません。エクスも宿屋の台所覗けば分かる。メガロゴキブリかその死骸が必ずあるから。」 
「遠慮しておくわ。吐きそう。」
「実体も無いのに吐きそうになるの?聖剣メンタル弱すぎじゃない?メガロゴキブリは気持ち悪いだけだけど、気持ち悪い上にクソ強いモンスターもわんさか居るよ。ここで挫けてちゃマスター守れないよ。」
「言ってくれるわね。虫なんざ欠片も残さず抹殺できるわ。ついでにキモくて強いモンスターも星の加護を受けた聖剣の神性に耐えきれないでしょう。不浄であればある程星の理がダイレクトに働き、砕け散る。それに嫌な気配の正体は虫なんかじゃ無いみたいよ。あのビルの屋上からとんでもない殺気を感じるわ。」
そういうと俺の頭の中に映像が流れ込んできた。ここから五百メートル先サンシャインシティの中核…サンシャインランドマークタワーの十五階展望台…
弓だ。弓を持つ。男の腕が見える…顔は…
「貴様…見ているな…漆黒の騎士。雨となれ流星!」
そう声が聞こえた気が…
俺が反応するよりも早く、俺の右腕がエクスカリバーの柄を自動で掴んだ。エクスカリバーの柄から光の剣刃が飛び出す。そしてそのまま俺の右腕は勝手に動いた。左右に剣を薙ぐ動き…そして何かを弾く手応えがあった。それは地面に落ちると光に変わって散っていった。
一つや二つではない。数えきれない程の光の矢…正に流星だ。
「シオン…力を抜いて…貴方の技巧には何一つ期待していない。私が技を放つ。体に負担はかかるけど…なぁに死にはしないわ。相手は一流の暗殺者ね。帝国の追手かしら…お伽噺の中の英雄に匹敵する技量を持っている見たい。」
「エクス…そんな奴に勝てるのか?俺はこんな所で死にたくない。頼むから何か和平案を見つけてくれ。」
また流星…いや光の矢が降りそそいでくるが…エクスは一刀の元に切り捨てた。
「忘れたの?貴方が持っている聖剣はただの名刀とは訳が違う…今まで…神話の時代から黄昏のこの時代まで闘い抜いた…生きる神剣なのよ。強さだけでもない…技術だけでもない。その両方を兼ね備えた…そう正に聖剣。その力を少しだけ見せましょう。」
唱えなさい…ホーミング…
俺は戸惑いながらもその名を唱える…
「ホーミングカリバーン!」
詠唱が終わる直前に時間が逆行しエクスカリバーが発射された。そして唱え終わったその瞬間…サンシャインランドマークタワーの映像が頭に流れ込んできた。
先程見れなかった男の顔がハッキリ見える。二十代後半の白髪の男だ。苦悶の表情を浮かべていたが…虚ろな表情になっていく。ああ…俺がこいつを殺したんだ。力が無くても、技が無くても殺す判断をしたのは…俺だ。
そして男だったものからエクスカリバーは独りでに抜けると俺の手元にぬうっと現れた。
「倒したんだな。エクス。」
「ええ…帝国の手先にしては妙だったわ。神の加護を受けているわね。帝国は無神論者のはずだけれど…それとも私の起動に際して危惧した第三者が追手を放ってきているのかも知れないわね。死体の所に行きましょう。シオン。」
「了解。帝国以外の第三の敵か。どれだけ聖剣ヘイト集めてんだよ。タンクじゃ無いんだから…シオンさんは生粋のスカベンジャーですよ。失業して冒険者になったけどさ。まあいい。サンシャインランドマークタワーに向かおう。」
俺達は町の雑踏を抜け、この時代には珍しい高層建築物のサンシャインランドマークタワーに入った。人でごった返している。
本当にこんな所に殺した敵が居るんだろうか?
えれべーたー?とかいうので上に上がれたらしいが今は使えないらしい。かいだん?を登るしか無さそうだ。
シンジュクスラムで瓦礫の山で過ごしてきたから見るもの全てが新しい。血塗られた冒険の旅じゃなければ楽しめるんだがな。
俺達は標的のいる十五階までかいだん?を上がっていった。結構疲れるな。十五階に辿り着くと強烈な忌避感が想起された。
「シオン。人避けの結界が張ってあるわね。等級は虹。普通の人が踏み居れば即座に卒倒するわ。貴方には聖剣の加護があるから大丈夫だけれど。相当用心深い奴だったみたいね。入るわよ。」
「分かった。この先で人が死んでいるのか。化けてでないでくれよ。」
「シオン。生きている人間が一番怖いのよ。死ねばそこで終わり。貴方はこれから先何人も何百人も殺す事になる。割りきりなさい。生きていく為に必要なのよ。」
「そうだな。殺らなきゃ殺られるんだ。さぁ行こう。エクス。」
フロアの展望台に向かう。そこには白髪の男の死体が横たわっていた。胸を貫かれて即死したようだ。
「所持品を漁ってみなさい。シオン。」
「了解。血塗れだな。どれどれ…ロザリオと虹色に輝く弓…後はバッチか。聖道教会…坊主なのか?」
「太古からある組織ね。異端者狩りのエキスパート…ブリテンでも太古からその暴力による信仰の支配は強烈だったわ。唯一の御霊以外の神を認めない圧倒的な暴力装置。エクスカリバーも異端の秘跡ということね。今後も追っ手がかかるでしょう。」
「ガルバニア帝国だけでも大変だって言うのにイカれた坊主にも追いかけ回されるのか。やれやれだぜ。エクス今後のプランは?」
「帝国、聖道教会共に駆逐しながら北上。ホッカイドウスラムからウラグスク連邦共和国に脱出。やることは変わらないわ。私がついている限り敗北は無い。さあサンシャインシティの宿に向かいましょう。ここに来るまでに町中に結界を張っておいたわ。敵が侵入すればすぐに分かるわ。」
「了解。聖剣を使用したからか体が痛い。今日はもう休むとしよう。その前に換金だな。」
「そうだったわね。信仰の対価として金貨を授けましょう。」
そうエクスが言うと手の中に金貨が涌き出てきた。ガラクタ漁りの時とは比べ物にならない位リッチな収入だ。危険を犯すだけはある。
その後俺達はサンシャインシティの豪華な宿屋に宿泊した。といってもそこ以外は野宿だったのだが…
旅は続く。
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