上 下
15 / 24

十五節 異星人

しおりを挟む
明くる日の朝、俺は目覚めた。三人娘達はまだ眠っている。腕を伸ばし大きく伸びをすると自然に欠伸がこぼれた。
宿屋では何もできないので一階の酒場に行ってみる。一人では酒場の親父と殆ど話した事なんか無かったなと思い返していた。
親父がにこにこしながら話し掛けてくる。
「おう!旦那じゃねぇか!まだ連れのお嬢さん達は寝ているのかい?」
俺も返す。
「そうですね。まだ眠ったまま起きてきません。疲労が溜まっているんでしょう。しばらくこのまま寝かせておくつもりですよ。」
「そうか…それじゃあ旦那に話しても決定権がないから仕方がないな。結構緊急の依頼があるんだがなぁ…」
「どんな依頼ですか。聞くだけ聞かせてください。」と俺は食いぎみに聞こうとした。
「サリマンド王国に通じる街道のセルミセ街道に奇妙な化物が出るらしい。全身ツルツルで尖った爪を持っていて、人間をも溶かしてしまう酸性の液体を口から出すそうだ。それに信じられないが卵で数が増えているとか…そいつらが増殖しながら旅人に襲いかかっているらしい。」
何処かで聞いた事があるな…というか映画?エイリアンかな?
「分かりました。俺の連れのエルフ達が起き次第討伐に当たらせてもらいましょう。」
「悪いな!旦那。お嬢さん達が目を覚ますまで待ってるぜ。」
「こちらこそお待たせして申し訳ない。よろしくお願いします。」
二階の宿屋に戻るとリュミエールが起きていた。親父から聞いた依頼について話してみる。
「…という依頼があるんだが、受けても良いか?」
リュミエールが答える。
「受けても良いけれど、とてつもなく胡散臭い妖魔に他ならないだろうね。準備をきっちりしないと痛い目に遭いそうだ。卵で増えるって言うのが一番心配かな。戦闘にキリが無くなってしまうだろう。」
「そうだな。俺の魔法でそんなことをする暇与えずに全部殺してしまおうかと考えているよ。」 
「得体の知れない敵にはタッツンの全力で最初から飛ばして倒してしまうのが良いかもしれないね。ボクはいいけれどソシエが不満を持つかもね。」
「彼女も大人だから大丈夫さ。」
残りの二人を見回してみる。そろそろ起きる頃合いだろう。
リュミエールはアヴァロンズゲートから銅鑼を取り出すと打ちならした。ジャーンと大きい音が辺りに響き渡る。ソシエとアイリスも目を覚ましたみたいだ。
アイリスだ。
「何かありましたか…大きい音が鳴っていたようですが?」
リュミエールが答える。
「皆が寝坊しているから起こそうとしただけだよ。他意は無い。」
ソシエだ。
「それであんなにうるさい音を鳴らしたのか…勘弁してほしいぜ。まったくリュミエールはしようがないな。」
リュミエールだ。
「まあいい…新しい仕事の依頼だ。対象は未知の生物…尖った爪に強烈な酸液を吐くらしい。それに卵で増殖するという噂もたっている。これを討伐する事が新たな依頼だ。」
ソシエだ。
「接近戦が危険そうな魔物だな。タッツンとリュミエール頼みになるかもしれないな。まあ私はいつも通り突っ込ませてもらうが。」
アイリスも口を挟む。
「傷つく可能性が高そうな依頼ですわね。私の本領発揮と行きましょう。」
全員がまとまったところでリュミエールから号令を出す。
「それでは龍撃団の諸君…未知の生物狩りと行こうか。場所は歩いて五時間程のセルミセ街道。さあ君達のドラゴンをも屠る力を魅せてくれ。」
全員が応と答えると謎の生物狩りが始まった。
俺達は宿屋と酒場を出るとセルミセ街道を目指して歩いていった。途中これといった妨害を受けることもなかった。周辺の景色は山と川が映るだけで代わりがない…本当にこんな場所にエイリアンが…と決めつけるのは早いが…出るのだろうか、至って普通の街道に見える…まだまだひたすらに歩いていく。
ソシエだ。
「こんなところに本当に未知の生物何てものがいるのか?モンスター一匹すらいないぜ。」
リュミエールだ。
「逆に言うと多少のモンスターが逃げ出すほど危険な生命体なんじゃないのか?サーチダウジングをしているけどまだそれらしいものはダウジングに引っ掛からないね。」
アイリスも口を挟む。
「本当を言うと何も出なければ良いって心の片隅で思ってしまっているわ。いけないわね私…」
俺からも口を挟む。
「そんな事は無いさ…アイリス。未知の敵を恐れるのは自然の防御本能だからね。大丈夫。俺の魔法はドラゴンでも倒せたんだ。イチコロとはいかなかったけれどね。きっと倒せるよ。」
アイリスだ。
「貴方がそう言うと安心できるわ。ありがとう。タッツン。」
と話ながら歩いているとリュミエールが神妙な表情になった。
「来たよ!皆!百m先に二~三mの敵生体およそ十体だ。」
十体…随分数が多いな。殺しきれるか…?そして見た目はどう見てもエイリアンだ。以後エイリアンと俺は呼ぼう。
まずはソシエが突っ込んで行く。イフリートの手足と自己暗示のサラマンダーの息吹を使い敵を打ちのめしに行く。エイリアンの一体が鋭い爪でソシエを切り裂こうとするが、乱打で打ち払うとエイリアンの頭を虎乱で叩き砕いた。残り九体…俺は見てしまった。奥の方にいるエイリアンが卵を産み卵が孵化した…エイリアンの幼体は急速に成長し、二~三メートルの成体に成長した。
リュミエールに話しかける。
「おい!おい!見たか!今の信じられないぜ!」
リュミエールは答える。
「魔法の詠唱準備中で良く見てなかったけれど一体増えているね。もしかして卵から還ったのかい?」
「その通りだ。一部始終を見てしまった。気持ち悪い。」
「早く倒すに限るね。ソシエ不味いんじゃないか?」
ソシエは複数体のエイリアンに囲まれて酸液を浴びせられていた。肉が溶ける痛みが全身を襲っているだろう。彼女はイフリートの手足で凪ぎはらって更に二体絶命させた。
アイリスの詠唱
「マスヒーリング」…ソシエの酸液による傷が蘇生していく。敵は残り八体だ。
リュミエールも魔法を唱える。
「ファイアブレイク連携ギガブレイクサンダー」
固まっていた敵に火の槍と雷の槌が直撃した。三体撃破。残り五体…ソシエと睨みあっていたエイリアンの内二体がこちらに駆け寄ってきた。まずいアイリスに向かっている。アイリスはエイリアンに肩を捕まれて酸性液をもろに浴びてしまった。状況把握魔法を使う…アイリスは即死。リュミエールに残りの一体が向かっていく。
リュミエールだ。
「アイリスは殺られたか!タッツン!蘇生魔法を。崩されるぞ。アヴァロンズゲート解放!断続発射!」
そう唱えるとリュミエールの回りに現れた紫色の空間から宝貝が断続的に発射され、こちらに向かっていたエイリアン一体とアイリスを掴んでいたエイリアンを串刺しにした。
リュミエールは更に唱える!
「全弾爆破!」
エイリアン二体は宝貝の爆発エネルギーに耐えられずに爆散した。俺は蘇生魔法を唱える。
「アイリス…リザレクション!ヒーリング!」
アイリスは即死から蘇生し酸液のダメージも抜けたようだ。
後の問題はソシエと睨みあっている三体だ。お互いの実力が同じために睨み合いになっている。決闘の邪魔をする趣味はないが…幻想顕現…ハンドドミネーター召喚!エイリアン三体に照射開始!衛生軌道砲からレーザー攻撃。直撃!延焼!エイリアンはレーザーに焼かれて死んだ。
ソシエが戻ってきた。
「助かったぜ!タッツン。あいつら強いから手の出し様が無かったんだ。ありがとうな!」
俺が答える。
「どういたしまして。こっちもいつも前衛助かってるよ。」
アイリスが話しかけてきた。
「私死んじゃってたのね。」
俺が答える。
「もう蘇生したから大丈夫さ。痛みとかは無いの?」
「痛みを感じる前に即死してしまったみたいね。気づいたら花畑にいたわ。常春の楽園…あれが妖精郷なのかしらね」
「見えちゃいけないところまで見えてる見たいだね。恐らくそこが目的地の妖精郷なんだろうね。生きたまま到着することが今の目標だけれど、死んでも到着できるのか。」
「フフッそのまま息を引き取ることもいいけれど貴方達が許してくれないわね。」
「もちろん。旅の終焉は四人同時に迎えないとね。フライングは駄目だよ。」
リュミエールは死体の念写をして回っている様だ。
「十一体もいると念写するだけでちょっとした手間だね。」
俺が答える。
「まあそれ以上にこのエイリアン共が増えなくて良かったよ。元は何体だったんだか…」
「謎は深まるがボク達は名探偵ではない。推測程度で済ませるとしよう。精々三体位だったんじゃないかな。」
「その心は?」
「うーん…勘だね。元々きっとそんなもんなんだろう」
彼女達と会話を交わしながらマイルティ王国の城下町へと帰っていった。酒場につく頃には深夜帯になっていた。
リュミエールが親父に話しかける。
「親父!謎の生命体の討伐依頼確かに完了したぞ!」
そういい放つと数枚の念写画像を親父に渡した。
「フーム…本当に見たことも聞いたことも無いような怪物だな…討伐おめでとう。これが今回の報酬だ。」
そう言うと親父はカウンターの奥から金貨の山を取り出し渡してきた。7000Gだ。
「ありがとう。親父確かに受け取ったぞ。また明日以降依頼を頼むとしよう」とリュミエール
俺達は深夜まで営業しているガッツ亭に久々に行くとガッツ定食を食べた。ソシエはガッツ亭の食事で満足したようだ。
「この調子で毎日ガッツ亭に行きたいものだな!」
俺だ。
「毎日はちょっと重すぎるかな。お小遣いも有るんだしそれで食べてきたら良いじゃないか。」
ソシエが答える。
「何か一人で入る気は進まないんだよな。これはどんだけお金があっても同じ事なんだけどな。」
リュミエールだ。
「ソシエは割りと乙女な所があるんだ。タッツン。次回からのエスコートを頼むよ。男だろ!」
俺だ。
「ウーン…分かったよ。俺で良ければ付き合うとしよう。お金に不安もないしな。」
現在俺のお小遣いは10000Gを超えている。よほどの事がない限りは破産しないだろう。ちなみにガッツ亭は一食10G程である。
そんな会話をしながら宿屋に上がっていき、部屋に辿り着いた。今日も色々あった気がする。正直疲れたのでもう寝かせてもらおう…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

転生したら魔王だった

零真央
ファンタジー
この物語の主人公 田中勇之助 19 純日本、現在の世界で死亡したため、異世界に飛ばされた一人。 魔王として、新米中の新米魔王。 基本 「めんどう毎に巻き込まれたけど、頼まれたらやる人なので、知らないうちに仲間が増える。本人は否定しているが ロリコンらしい(本人は子供が好きと言ってる。 後で編集予定。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...