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十節 竜人族
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俺達は今竜人族の聖地ランゴバルドの首長の間にいる。俺達を助けてくれた理由を聞きだす事とお礼を言う事が目的だ。
竜の顔をした人間、竜人族がズラリと謁見の間に並んでいる。
「貴方達が神託の巫女と黒の戦士様ですね。」
「ええ神託を受けた覚えはあります。あとこの人は確かに黒いですね。」
「黒い戦士かどうかは分からないが神託を受けた巫女エリーに付き添っているのは事実だ。」
「我々の聖者が神様から貴方達を助けるように神託を頂きこちらまで保護させていただいたのです。」
「そういう事だったのか。ありがとう。」
「その神様の名前はネームレス様ですか。」
「いや夢枕では特に名乗られなかったようですな。」
「そっか、まあネームレス様以外にも私達をウォッチングしている神様がいるのかもね。」
「そうだな。首長、こちらで依頼があれば俺達で引き受けさせてもらう。変な麻婆豆腐店で前払いをしたせいで路銀が少し心配でな。」
「そうですか。今日の所はお休みください。また改めてご依頼させていただきましょう。」
「あの麻婆豆腐店ってそんなにぼったくりだったの?」
「良く見てなかったがそもそも一人前の値段がぼったくりでな。何とかなるだろ!」
「テキトーね。宿はどうするの?」
「宿なら我々の屋敷の一室をお使い下され。依頼の関係上でもその方がよろしいでしょう。」
「ありがとう。それでは今日はこれぐらいで暇をもらおう。」
「それじゃあね。叔父様。」
俺達は案内された一室で食事を取り、睡眠する事にした。麻婆豆腐店のおかげでまた仕事に追われる日々になりそうだ。
・九頭龍討伐
最近ランゴバルドから西の海上にタコの化け物が出るという話だ。おれはヴァンパイアに乗って討伐に出る事にした。一機しか出せないという事なので、エリーはお留守番。
ブーブー言っていたものの仕事なのだから仕方がない。
索敵モードを維持したままヴァンパイアは進んでいく。
海は荒れているものの世は事も無しだ。
漁船が沖合で漁をしていた。最初は見過ごしたものの漁船の下に巨大なタコが隠れており、漁船を絡めとろうとしている。
俺はヴァンパイアの思念操縦で漁船の周りをぐるりと回り、ミサイルで牽制射撃を行った。
飛び出てくるタコの化け物、旧支配者と呼ばれる海に潜む邪神の一角、クトゥルフと謎の霊感が頭を駆け巡った。恐らくネームレス様からの霊信だろう。
それでもかまわない。やる事は一つ。サーチアンドデストロイだ。
漁船に当たらないように機銃掃射を続ける、ビクビクと震える化け物。
バトロイドモードに変形!ジャッカルを撃ち続ける。
しかしその触手にからめとられてしまいヴァンパイアは航行不能に陥ってしまった。
操縦席から投げ出されてしまう俺。漁船の上に着地する。
漁師は心筋梗塞を起こして既に死んでいた。怪物を見たショック死か。
ストームブリンガーを抜刀すると絡みよる触手を両断しながら進んでいく。
触手の大元黄色い目玉があるタコから大量の触手が生えている。触手の攻撃を斬り払いしながら黄色い目玉を突き刺した。
木霊する化物の絶叫!海の中に逃げていく。ナイトイーターを構えて追撃を発射するも水中なので分が悪い。そのまま俺は待機していた。
化物が現れたその瞬間に全てをぶち込んでやる。そうすれば終わるのだ。
…何時間たっただろうか?三十分の気もするし五時間は経った気もする。
海面に化物が浮かんできた。目玉はつぶれている。大きく口を開けて漁船を飲み込んでしまう気だ!
俺はあえて口の中に飛び込むとストームブリンガーで中をめった刺しにした上に、真言詠唱で焼払った。
無銘の真言詠唱!第四の魔を捧ぐ!今こそ地上に御身の威光を示す時が来た!焼払い供物とせん!アグニ!
火の槍に貫かれる化物。悲鳴を上げると化物は激しく痙攣しそして動かなくなってしまった。
ヴァンパイアに絡みついていた触手も無くなり、空中にきちんと復帰しているようだった。
プリプリと怒った戦闘神霊ヴァンパイアが語り掛けてくる。
「無銘!ひやひやさせないでよ!これでクトゥルフの化物は死んだ?」
「ああ。ヴァンパイア、皆の所に帰ろう。」
俺は磯臭いままランゴバルドの首長の屋敷に帰った。
エリーからのクレームが凄かったのは言うまでもない。
「なんでそんなに臭いのよ。無銘。」
「タコと闘っていたら臭くなった。」
「相当苦戦したってヴァンパイア怒っていたわよ。」
「とんでもないタコでな。体内まで切りつけに行くしかなかったんだ。」
「それってどんなタコなのよ。」
「黒歴史ではクトゥルフと呼ばれていたタコらしい。」
「昔の人は一々タコに名前を付けていたのね。」
「普通じゃないタコだからな。」
「どうやって倒したの?」
「タコを最初はミサイルランチャーや機銃で撃って、死なないから口の中からストームブリンガーでめちゃくちゃに切り裂いて、真言詠唱したらようやくくたばったよ。」
「無銘。ごめんなさい…」
「なんだエリー畏まって。」
「今日おんなじ部屋で寝ないでもらえるかしら。匂いが移るわ。」
「ちゃんと風呂に入ってくるさ。大丈夫。」
「大丈夫じゃない!早く風呂に行ってこい!」
そのあと俺は湯浴みをしたが、まだエリーのじっとり目線が激しかった。海産物が嫌いなんだろうか。
俺は何とか説得してエリーと同じ部屋で寝る事に成功した。
そもそもここで頑張らないと俺だけ竜人族の住処で野宿になる。
それだけは避けたい。あんまり世の中の事を気にしないといっても流石にアウェイすぎるだろう。
翌朝まだエリーは俺の匂いに疑っているらしくベッドから飛び起きると部屋の隅に退避行動を取った。
そこまでされると心外だ。ちゃんと風呂に入っているんだぞ!自分自身で大きく息を吸い込んでみる…あれ少し生臭いな、と溢す。
エリーはもう駄目なようで部屋の外に出て行ってしまった。
やれやれ次の仕事に取り掛かるとしよう。
エリー…流石に仕事とはいえ生臭い匂いを纏ったままレディと同じ部屋で一緒に寝るのはどうかと思うわ。嗅覚遮断スキルがあるけれど、それでも一日中発動させておけるわけではないもの。困ったものね。今度タコやイカと闘う時は私も同席して闘わないと駄目ね。また臭い匂いに塗れてしまうもの。
・ファブニール討伐
その後首長から呼ばれたので、謁見の間に今来ている。
「こちらでお願いしたい仕事で大仕事があります。それが邪竜ファブニールの討伐です。」
「龍か?」
「はい。我々竜人族ですら統御できない邪竜がクノート山の山頂に居座ってしまっているのです。」
「叔父様。竜人族なのに龍に言う事を聞かせられないの。」
「だからこその邪竜なのですよ。言う事を聞かず、超敵対的な生命体。私達の若者が何度か討伐に行ったものの全員死んでしまいました。客人の貴方達に頼むは筋違いかもしれませんが、このまま放っておくとこのランゴバルド全体に被害が及ぶのです。」
無銘は考え込みながら重い口を開いた。
「首長、条件が一つある。死にそうになったら俺は投げ出して帰ってくるぞ。エリーを連れているんだ。無理が出来なくて済まない。」
「そうね。私もその条件なら受けていいと思います。何たってドラゴンですもの。真正面から打ち合ったら命がいくらあっても足りないわ。」
「それは仰る通りです。まずは足を運んで闘ってみてください。それだけが私の望みです。」
俺達はその後、ヴァンパイアとゴーストにクノート山の入り口まで運んでもらった。
クノート山は活火山らしく山頂にはマグマがあるという事だ。
細心の注意をもって当たりたい任務。歩いているとゴブリンやオークなどの敵対的な部族にも遭遇した。騎兵銃の速射で片付けていく。
エリーも攻撃魔術を使い、特段問題にならない露払いをしていった。
現在六合目と言ったとこだ。目の前には翼竜がいる。ファブニールではないもののドラゴン族という時点で強力だろう。
エリーが伏せながら話しかけてくる。
「あれもドラゴンかしら?」
「ああ。立派なドラゴンだ。ワイバーンという種族になるだろう。」
「気づかれずに通り過ぎる方法はないの?」
「無理だろうな。探知能力はこちらより数段上のはず。仮にもドラゴンだ。人間の及ばざる全知全能の幻想種と言われている。」
「色々盛り過ぎかと思ったけど、何かあり得そうよね。あの王者然とした立ち振る舞いとか。」
「だろう。ドラゴンを侮る事は死に値する。」
「昔から相場は決まっている…でしょう。」
「俺の言いたい事が分かって来たじゃあないか。エリー。流石だ。」
「ありがとう。これでも貴方とのパートナー歴長いもの。」
「よしじゃあそのまま静かにしていてくれ。あのドラゴンを狙撃する。」
翼竜は現在羽を休めている。頭部が見え隠れする。ナイトイーターを取り出した。頭部に時間偏差を含めた微調整をしてロックオン!ナイトイーター孔天開始!発射!
しまった!羽に当たってしまった。即死ではないが飛ぶのに支障が出ているようだ。
此方に向かってフラフラ飛びながら火球を吐いてくる!エリーに目配せする。
「任せて!」
エリーの詠唱!汝護り給え!七天の楯よ!顕現せよ!天理アイアスの楯!
体を焼くような熱さを感じるもののアイアスのおかげで致命傷は避けられた。
ばれたら総力戦だ。俺は真言詠唱の準備に入った。
無銘の真言詠唱!第一の神!オーディンよ。そなたの力の証を借り受ける。誅滅せよ!神罰グングニル!
神槍が翼竜を貫く。絶命までは至ってない。また火球を此方に吹いてきた。アイアスの加護も長くは持たない。
「エリーも強烈な呪詛を頼む!」
「了解したわ。」
エリーゼ・ハーン流活殺呪詛!終焉の扉開きし者よ。貴様の獲物だ。ギガンティックフレア!爆縮!究極霊爆!
雷のドームに押しつぶされて翼竜は絶命した。
ふぅと一息つく。オドがまだ落ち着かない。一撃はなっただけで激痛や幻影に襲われるような事はなくなったものの、未だに自分の呪詛の過大さに体が落ち着いていないのだ。
その点エリーはどんどんオドが拡張されており、強烈な呪詛を我が手足の様に使い倒している。
羨ましい限りだし、怖くもある。エリーがどこか自分の手に届かない場所に行ってしまうようだ。強さの次元が人間と違って無限大なのだろうか。
ふとそう思うが、彼女は俺になついている。プリマスまでの旅路くらいは付き合ってくれるだろう。
エリーが顔を覗き込み髪をかき上げて話しかけてくる。
「どうしたの無銘?考えこんじゃってさ。」
「いや何でもない。真言詠唱の度に体にガタが来るから年かなと思ったのさ。」
「元々そういう風にいじくられて生まれたんだから仕方ないじゃない。十分あなたの呪詛は強烈よ。でも魔術以外を主体で闘うしかないのかもしれないわね。」
「そうだな。そうしないと身動きすら危うくなってしまうよ。」
「本当にお年を召したおじい様みたいね。私なんかより全然若いのに。」
「本当だったらナンバーズは二十歳をまたぐ前にほとんど死んでしまうからな。そういう意味では俺もとっくにお爺さんだよ。」
「大丈夫。まだ全然若作りで行けるわよ。」
「別に若作りするつもりはない。年相応にみられる事にも利点があるんだ。」
「それは分かるわね。私なんてどこに行っても御嬢様扱いだもの。あれ結構嫌なの。」
「そうだったのか、何も言わないで皆の事を叔父様って呼んでいるからあんまり気にして無いのかと思っていたぞ。」
「それは私なりの気づかいね。流石に場を乱すような発言はしないわ。皆見た目だけは本当に叔父様な訳だしね。」
「中身は皆少年のままさ。」
「ええ?あんなナイスなマスターも?」
「もちろん。彼にも人には言えない秘密の乙女趣味があるかもしれないぞ。」
「うわっ絶対知りたくないわね。」
「ミニチュア着せ替え人形ハウスとかを持っているかもな。」
「妙にリアリティがあっていやね。」
「御嬢様。お茶をお持ちしましたってやっていそうじゃないか。」
「激しくリュミエールに戻って確認したくなってきたわ。」
「全部終わったら一度またリュミエールに行ってみるか。」
「美術館とかも行ってみたいわね。」
「入場料が高そうで困る。」
「金貨一枚で済むかしら。」
「現実的なところ五枚じゃないか、あのあたりは貴族の住処だしな。値段もそれ相応だと思うな。」
「そうねえ。大分ドラゴン退治から話がそれたわ。」
「何だったか。」
「この目の前のドラゴンがファブニールじゃないかって話。」
「間違いなさそうだな。黒い肌に赤い目をしたドラゴン。」
話ながら歩いていたらいつのまにかクノート山の山頂に辿り着いている…目の前の邪竜から神声が解き放たれた。鼓膜が破れそうになる。
「ウグルルルルルルウルルルルウルルルル!人間!我が住処を犯した上に能書きを垂れるなど貴様ら!ふざけるな!蛆虫めが!喰らいつくしてくれるわ!我が名はファブニール!クノートの龍を統べる長なり!掛かってくるが良いわ。」
ファブニールはドラゴンブレスを放ってきた。咄嗟にエリーを護る。俺は黒焦げになって死にかけてしまった。早速役立たずか、た…立て直さないとな。
エリー…無銘に火炎弾が着弾した。丸焦げになる無銘。嫌な肉が焼ける匂いが辺りに立ち込めていた。私に出来る事は回復だけよ。出来る事をやるしかないわ。
「無銘!貴方こんなに焦げて死んじゃう!死んじゃう!」
エリーの詠唱!偉大なる癒しの加護を与え給え!主神イグドラシルよ!ヒーリング!
エリーは焦りながらも回復法術を使ってくれた。何とか俺は立ち上がる。
「エリー!元々勝てないような相手だ!呪詛をねじ込みまくれ!」
山頂に現在いるだけあり、周りはマグマが噴き出している。狭い平地での戦いだ。逃げ道があるようにも思えない。ドラゴンにも、俺達にもだ。打ち克ち進むしかない。
「了解!このトカゲ野郎!よくも無銘を傷つけたな!私の無銘を傷つける奴はこの世に居ちゃいけないんだ。くたばれ!真言詠唱連射で行くわよ!」
エリーの奥義が連射される。
エリーの詠唱!大いなる主神イグドラシルの巫女を穢すものよ!滅びるがいい!ミストルティンバースト!
エリーの詠唱!偉大なるオーディンよ!そなたの巫女を穢す究極の害悪現れたり。グングニルを借り受ける!未来永劫の時の狭間まで消え果よ!ヘルレイズスパーク!
エリーゼ・ハーン流活殺呪詛!終焉の扉開きし者よ。貴様の獲物だ。ギガンティックフレア!爆縮!究極霊爆!
ヤドリギがファブニールの顔面に張り付き、グングニルがその胸を穿ったうえで、雷撃の爆縮がファブニールを握る様に叩き潰した。
だが、未だファブニールは健在だ。
「虫けら!貴様らの技で俺を殺せると思ったか!愚かなり!人の子よ。何人の竜人族が死んだと思っているのだ。貴様らの屍もクノートに消えうせるのだ。メテオストーム!」
隕石の雨霰が降ってきた。エリーの手を引っ張り退避に専念する。
流石邪竜だ。タフネス。テクニック。パワー。全てが兼ね備えられている敵。
俺は攻撃の手を緩めない為にナイトイーターを構えた。
ファブニールのファイアブレス!ブレスの時を狙ってナイトイーター孔天開始!発射!
ファブニールの喉奥を弾丸が切り裂く!
「ぎゃあああああああああああああああきさまらああああああああああああああああ!」
苦しみ悶えるファブニール。
「エリー!ミストルティンバーストで動きを拘束しろ!連続詠唱!」
「了解!全体拘束開始!大いなる主神イグドラシルの巫女を穢すものよ!滅びるがいい!マルチミストルティンバースト!」
ヤドリギは大樹となり、ファブニールを何重にも拘束した。
流石にエリーのオドも限界に達したらしく疲労困憊の様だ。
俺は亜空跳躍をする準備をした。対象ファブニール背中。
亜空跳躍開始!ファブニールの背に飛び乗った。大樹で拘束されており、ファブニールは身動きをする事ができない。
ストームブリンガーを抜刀!その鋭利な霊刃でファブニールの首を撥ね飛ばした。
力なく地面に倒れるファブニール。その死体からは燃えるような鮮血が噴き出していた。周囲の温度が上昇する!ブクブクと煮え立つような血液。熱い熱すぎる。まるでマグマの中にいるようだ。長居は出来まい。
地面で息を切らしているエリーに話しかける。
「エリー!逃げるぞ。このままここにいると死ぬ。」
「分かったわ。腰が抜けちゃって。」
「おぶってやる行くぞ。」
エリーをおぶると俺はクノート山を下山し始めた。
会話をしながら降りる。
「凄く強いドラゴンだったわね。」
「しかも人間の言葉を喋るしな。驚愕した上に死にかけた。」
「今後私達何と闘うのかしらね。」
「神様や悪魔、黒歴史のアーマーにドラゴンか…俺達は今この世界で最強に挑むキャンペーンでもしている気分だな。」
「本当にそうよ。激しい戦いをしているわけじゃないけど何だか不安になっていくわ。」
「俺はエリーが俺なんかよりよっぽど強くなっているから安心できるよ。」
「そ、そうかしら。どう見ても貴方の方が強いけど。」
「魔術のセンスとオドの容量は確実に負けているからな。」
「そう?ナイトイーターとストームブリンガーを振り回せる時点で貴方の方が上だと思うな。」
「それよりも応用力のある魔術の方が羨ましいね。新しい魔術をその場で組んでしまうだろう。」
「あれは本当に偶然よ。私の内なる神殿から声が聞こえてくるの。きっとイグドラシル様のお導きだわ。」
「そうか、俺もネームレス様には助けてもらっているしな。毎日お祈りをかかさないでおこう。」
「私も世界の生末を見せて貰ったり、アイアスの楯を頂いたもの。死んで天界に行くとしたらキチンとお礼が言いたいわね。」
「そうだな。にしても俺は天界に行けるのかな?プリマスはどうも人間とエルフのハーフが行っても弾かれてしまう気がしてならない。」
「エルフ族は皆死後天界に行ける事を信じてるのだけどね。」
「俺達は闘う事だけだったから分からないな。」
「もし行けなかったら、私が導きの女神になってあげましょう。」
「そりゃ有難いね。まあいつまで生きていられるかも謎めいているが。遂に不死刻印も使い切ってしまった。」
「これから先は本当に慎重な戦い方が求められているわ。無銘。」
「承知している。君を護るためにもまだ死ねないよ。」
「私も貴方を護るために全力を尽くす。それぐらいしか出来なさそうだもの。」
「最初は俺が護っていたのだがな。」
「成長してそういう役割は入れ替わるものよ。これからはエリーお姉さんに頼りなさい。」
「そうさせてもらおうか。」
「あら、随分素直ね。」
「なんだか悪い気はしないそれだけさ。」
「アッいけないわ!どうしよう?」
「どうしたんだ?いきなりわめきだして。」
「ドラゴンの尻尾のお肉を取ってくるのを忘れたわ。」
「君って奴はドラゴンを食べるつもりだったのか?もう山も半分以上降りたんだし、あきらめた方がいいと思うぞ。」
「どうして?貴方は気にならないのドラゴンのお肉が?」
「いや気にはなるけど、そんなに無理をして食べたいとは思わないよ。それにマグマのような焼ける血が飛び散っていたんだ。とてもドラゴンの肉を回収できる環境じゃない。」
「折角のドラゴンのお肉がどうしましょう。」
「首長に頼めばいいんじゃないか?おかしい人扱いされると思うが…」
「竜人族の人に龍のお肉を食べさせてくださいっていうのは流石にナンセンスよ。」
「あっそういう感覚はあるんだな?」
この娘は素っ頓狂だ。今は戦闘狂なのに、前からの食いしん坊の癖が抜けきっていない。戦場の兵士でここまで食事に拘る奴は初めて見た。やはり種族エルフでは無くて種族エリーなのだろう。
あまりにも想像上のエルフとかけ離れすぎていて与える印象がまるで違ってしまっている。
何度も思い返されるほどこの娘の食欲は異常だ。びっくりさせられ続けている。
エリーはがっかりした様子で肩を落として話を続ける。
「まあもういいわ。竜人族の人達はいっぱい食べるみたいだから話も合うしね。」
「あんなにたくさんの食事を毎食出して来るとは思わなかったぞ。」
「朝からクロゲワギューステーキはびっくりしたわね。」
「しかも客人用だからとかじゃなくて皆一律でクロゲワギューステーキだからな。」
「流石の私も太るかどうかを気にするわ。」
「驚いたな。君が太る事を気にするなんて。」
「そのぐらい流石に量が多いのよ。減らしてもらおうかしら。」
開いた口が塞がらない。そのぐらい驚いた…他の人から見ると山道でいきなり呆けた人のように見えるかもしれないが俺を穿った衝撃はすごかった。
エリーが食事を減らしたいというなんて…
そんな日が来るとは思ってなかった。町から町の移動中ですら潤沢な食料が無いとブーブー文句を言っていた腹ペコ娘がなあ…
「何よ。急に固まって…そんなに驚いた?」
「一度君を知っている人がいたら話したいね。全員飛びあがって驚くはずさ。」
「く…なんか心外ねえ。」
「普段から食事への執着を減らす事だな。そうすれば自然と誰にも驚かれなくなるぞ。」
「それは分かっているんだけど、やはりお腹が空くんですもの。仕方がないわ。百六十年目の成長期よ。」
久しぶりに随分話し込んだ気がする。俺達はクノート山の麓で待機していた。ヴァンパイアとゴーストに乗り込むとランゴバルドの首長の屋敷まで帰っていった。
屋敷の首長の部屋まで行き首長に話しかけた。
「首長、邪竜ファブニールは無事討伐した。このストームブリンガーの血錆を証としよう。」
首長はとても驚いた様子で返答した。まさかファブニールを倒して帰って来たとは思わなかったのだろう。
「貴方達は真の勇者だ。あの邪竜ファブニールを葬り去るとは信じられない。何人もの竜人族の若者が暴れまわるファブニールを討つ為に犠牲になりました。この御恩にどう報いていいかわかりません。とても金銭だけの問題ではございません。今生私が生きている限りは何があっても竜人族は味方をすると誓いましょう。」
「そこまで言っていただきありがとう。首長にお願いがあるのだが、シャウヤーン連合地域のドワーフ族の領地を通り、プリマスに向かう道を示してくれ。」
「それは中々難しい問題ですね。ドワーフ族の領地まではお連れできますがそれ以降は彼らの流儀になります。彼らに真の勇者と認めさせるしかないでしょう。」
少し無銘は考え込んだが話を続けた。
「分かった。それでは領地の通行の許可を。」
「本当は簡単によそ者に通行の許可は出さないのですが、貴方は神託で導かれたうえにファブニールを討った勇者だ。許可を出さないわけにはいかないでしょう。ヴァンパイアとゴーストに案内をさせましょう。」
「ありがとう。今日本日を持って終生の別れとなるでしょうが、貴方達にレーヴェで助けていただいた事、この地ランゴバルドでの世話を見て頂いた事を忘れない。誓おう。」
「叔父様。私からもお礼を言いますわ。短い期間でしたが竜人族の皆様には良くして頂きました。ありがとうございます。お別れは名残惜しいけど…また天界でお会いしましょう。」
俺達は首長に別れを告げると、ヴァンパイアとゴーストに乗り、ドワーフたちの住まう境界線の集落、シャウヤーン連合地域、ドワルヘルムへと向かった。
戦闘神霊ヴァンパイアが口を開く。
「あんた達ともお別れね。短い付き合いだったけれど寂しいわ。」
「俺もこんな面白い戦闘神霊と別れるのは嫌さ。」
「面白いは誉め言葉じゃないわ。レディを褒める時は違うでしょう?」
「こんなに美しく可憐な戦闘神霊を失うとは名残惜しい。これでいいかな?」
「なんか納得いかないけど良いでしょう。」
「君ともっと風を感じていたかったよ。」
「もっと依頼があればよかったわね。」
「そうだな。別れるには本当に惜しい。」
「…照れるわね…」
「結構うぶなんだな。」
「バージンのヴァンパイアですもの。」
「そんな事を簡単に教えていいのか?」
「駄目に決まっているじゃない。」
「さあそろそろかな…」
「そうね到着したわ。野蛮なドワーフ族の領土、ドワルヘルムよ。ふざけた事で死なないでね。」
「承知した。じゃあな!お空の御嬢様!」
ヴァンパイアは名残惜しそうに自動操縦で飛び立った。ゴーストも行ってしまったらしい。
エリー…ランゴバルドにはあっという間の滞在だったわ。ドラゴンの尻尾ステーキが食べられなかったことは残念だったけれど仕方がないわね。また別の機会があればその時に食べるとしましょう。タコやドラゴンと闘ったのは今までの中でもかなりレアな経験だったと思うわ。まあタコは無銘が一人で片付けてしまったけれどね。ドワーフ族の領地では何が待ち構えているのかしらとても気になるけれど悪いようにはならないような気がするわ。ここまでも乗り切ってきたんですもの。
竜の顔をした人間、竜人族がズラリと謁見の間に並んでいる。
「貴方達が神託の巫女と黒の戦士様ですね。」
「ええ神託を受けた覚えはあります。あとこの人は確かに黒いですね。」
「黒い戦士かどうかは分からないが神託を受けた巫女エリーに付き添っているのは事実だ。」
「我々の聖者が神様から貴方達を助けるように神託を頂きこちらまで保護させていただいたのです。」
「そういう事だったのか。ありがとう。」
「その神様の名前はネームレス様ですか。」
「いや夢枕では特に名乗られなかったようですな。」
「そっか、まあネームレス様以外にも私達をウォッチングしている神様がいるのかもね。」
「そうだな。首長、こちらで依頼があれば俺達で引き受けさせてもらう。変な麻婆豆腐店で前払いをしたせいで路銀が少し心配でな。」
「そうですか。今日の所はお休みください。また改めてご依頼させていただきましょう。」
「あの麻婆豆腐店ってそんなにぼったくりだったの?」
「良く見てなかったがそもそも一人前の値段がぼったくりでな。何とかなるだろ!」
「テキトーね。宿はどうするの?」
「宿なら我々の屋敷の一室をお使い下され。依頼の関係上でもその方がよろしいでしょう。」
「ありがとう。それでは今日はこれぐらいで暇をもらおう。」
「それじゃあね。叔父様。」
俺達は案内された一室で食事を取り、睡眠する事にした。麻婆豆腐店のおかげでまた仕事に追われる日々になりそうだ。
・九頭龍討伐
最近ランゴバルドから西の海上にタコの化け物が出るという話だ。おれはヴァンパイアに乗って討伐に出る事にした。一機しか出せないという事なので、エリーはお留守番。
ブーブー言っていたものの仕事なのだから仕方がない。
索敵モードを維持したままヴァンパイアは進んでいく。
海は荒れているものの世は事も無しだ。
漁船が沖合で漁をしていた。最初は見過ごしたものの漁船の下に巨大なタコが隠れており、漁船を絡めとろうとしている。
俺はヴァンパイアの思念操縦で漁船の周りをぐるりと回り、ミサイルで牽制射撃を行った。
飛び出てくるタコの化け物、旧支配者と呼ばれる海に潜む邪神の一角、クトゥルフと謎の霊感が頭を駆け巡った。恐らくネームレス様からの霊信だろう。
それでもかまわない。やる事は一つ。サーチアンドデストロイだ。
漁船に当たらないように機銃掃射を続ける、ビクビクと震える化け物。
バトロイドモードに変形!ジャッカルを撃ち続ける。
しかしその触手にからめとられてしまいヴァンパイアは航行不能に陥ってしまった。
操縦席から投げ出されてしまう俺。漁船の上に着地する。
漁師は心筋梗塞を起こして既に死んでいた。怪物を見たショック死か。
ストームブリンガーを抜刀すると絡みよる触手を両断しながら進んでいく。
触手の大元黄色い目玉があるタコから大量の触手が生えている。触手の攻撃を斬り払いしながら黄色い目玉を突き刺した。
木霊する化物の絶叫!海の中に逃げていく。ナイトイーターを構えて追撃を発射するも水中なので分が悪い。そのまま俺は待機していた。
化物が現れたその瞬間に全てをぶち込んでやる。そうすれば終わるのだ。
…何時間たっただろうか?三十分の気もするし五時間は経った気もする。
海面に化物が浮かんできた。目玉はつぶれている。大きく口を開けて漁船を飲み込んでしまう気だ!
俺はあえて口の中に飛び込むとストームブリンガーで中をめった刺しにした上に、真言詠唱で焼払った。
無銘の真言詠唱!第四の魔を捧ぐ!今こそ地上に御身の威光を示す時が来た!焼払い供物とせん!アグニ!
火の槍に貫かれる化物。悲鳴を上げると化物は激しく痙攣しそして動かなくなってしまった。
ヴァンパイアに絡みついていた触手も無くなり、空中にきちんと復帰しているようだった。
プリプリと怒った戦闘神霊ヴァンパイアが語り掛けてくる。
「無銘!ひやひやさせないでよ!これでクトゥルフの化物は死んだ?」
「ああ。ヴァンパイア、皆の所に帰ろう。」
俺は磯臭いままランゴバルドの首長の屋敷に帰った。
エリーからのクレームが凄かったのは言うまでもない。
「なんでそんなに臭いのよ。無銘。」
「タコと闘っていたら臭くなった。」
「相当苦戦したってヴァンパイア怒っていたわよ。」
「とんでもないタコでな。体内まで切りつけに行くしかなかったんだ。」
「それってどんなタコなのよ。」
「黒歴史ではクトゥルフと呼ばれていたタコらしい。」
「昔の人は一々タコに名前を付けていたのね。」
「普通じゃないタコだからな。」
「どうやって倒したの?」
「タコを最初はミサイルランチャーや機銃で撃って、死なないから口の中からストームブリンガーでめちゃくちゃに切り裂いて、真言詠唱したらようやくくたばったよ。」
「無銘。ごめんなさい…」
「なんだエリー畏まって。」
「今日おんなじ部屋で寝ないでもらえるかしら。匂いが移るわ。」
「ちゃんと風呂に入ってくるさ。大丈夫。」
「大丈夫じゃない!早く風呂に行ってこい!」
そのあと俺は湯浴みをしたが、まだエリーのじっとり目線が激しかった。海産物が嫌いなんだろうか。
俺は何とか説得してエリーと同じ部屋で寝る事に成功した。
そもそもここで頑張らないと俺だけ竜人族の住処で野宿になる。
それだけは避けたい。あんまり世の中の事を気にしないといっても流石にアウェイすぎるだろう。
翌朝まだエリーは俺の匂いに疑っているらしくベッドから飛び起きると部屋の隅に退避行動を取った。
そこまでされると心外だ。ちゃんと風呂に入っているんだぞ!自分自身で大きく息を吸い込んでみる…あれ少し生臭いな、と溢す。
エリーはもう駄目なようで部屋の外に出て行ってしまった。
やれやれ次の仕事に取り掛かるとしよう。
エリー…流石に仕事とはいえ生臭い匂いを纏ったままレディと同じ部屋で一緒に寝るのはどうかと思うわ。嗅覚遮断スキルがあるけれど、それでも一日中発動させておけるわけではないもの。困ったものね。今度タコやイカと闘う時は私も同席して闘わないと駄目ね。また臭い匂いに塗れてしまうもの。
・ファブニール討伐
その後首長から呼ばれたので、謁見の間に今来ている。
「こちらでお願いしたい仕事で大仕事があります。それが邪竜ファブニールの討伐です。」
「龍か?」
「はい。我々竜人族ですら統御できない邪竜がクノート山の山頂に居座ってしまっているのです。」
「叔父様。竜人族なのに龍に言う事を聞かせられないの。」
「だからこその邪竜なのですよ。言う事を聞かず、超敵対的な生命体。私達の若者が何度か討伐に行ったものの全員死んでしまいました。客人の貴方達に頼むは筋違いかもしれませんが、このまま放っておくとこのランゴバルド全体に被害が及ぶのです。」
無銘は考え込みながら重い口を開いた。
「首長、条件が一つある。死にそうになったら俺は投げ出して帰ってくるぞ。エリーを連れているんだ。無理が出来なくて済まない。」
「そうね。私もその条件なら受けていいと思います。何たってドラゴンですもの。真正面から打ち合ったら命がいくらあっても足りないわ。」
「それは仰る通りです。まずは足を運んで闘ってみてください。それだけが私の望みです。」
俺達はその後、ヴァンパイアとゴーストにクノート山の入り口まで運んでもらった。
クノート山は活火山らしく山頂にはマグマがあるという事だ。
細心の注意をもって当たりたい任務。歩いているとゴブリンやオークなどの敵対的な部族にも遭遇した。騎兵銃の速射で片付けていく。
エリーも攻撃魔術を使い、特段問題にならない露払いをしていった。
現在六合目と言ったとこだ。目の前には翼竜がいる。ファブニールではないもののドラゴン族という時点で強力だろう。
エリーが伏せながら話しかけてくる。
「あれもドラゴンかしら?」
「ああ。立派なドラゴンだ。ワイバーンという種族になるだろう。」
「気づかれずに通り過ぎる方法はないの?」
「無理だろうな。探知能力はこちらより数段上のはず。仮にもドラゴンだ。人間の及ばざる全知全能の幻想種と言われている。」
「色々盛り過ぎかと思ったけど、何かあり得そうよね。あの王者然とした立ち振る舞いとか。」
「だろう。ドラゴンを侮る事は死に値する。」
「昔から相場は決まっている…でしょう。」
「俺の言いたい事が分かって来たじゃあないか。エリー。流石だ。」
「ありがとう。これでも貴方とのパートナー歴長いもの。」
「よしじゃあそのまま静かにしていてくれ。あのドラゴンを狙撃する。」
翼竜は現在羽を休めている。頭部が見え隠れする。ナイトイーターを取り出した。頭部に時間偏差を含めた微調整をしてロックオン!ナイトイーター孔天開始!発射!
しまった!羽に当たってしまった。即死ではないが飛ぶのに支障が出ているようだ。
此方に向かってフラフラ飛びながら火球を吐いてくる!エリーに目配せする。
「任せて!」
エリーの詠唱!汝護り給え!七天の楯よ!顕現せよ!天理アイアスの楯!
体を焼くような熱さを感じるもののアイアスのおかげで致命傷は避けられた。
ばれたら総力戦だ。俺は真言詠唱の準備に入った。
無銘の真言詠唱!第一の神!オーディンよ。そなたの力の証を借り受ける。誅滅せよ!神罰グングニル!
神槍が翼竜を貫く。絶命までは至ってない。また火球を此方に吹いてきた。アイアスの加護も長くは持たない。
「エリーも強烈な呪詛を頼む!」
「了解したわ。」
エリーゼ・ハーン流活殺呪詛!終焉の扉開きし者よ。貴様の獲物だ。ギガンティックフレア!爆縮!究極霊爆!
雷のドームに押しつぶされて翼竜は絶命した。
ふぅと一息つく。オドがまだ落ち着かない。一撃はなっただけで激痛や幻影に襲われるような事はなくなったものの、未だに自分の呪詛の過大さに体が落ち着いていないのだ。
その点エリーはどんどんオドが拡張されており、強烈な呪詛を我が手足の様に使い倒している。
羨ましい限りだし、怖くもある。エリーがどこか自分の手に届かない場所に行ってしまうようだ。強さの次元が人間と違って無限大なのだろうか。
ふとそう思うが、彼女は俺になついている。プリマスまでの旅路くらいは付き合ってくれるだろう。
エリーが顔を覗き込み髪をかき上げて話しかけてくる。
「どうしたの無銘?考えこんじゃってさ。」
「いや何でもない。真言詠唱の度に体にガタが来るから年かなと思ったのさ。」
「元々そういう風にいじくられて生まれたんだから仕方ないじゃない。十分あなたの呪詛は強烈よ。でも魔術以外を主体で闘うしかないのかもしれないわね。」
「そうだな。そうしないと身動きすら危うくなってしまうよ。」
「本当にお年を召したおじい様みたいね。私なんかより全然若いのに。」
「本当だったらナンバーズは二十歳をまたぐ前にほとんど死んでしまうからな。そういう意味では俺もとっくにお爺さんだよ。」
「大丈夫。まだ全然若作りで行けるわよ。」
「別に若作りするつもりはない。年相応にみられる事にも利点があるんだ。」
「それは分かるわね。私なんてどこに行っても御嬢様扱いだもの。あれ結構嫌なの。」
「そうだったのか、何も言わないで皆の事を叔父様って呼んでいるからあんまり気にして無いのかと思っていたぞ。」
「それは私なりの気づかいね。流石に場を乱すような発言はしないわ。皆見た目だけは本当に叔父様な訳だしね。」
「中身は皆少年のままさ。」
「ええ?あんなナイスなマスターも?」
「もちろん。彼にも人には言えない秘密の乙女趣味があるかもしれないぞ。」
「うわっ絶対知りたくないわね。」
「ミニチュア着せ替え人形ハウスとかを持っているかもな。」
「妙にリアリティがあっていやね。」
「御嬢様。お茶をお持ちしましたってやっていそうじゃないか。」
「激しくリュミエールに戻って確認したくなってきたわ。」
「全部終わったら一度またリュミエールに行ってみるか。」
「美術館とかも行ってみたいわね。」
「入場料が高そうで困る。」
「金貨一枚で済むかしら。」
「現実的なところ五枚じゃないか、あのあたりは貴族の住処だしな。値段もそれ相応だと思うな。」
「そうねえ。大分ドラゴン退治から話がそれたわ。」
「何だったか。」
「この目の前のドラゴンがファブニールじゃないかって話。」
「間違いなさそうだな。黒い肌に赤い目をしたドラゴン。」
話ながら歩いていたらいつのまにかクノート山の山頂に辿り着いている…目の前の邪竜から神声が解き放たれた。鼓膜が破れそうになる。
「ウグルルルルルルウルルルルウルルルル!人間!我が住処を犯した上に能書きを垂れるなど貴様ら!ふざけるな!蛆虫めが!喰らいつくしてくれるわ!我が名はファブニール!クノートの龍を統べる長なり!掛かってくるが良いわ。」
ファブニールはドラゴンブレスを放ってきた。咄嗟にエリーを護る。俺は黒焦げになって死にかけてしまった。早速役立たずか、た…立て直さないとな。
エリー…無銘に火炎弾が着弾した。丸焦げになる無銘。嫌な肉が焼ける匂いが辺りに立ち込めていた。私に出来る事は回復だけよ。出来る事をやるしかないわ。
「無銘!貴方こんなに焦げて死んじゃう!死んじゃう!」
エリーの詠唱!偉大なる癒しの加護を与え給え!主神イグドラシルよ!ヒーリング!
エリーは焦りながらも回復法術を使ってくれた。何とか俺は立ち上がる。
「エリー!元々勝てないような相手だ!呪詛をねじ込みまくれ!」
山頂に現在いるだけあり、周りはマグマが噴き出している。狭い平地での戦いだ。逃げ道があるようにも思えない。ドラゴンにも、俺達にもだ。打ち克ち進むしかない。
「了解!このトカゲ野郎!よくも無銘を傷つけたな!私の無銘を傷つける奴はこの世に居ちゃいけないんだ。くたばれ!真言詠唱連射で行くわよ!」
エリーの奥義が連射される。
エリーの詠唱!大いなる主神イグドラシルの巫女を穢すものよ!滅びるがいい!ミストルティンバースト!
エリーの詠唱!偉大なるオーディンよ!そなたの巫女を穢す究極の害悪現れたり。グングニルを借り受ける!未来永劫の時の狭間まで消え果よ!ヘルレイズスパーク!
エリーゼ・ハーン流活殺呪詛!終焉の扉開きし者よ。貴様の獲物だ。ギガンティックフレア!爆縮!究極霊爆!
ヤドリギがファブニールの顔面に張り付き、グングニルがその胸を穿ったうえで、雷撃の爆縮がファブニールを握る様に叩き潰した。
だが、未だファブニールは健在だ。
「虫けら!貴様らの技で俺を殺せると思ったか!愚かなり!人の子よ。何人の竜人族が死んだと思っているのだ。貴様らの屍もクノートに消えうせるのだ。メテオストーム!」
隕石の雨霰が降ってきた。エリーの手を引っ張り退避に専念する。
流石邪竜だ。タフネス。テクニック。パワー。全てが兼ね備えられている敵。
俺は攻撃の手を緩めない為にナイトイーターを構えた。
ファブニールのファイアブレス!ブレスの時を狙ってナイトイーター孔天開始!発射!
ファブニールの喉奥を弾丸が切り裂く!
「ぎゃあああああああああああああああきさまらああああああああああああああああ!」
苦しみ悶えるファブニール。
「エリー!ミストルティンバーストで動きを拘束しろ!連続詠唱!」
「了解!全体拘束開始!大いなる主神イグドラシルの巫女を穢すものよ!滅びるがいい!マルチミストルティンバースト!」
ヤドリギは大樹となり、ファブニールを何重にも拘束した。
流石にエリーのオドも限界に達したらしく疲労困憊の様だ。
俺は亜空跳躍をする準備をした。対象ファブニール背中。
亜空跳躍開始!ファブニールの背に飛び乗った。大樹で拘束されており、ファブニールは身動きをする事ができない。
ストームブリンガーを抜刀!その鋭利な霊刃でファブニールの首を撥ね飛ばした。
力なく地面に倒れるファブニール。その死体からは燃えるような鮮血が噴き出していた。周囲の温度が上昇する!ブクブクと煮え立つような血液。熱い熱すぎる。まるでマグマの中にいるようだ。長居は出来まい。
地面で息を切らしているエリーに話しかける。
「エリー!逃げるぞ。このままここにいると死ぬ。」
「分かったわ。腰が抜けちゃって。」
「おぶってやる行くぞ。」
エリーをおぶると俺はクノート山を下山し始めた。
会話をしながら降りる。
「凄く強いドラゴンだったわね。」
「しかも人間の言葉を喋るしな。驚愕した上に死にかけた。」
「今後私達何と闘うのかしらね。」
「神様や悪魔、黒歴史のアーマーにドラゴンか…俺達は今この世界で最強に挑むキャンペーンでもしている気分だな。」
「本当にそうよ。激しい戦いをしているわけじゃないけど何だか不安になっていくわ。」
「俺はエリーが俺なんかよりよっぽど強くなっているから安心できるよ。」
「そ、そうかしら。どう見ても貴方の方が強いけど。」
「魔術のセンスとオドの容量は確実に負けているからな。」
「そう?ナイトイーターとストームブリンガーを振り回せる時点で貴方の方が上だと思うな。」
「それよりも応用力のある魔術の方が羨ましいね。新しい魔術をその場で組んでしまうだろう。」
「あれは本当に偶然よ。私の内なる神殿から声が聞こえてくるの。きっとイグドラシル様のお導きだわ。」
「そうか、俺もネームレス様には助けてもらっているしな。毎日お祈りをかかさないでおこう。」
「私も世界の生末を見せて貰ったり、アイアスの楯を頂いたもの。死んで天界に行くとしたらキチンとお礼が言いたいわね。」
「そうだな。にしても俺は天界に行けるのかな?プリマスはどうも人間とエルフのハーフが行っても弾かれてしまう気がしてならない。」
「エルフ族は皆死後天界に行ける事を信じてるのだけどね。」
「俺達は闘う事だけだったから分からないな。」
「もし行けなかったら、私が導きの女神になってあげましょう。」
「そりゃ有難いね。まあいつまで生きていられるかも謎めいているが。遂に不死刻印も使い切ってしまった。」
「これから先は本当に慎重な戦い方が求められているわ。無銘。」
「承知している。君を護るためにもまだ死ねないよ。」
「私も貴方を護るために全力を尽くす。それぐらいしか出来なさそうだもの。」
「最初は俺が護っていたのだがな。」
「成長してそういう役割は入れ替わるものよ。これからはエリーお姉さんに頼りなさい。」
「そうさせてもらおうか。」
「あら、随分素直ね。」
「なんだか悪い気はしないそれだけさ。」
「アッいけないわ!どうしよう?」
「どうしたんだ?いきなりわめきだして。」
「ドラゴンの尻尾のお肉を取ってくるのを忘れたわ。」
「君って奴はドラゴンを食べるつもりだったのか?もう山も半分以上降りたんだし、あきらめた方がいいと思うぞ。」
「どうして?貴方は気にならないのドラゴンのお肉が?」
「いや気にはなるけど、そんなに無理をして食べたいとは思わないよ。それにマグマのような焼ける血が飛び散っていたんだ。とてもドラゴンの肉を回収できる環境じゃない。」
「折角のドラゴンのお肉がどうしましょう。」
「首長に頼めばいいんじゃないか?おかしい人扱いされると思うが…」
「竜人族の人に龍のお肉を食べさせてくださいっていうのは流石にナンセンスよ。」
「あっそういう感覚はあるんだな?」
この娘は素っ頓狂だ。今は戦闘狂なのに、前からの食いしん坊の癖が抜けきっていない。戦場の兵士でここまで食事に拘る奴は初めて見た。やはり種族エルフでは無くて種族エリーなのだろう。
あまりにも想像上のエルフとかけ離れすぎていて与える印象がまるで違ってしまっている。
何度も思い返されるほどこの娘の食欲は異常だ。びっくりさせられ続けている。
エリーはがっかりした様子で肩を落として話を続ける。
「まあもういいわ。竜人族の人達はいっぱい食べるみたいだから話も合うしね。」
「あんなにたくさんの食事を毎食出して来るとは思わなかったぞ。」
「朝からクロゲワギューステーキはびっくりしたわね。」
「しかも客人用だからとかじゃなくて皆一律でクロゲワギューステーキだからな。」
「流石の私も太るかどうかを気にするわ。」
「驚いたな。君が太る事を気にするなんて。」
「そのぐらい流石に量が多いのよ。減らしてもらおうかしら。」
開いた口が塞がらない。そのぐらい驚いた…他の人から見ると山道でいきなり呆けた人のように見えるかもしれないが俺を穿った衝撃はすごかった。
エリーが食事を減らしたいというなんて…
そんな日が来るとは思ってなかった。町から町の移動中ですら潤沢な食料が無いとブーブー文句を言っていた腹ペコ娘がなあ…
「何よ。急に固まって…そんなに驚いた?」
「一度君を知っている人がいたら話したいね。全員飛びあがって驚くはずさ。」
「く…なんか心外ねえ。」
「普段から食事への執着を減らす事だな。そうすれば自然と誰にも驚かれなくなるぞ。」
「それは分かっているんだけど、やはりお腹が空くんですもの。仕方がないわ。百六十年目の成長期よ。」
久しぶりに随分話し込んだ気がする。俺達はクノート山の麓で待機していた。ヴァンパイアとゴーストに乗り込むとランゴバルドの首長の屋敷まで帰っていった。
屋敷の首長の部屋まで行き首長に話しかけた。
「首長、邪竜ファブニールは無事討伐した。このストームブリンガーの血錆を証としよう。」
首長はとても驚いた様子で返答した。まさかファブニールを倒して帰って来たとは思わなかったのだろう。
「貴方達は真の勇者だ。あの邪竜ファブニールを葬り去るとは信じられない。何人もの竜人族の若者が暴れまわるファブニールを討つ為に犠牲になりました。この御恩にどう報いていいかわかりません。とても金銭だけの問題ではございません。今生私が生きている限りは何があっても竜人族は味方をすると誓いましょう。」
「そこまで言っていただきありがとう。首長にお願いがあるのだが、シャウヤーン連合地域のドワーフ族の領地を通り、プリマスに向かう道を示してくれ。」
「それは中々難しい問題ですね。ドワーフ族の領地まではお連れできますがそれ以降は彼らの流儀になります。彼らに真の勇者と認めさせるしかないでしょう。」
少し無銘は考え込んだが話を続けた。
「分かった。それでは領地の通行の許可を。」
「本当は簡単によそ者に通行の許可は出さないのですが、貴方は神託で導かれたうえにファブニールを討った勇者だ。許可を出さないわけにはいかないでしょう。ヴァンパイアとゴーストに案内をさせましょう。」
「ありがとう。今日本日を持って終生の別れとなるでしょうが、貴方達にレーヴェで助けていただいた事、この地ランゴバルドでの世話を見て頂いた事を忘れない。誓おう。」
「叔父様。私からもお礼を言いますわ。短い期間でしたが竜人族の皆様には良くして頂きました。ありがとうございます。お別れは名残惜しいけど…また天界でお会いしましょう。」
俺達は首長に別れを告げると、ヴァンパイアとゴーストに乗り、ドワーフたちの住まう境界線の集落、シャウヤーン連合地域、ドワルヘルムへと向かった。
戦闘神霊ヴァンパイアが口を開く。
「あんた達ともお別れね。短い付き合いだったけれど寂しいわ。」
「俺もこんな面白い戦闘神霊と別れるのは嫌さ。」
「面白いは誉め言葉じゃないわ。レディを褒める時は違うでしょう?」
「こんなに美しく可憐な戦闘神霊を失うとは名残惜しい。これでいいかな?」
「なんか納得いかないけど良いでしょう。」
「君ともっと風を感じていたかったよ。」
「もっと依頼があればよかったわね。」
「そうだな。別れるには本当に惜しい。」
「…照れるわね…」
「結構うぶなんだな。」
「バージンのヴァンパイアですもの。」
「そんな事を簡単に教えていいのか?」
「駄目に決まっているじゃない。」
「さあそろそろかな…」
「そうね到着したわ。野蛮なドワーフ族の領土、ドワルヘルムよ。ふざけた事で死なないでね。」
「承知した。じゃあな!お空の御嬢様!」
ヴァンパイアは名残惜しそうに自動操縦で飛び立った。ゴーストも行ってしまったらしい。
エリー…ランゴバルドにはあっという間の滞在だったわ。ドラゴンの尻尾ステーキが食べられなかったことは残念だったけれど仕方がないわね。また別の機会があればその時に食べるとしましょう。タコやドラゴンと闘ったのは今までの中でもかなりレアな経験だったと思うわ。まあタコは無銘が一人で片付けてしまったけれどね。ドワーフ族の領地では何が待ち構えているのかしらとても気になるけれど悪いようにはならないような気がするわ。ここまでも乗り切ってきたんですもの。
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